第5話 問い
「そんなの言われなくても分かってるわよ」
そいつはそう口にする。
俺は思考したことをそのまま言葉にする。
「だろうな」
俺はそいつの瞳を見据えながら、
「おそらく、お前がこの学校で一番それを分かっている、いや、実感しているはずだ」
「……」
そいつは何も言わなかった。沈黙を肯定と受け取り、代わりに俺が続ける。
「この学校で、これ以上このまま生きていくのはお前も限界のはずだ」
「……」
俺は続ける。
「だが、仮に全てを投げ出して退学したとして、待っているのは莫大な借金と真っ暗な未来だ」
この学校は特待生として学費を含むあらゆる費用が0になるが、それが”正式”に行われるのは年度を修了するタイミングである。
要は3月になりようやく1年間の費用を全て免除された事になり、それまでに学校を退学してしまうと、特待生として受ける”予定”だった学費等の免除は破棄され、1年間受けた授業、受けるはずだった授業などの費用を全て払う義務だけが残るという仕組みになっている。
「……だから学校ごと全部ぶっ壊そうってこと?」
「そうだ」
俺は即答する。どうやら話を聞いてみる気になったらしい。
「でも一体どうやるの?口で言うだけなら簡単だけど、この学校の警備は並大抵ではないのは知ってるでしょ?」
その通り。この学校は金だけは持っているため、当然防犯対策に掛かっているお金も尋常ではない。
基本何が起きようと何も干渉しない癖に、監視カメラは至る所に存在し、俺たち生徒を監視できるようにしている。生徒が一定のラインを超えたことを行えば、まず間違いなく、直ぐに学校側へ伝わり処分を下されるだろう。
そして、学校の存続に関わる事は間違いなく、
その学校が定めているラインを超えている。
何をするにしても、この警備を掻い潜れなければ話にならない。
俺はそいつがこの話に少し興味を持ち始めたのを感じながら、用意していた答えを紡ぐ。
「そうだ、だから他の人間を引き入れる」
「他の人を?」
そいつは顔を歪める。
「不安か?」
理由は分かっている。だが、あえて問い返す。
そいつは目を伏せ、
「………………まあ、……少し」
間が悪そうにそう答える。
確実に少し所ではないな、そう俺は思った。
だが答えただけマシか。そう簡単に受け入れられる事でもないのだろう。
俺はそいつの足元を見ながら言う。
「まあ、お前が思っているような事じゃない。引き入れると言っても上手くこちらで誘導するってだけだ」
「……………そう」
そいつは釈然としない様子で言う。
「そこから内部崩壊を狙う」
「……あくまで裏から動くということ?」
「そうだ」
俺は間を空けずに続ける。
「それで、お前はどうするんだ?」
俺はそいつにもう一度問いかける。