第2話 仕方ない
「貴方頭おかしいんじゃないの?」
そいつはそう答えた。それはそうだろう。会ってすぐにこんなことを宣う奴がいたらヤバいやつだ。
だからこそ俺は答えた。
「かもな」
そして続けて口を開く。
「だが今ここにいるお前も同じようなものだ」
「貴方みたいな人と一緒にしないで」
そいつは間髪入れずに言葉を吐き出す。
俺はそいつの足元に目を向け、煽るように言葉を捲し立てる。
「今、21時にこんな場所にいるやつは頭がおかしくなったやつじゃないのか?」
「ッ!何も分からない癖に知った様なこと言わないで!」
そいつの鋭い眼光が俺に向けられる。
「ああ、悪かったな、少し言い過ぎた」
俺は返答を待たずに続ける。
「それで、お前の返答は?」
「冗談でしょ」
そいつは嘲笑するように吐き捨てる。
「私がそんな事をする理由が何処にあるの?」
俺は少し沈黙し、答える。
「別にないな」
「なら──「けどどうせ死ぬ気だったんだろ?だったら乗る価値はあると思うんだが」
そいつは一瞬瞳を揺らした後、俺を睨み、
「勝手に決めつけないでくれる?ここに来たのはただの興味本位よそれ以上でもそれ以下でもない」
俺はそれを聞いて、少し考えた後、
「そうか、それは残念だな」
とだけ。
そいつは少し訝しげな目を向ける。
「ていうか、ここに来た理由はどうでもいいことなんじゃ無かったの?」
「ああ、そうだな別に死ぬ気が有ったか無かったは関係ない」
そいつは怒りを隠そうとせず吐き出す。
「ならわざわざ口に出さないでくれる?」
「悪かった、つい口が滑ったんだ」
そいつは更に怒りを顔に滲ませる。
暫くの間俺を睨み続けるが、俺がもう何も言わない様だと感じたのか、自分を落ち着かせるように瞳を閉じ、息を吐いた後、
「それじゃあ、私はもう行くわ」
そう言ったあと、屋上から立ち去るためにこちらにある扉へ歩きだし、俺の横を通り過ぎる───その直前俺はそいつの胸倉を掴む。
「──え?」
そしてそいつが素っ頓狂な声を出すと同時にそいつの体を床に叩きつける。
「…ッ!」
そいつは痛みで顔を歪める。
俺はそれを眺めながら、
「協力しないならここで死んでくれ」
ただそれだけをそいつに伝える。
俺がそう言うと、そいつは瞳に恐怖を纏わせる。そして、抜け出そうと暴れようとするが、それを力で押さえつける。
そこに今さっきまであった冷静さは無く、ただ焦りや怯えといった感情が支配していた。
「やめて!離してっ!」
そいつは必死に叫ぶ。
そいつの腕を強く握りしめると、そいつは苦悶の表情を浮かべる。そして、そいつが黙ったタイミングで頭の中から言葉を選び取る。
「協力しないならこのまま帰すのは危険だからな、悪いが俺のためにここで消えてくれ」
その言葉を聞いたそいつは暴れるのを止めた。力が抜けるのを感じる。そしてそいつは、全てを諦めたように、呟く。
「貴方もそうやって力で押さえつけるのね」
その瞳には失望と諦観が纏っていた。
俺はそいつの瞳をジッと観察し───
そいつから手を離し、立ち上がる。
そいつは驚いたような顔で、
「どういうつもり?」
そう言うのだった。