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6 マリアンヌ王女の目覚め


「マリアンヌ!」

「ようやく目覚めたか!」



目を覚ましたマリアンヌを見た瞬間、国王と王妃は歓喜の声を上げた。


1年間の昏睡状態から目を覚ました王女は、意識がはっきりしていない様子だった。だが、王妃に抱きしめられているうちに徐々にマリアンヌの目に力が籠っていった。



「私は眠っていたの?」


「そうよ。あのパーティーで倒れてから、1年も目を覚まさなかったのよ」


「1年も? カイエルお兄様は? お兄様は元気なの?」



マリアンヌの声を聞いた王妃は、ひどく動揺し、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。



「お兄様ってカイエルのこと? あなたに酷いことをしたカイエル?」



王妃は微かに震える声で尋ねる。



「酷いことをしたのは、私よ!」



マリアンヌは笑顔を浮かべ、無邪気に答えた。



「あの時、お兄様がジュースを飲もうとしていたのを、私が横から奪ったのよ! お兄様は嫌がったのに!」


「なんですって? 何を奪ったって?」


「お兄様のお誕生日ジュースよ」



その言葉に、宰相が凍りついた声を上げた。



「王女様が飲んだジュースは、カイエル王子様に用意されたジュースだったのですか? 

カイエル殿下がそう言っていたのですか?」


「そうよ。お兄様は、誕生日ジュースだと言われて、給仕からもらったと言っていたわ」


「では、狙われていたのは、カイエル殿下だったのか」



宰相がうめき声を上げた。

その場に居合わせた者はしばらく言葉を失って立ち尽くした。

国王や王妃は自分たちの思い違いに慄然とした。


王妃は感情を押さえて口を開く。



「つまり、マリアンヌが、あの時、カイエルのジュースを奪って飲んだのね?」



マリアンヌは無邪気にうなずいた。



「そうよ。さっきから、そう言ってるじゃない。私、どうしてもそれを飲みたかったの! だって、見たこともないピンク色のジュースだったんだもの。でも、お兄様から奪ったのは悪かったわ。折角お誕生日にもらったジュースだったのに」



その瞬間、王妃の瞳に一筋の涙がこぼれ落ちた。



「カイエル……」



小さな声でその名をつぶやくと、王妃はもう一度、体を強張らせて言った。



「カイエル……無実だったのね。マリアンヌではなくて、お前の方が、命を狙われていたのね」



駆け付けた王太子リオネルも、沈黙の中で立ち尽くしていた。


国王は、顔色がどんどん青くなり、震える手で椅子の背もたれを握りしめた。



「なんということだ……私たちはとんでもない勘違いをしてしまった……」



国王は愕然とし、ついにその恐ろしい事実を完全に理解する。



「カイエルが……あの時、命を狙われていたというのか? でも、どうして……」



国王は口を開けたまま、言葉が続かない。



「優秀すぎる第2王子は、いつの世も命を狙われるものです」



医師の言葉に国王と王妃の頭は真っ白になり、何もかもが突然、崩れ落ちるように感じた。




目覚めたマリアンヌの発言は廊下まで聞こえ、あっと言う間に王宮を駆け巡った。


カイエル王子は無実だったこと、命を狙われていたのはカイエル王子だったこと、そのカイエル王子を、国王や王妃がどれほど冷酷に扱ったか。



カイエル王子が妹のマリアンヌ王女を毒殺しようとしたことを、国王も王妃も疑いもせずそれを信じ込んでいた。

彼らはカイエル王子を「化け物」だと思い込み、ろくな調査もせずに断罪してしまった。カイエル王子が無実であるという可能性を微塵も考えなかったのだ。


その理由は何だったのか。

カイエル王子があまりに優秀な王子であったからという背景もあった。

王太子派の貴族たちにとって、才能あふれる第2王子は脅威だった。

国王と王妃が信じたのは、王太子派の貴族たちが流した噂話だった。



「カイエル王子は、優秀すぎて化け物じみている。このままでは王太子を排除して王位を狙うかもしれない」


「その上、嫉妬深い性質だ。両陛下の愛を一心に受けているマリアンヌ王女殿下を妬んでいると聞くぞ」



それらの言葉が、国王と王妃の耳にも入っていた。単なる噂話だと聞き流していたが、どこか、心の隅に引っかかる棘となっていた。


そしてカイエル王子14歳の誕生日に、王太子派の貴族たちは王子毒殺を実行した。


あの日、カイエル王子を毒殺しようとしたが、実際にはマリアンヌ王女が毒を飲んでしまった。

陰謀は失敗に終わったと思われたが、そのようにはならなかった。

真相を追及することなく、国王と王妃はカイエル王子を犯人として扱ったからだ。カイエル王子は死ななかったが、幽閉され排除された。

そうして、王太子派の陰謀は無事に成し遂げられたのだった。



その事実が、マリアンヌ王女の証言によって判明した時、国王と王妃は言葉を失った。彼らはもう、カイエル王子が無実であることを受け入れるしかなかった。罪悪感と後悔が彼らを押し潰しそうになる。



「どうして、私は、カイエルを信じてやらなかったのか……」



国王の声は絞り出すような、苦しそうなものだった。


王妃は顔を覆い、涙が止まらなかった。



「私は、取り返しのつかないことをしてしまった……」



彼女の心は裂けるような痛みに満ちていた。


そうして初めて、カイエルがあの冷徹な目をしていたのは、彼があまりにも傷ついていたからではないのかと気が付いた。


王太子リオネルは、早急に弟を救うことができなかった自分の不甲斐なさに、胸が締め付けられるようだった。カイエルを守れなかった自分を責める気持ちが押し寄せた。



「すぐにカイエルを貴族牢から解放しなければ」



王太子の発した声は小さかったが、皆の耳に届いた。




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