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4 国王と王妃 それぞれの想い


夜の王宮。

玉座の間には誰もいないはずだった。

けれど、そこには一人の男がいた。


国王ガルド。

椅子に腰かけるでもなく、ただ、暗い室内に立ち尽くしていた。


目の中に入れても痛くないほどに可愛がっていた王女が毒に倒れてしまった。いまだ、王女は目を覚まさない。


国王は王妃のことを考えた。


すでに、王妃の中でカイエルは、長い間「無邪気で優しい兄」を演じつつ、本当はマリアンヌを憎んでいた、恐ろしい怪物になっているようだ。


状況に激怒した王妃は、毒殺事件の調査全てを自分に任せるようにと、国王に願い出た。それで、少しでも王妃の気が晴れるならと、国王は毒殺事件の調査を王妃に一任した。



テーブルの上に目をやった。そこにあるのは、カイエルが14歳の誕生日に贈られるはずだった王家の剣。生涯王家を守っていくと誓う剣だ。

それが、未だ贈られぬまま、箱に収まっていた。



「カイエルは殺したいほどマリアンヌを嫌っていたのか。カイエル、お前はマリアンヌの何が気に食わなかったのか?」



国王は心で問いかけた。



「そう言えば、カイエルはなんて言っていたのだろう」



思えば、カイエルの供述について何も報告されていないことに、今更ながら気が付いた。


ガルドの胸に去来するのは、幽閉前夜のカイエルの顔だった。

泣くでも叫ぶでもなく、ただ呆然とした目でこちらを見ていた。



(まあ、王妃の調査でそれは明らかになっているはずだし、王妃が態度を変えないということは、そういうことなのだろう)



国王は、低く唸るように呟く。



「私も王妃もマリアンヌを溺愛していた。それがカイエルの嫉妬を招いたのだろうか」



重苦しい沈黙が降りる。

やがて王は、小さく吐息をついた。


誰よりも才に恵まれ、王家の誇りだったカイエル。



「カイエル……、お前は妹を毒殺しようとするほど、憎悪していたのか? もっと早く気づけばよかった」



その夜、王の部屋からは、明かりが消えることはなかった。





その頃、王妃は、静かな夜の王宮の庭を歩いていた。

庭園の花々が静かに咲き誇る中、彼女の心には嫌悪と不安の気持ちが渦巻いていた。



「カイエルが、マリアンヌを毒殺しようとしたなんて」



誰かに嘘だと言って欲しかった。だが、マリアンヌ王女が苦しんでいる姿が頭に蘇り、結局、確信が揺らぐことはなかった。



「本当に信じられない。あんなに可愛く、無邪気で、明るかったカイエルが、妹を毒殺しようとしたなんて」



王妃の中で、息子としてのカイエルが少しずつ「恐ろしい存在」に変わっていった。


そして、何よりも、彼女が愛してやまない王女が、カイエルの手によって傷つけられたという事実が、王妃の正気を蝕んでいた。






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