3 王太子リオネル
幽閉から数日後。
弟の身を案じて、王太子リオネルは貴族牢まで足を運び、カイエルと会おうと考えた。
「カイエルと話がしたい。貴族牢まで案内しろ」
護衛騎士たちは戸惑ったように視線を交わし、そして申し訳なさそうに頭を下げる。
「……申し訳ございません。両陛下より、面会は禁止とされています」
「父上と母上が?」
リオネルは眉を寄せる。信じられない思いだった。
疑われているとはいえ、まだ14歳になったばかりの少年だ。
それが、言い分すら聞かれぬまま幽閉され、たったひとりで、貴族牢にいるのだ。
「一体どうなっているのだ。父上も母上も正気なのか?」
護衛騎士たちは、顔を強張らせた。王太子の言うことはもっともだった。
だが、命令は国王と王妃、王太子派の貴族たちによって強く押し通されていたのだ。
『会わせるな。情によって王太子の感情が揺らぐことがあってはならない』
『心を鬼にして“切り捨てる”ことも、王太子として学ぶべきことだ』
そんな理屈ばかりが政務官たちの口から流れてきた。
「カイエルがどれだけ孤独な思いをしているか、わかっているはずなのに」
リオネルの拳は震えていた。
貴族牢の方角を見詰め、彼はただじっと立ち尽くす。
その向こうに、どんな顔で弟がいるのか、想像することしかできなかった。
(カイエル、お前を助けることもできない、無力な兄を許してくれ)
声は届かない。
それでも、兄は貴族牢の方向に祈るような思いを送っていた。
弟への面会を拒まれたリオネルは、まっすぐに王妃の執務室へ向かった。
扉を開けた瞬間、リリアナ王妃はリオネルを見上げ、眉間に皺を寄せた。
「リオネル。どうしてそんな顔をしているの」
「母上、カイエルに会わせてください」
直球の願いだった。
王妃の顔がピクリと引きつる。
「却下します。あの子に情けをかける必要はありません」
「母上、カイエルは!」
「“妹を毒殺しようとした子”よ。あなたから弟と呼ばれる資格はありません」
その冷たい言葉に、リオネルの喉が詰まる。
王妃は立ち上がり、ゆっくりとリオネルに歩み寄った。
「王太子であるあなたが、情に流されては困るわ。王族であるなら、私情ではなく大局を見るべきよ」
「あいつは、俺たちの家族でしょう! 本当に、マリアンヌを……?」
「あの子がマリアンヌに差し出したジュースに毒が入っていた。それだけで十分よ」
「たったそれだけで?」
王妃の目が怒りに揺らめいた。
「私だって信じたくはなかった! でも、私たちのマリアンヌは死ぬところだったのよ! カイエルのせいでね! あの時、あの子は信じられないような冷たい目で私を見たわ! あの目が忘れられないわ!」
「カイエルが、あんな目をしていたのは、父上や母上に、“疑われたから”じゃないのですか!」
リオネルがそう叫んだ時、王妃の目が揺れた。ほんのわずか、ほんの一瞬。
だがその感情を打ち消すように、彼女は冷たく言い放った。
「この話はもう終わり。あなたが次に王となる身なら、私たちの判断を尊重しなさい。さあ、もう出ていって」
扉を指さす王妃。
リオネルは拳を握り締めたまま、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
(……母上、カイエルが可愛くないのですか? 母上が可愛いのはマリアンヌだけですか?)
扉が閉まり、静寂が満ちた。