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幽閉王子と監禁令嬢~王子は公爵令嬢を救いたい  作者: ノエル
第3章 番外編 監禁令嬢
19/21

かつて王都の名門、グランディール公爵家には娘がいた。


名をセレスティア。銀の巻き髪と琥珀の瞳を持ち、幼い頃からその聡明さと気品で宮廷内にその名を知られていた。公爵家のただ一人の娘として、誰もが彼女の成長を期待し、見守っていた。


だが、運命はいつも、何の前触れもなくその姿を変える。


その年、セレスティアの母が体調を崩した。

「王都では騒がしすぎて、十分な静養ができないだろう」

そう判断した父公爵の命により、母は実家である辺境伯家へと戻ることになった。


そして夏の終わり、セレスティアは母の見舞いのため、一人で辺境へと向かうこととなった。


公爵家の馬車に揺られ、緑深い森を抜け、岩の多い谷を越える旅路。数日を要するその道中は、娘一人には過酷とも言えるものだったが、旅慣れた侍女と護衛がつき、何より彼女自身が気丈であったため、大きな問題もなく進んでいた。


一方その頃――


辺境伯家の城では、彼女の到着に先んじて運ばれてきた荷物が整理されていた。

その中には、彼女の装束や装飾品が丁寧に詰め込まれた衣装箱もあった。


細工の施された銀の鍵を開けた使用人たちは、思わず目を見張った。


「なんて美しいドレス……」


金と白のレースが編み込まれた舞踏会用のドレス、淡い水色の散歩着、刺繍入りの手袋や扇子。それらはどれも、公爵家の娘にふさわしい、気品あふれるものであった。


そこへ、城を訪れていた町娘が一人、好奇心から足を踏み入れる。


「……ちょっとくらい、いいよね」


悪戯心と憧れが混ざったその行動が、すべての始まりだった。


娘――エレンは箱の中からドレスを選び、鏡の前でくるりと回った。

まるで舞踏会の姫君のように――と、彼女自身も思った。


そして、その姿のまま、何気なく城の中庭を歩いた。


「……あら、あれって」

「まさか、公爵令嬢?」

「いつの間に到着されたの? あのドレスは……」


使用人たちはざわつきながらも、箱の中身を知っていたこともあり、すぐに彼女をセレスティアと信じ込んだ。


エレンは驚いた。だが、すぐに気付いた。

――このふりを続ければ、夢のような日々が手に入るかもしれない。


芝居小屋で生まれて役者の卵だったので、エレンは芝居が得意だった。

よし! しばらく私は公爵令嬢を演じよう。

公爵令嬢になりきって歩いてみた。


「あの物腰、やはり、あの方はセレスティア様のようね」

聞こえてきた使用人のその言葉。


セレスティアという本物の令嬢が来たら、こっそり逃げればいいわ。

辺境伯城で公爵令嬢として過ごす経験なんて、これを逃すと一生できないもの。


それが、狂い始めた運命の、最初の一歩だった。





エレンは、すっかりグランディール公爵令嬢になりきっていた。

それが後で恐ろしい事件を巻き起こすことなど気づきもせずに。

まるで最初からそこに生まれ育ったかのように、城の回廊を歩き、微笑み、使用人たちに指図を与え、紅茶を飲み、昼下がりの庭を優雅に散策してみせた。


誰もが疑わなかった。いや、疑うことすら思いつかなかったのだ。衣装箱に詰められた美しいドレスが、彼女に偽りの威光を与えていた。




そして――。

翌朝、ようやく城へ到着した本物のセレスティアは、旅装のまま応接室で待たされた。

辺境伯である祖父が外出中のようで、戻るまで時間がかかるらしい。同行した公爵家の者たちに、もうよいから帰るようにとセレスティアは鷹揚にいった。

雲行きが怪しくなっている。天気が崩れる前に、森を抜けた方がよいと、セレスティアは判断したのだ。

護衛も侍女も、セレスティアの言葉を受け入れた。すでに、目的地である辺境伯城の応接室にいるのだから、なにも問題はないと思った。



彼らが帰って行って、しばらく経った。


上級使用人という風情の女がやってきた。


「お前は誰なの? グランディール公爵令嬢を語るとは不届きな」

「何を言っているの? 私が、セレスティア・グランディールで――」

「この女を摘まみだしなさい!」


誰も耳を貸そうとはしなかった。

使用人たちは彼女を詐欺師と罵り、騎士たちは腕を掴んで外へ連れ出した。

冷たい石畳の上に投げ出された彼女に残されたのは、埃にまみれた小さな鞄だけだった。


泣きも叫びもせず、ただ呆然と歩き出したセレスティアの前に、古びた幌馬車が止まり一組の中年夫婦が現れた。

その目は品定めするのようにレティーナを眺めていた。


「へぇ、これはまた……とんでもねえ拾いもんだな」

男は女に囁いた。「こいつは、ただの貴族じゃねぇぞ。相当な上等品だ」


気づいたときには、彼女は古い小屋の奥に押し込められていた。

セレスティア・グランディールの名前は、そこで消えた。


本来ならすぐにでも国外へ売り飛ばされていたはずだった。

だが、セレスティアにとっては幸運なことに、その頃隣国の王子が書置きを残して姿を消し、隣国王家は大騒ぎとなっていた。


国境には厳重な検閲が敷かれ、密輸人も人身売買商人も入り込めなかった。女は嘆き、男は舌打ちを繰り返したが、二人は彼女を手放すことなく、監禁を続けた。


逃げ場も、助けもなかった。

それでも、唯一の救いがあったとすれば、女の異常なまでの嫉妬深さだった。


「アンタ、一人でこの子と話すんじゃないよ」

「目を合わせないで。触れちゃダメ。嬢ちゃん、あんたも、私の男に、色目を使ったら許さないよ」


女は決して夫とセレスティアを二人きりにはさせなかった。

だからこそ、彼女は身体を傷つけられることなく、たまに受ける暴力に耐えながら、生き延びることができた。


その命が、いつか光の下に戻れると信じて。




「聖女は世界を救わないと決めていた~「みんなで一緒に死にましょうよ!」と厄災の日、聖女は言った」

公開を始めました。こちらもよろしくお願いします

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