8.金貸屋アイリスと
アイリスは貸金ギルドを辞めて、「金貸屋アイリス」を始めた。
貸金ギルドの新しいギルドマスターが、そこそこ信用が出来て借り入れできなくて困っている人に、元ギルドマスターのアイリスに相談するようにと話をしてくれることになっていた。
***
「ふうー。これで荷物全部?」
「貸金ギルドとリンメのところとそれほど遠くない物件があって良かったわ」
小さな建物だが3階建ての一軒家に、引っ越し業者がたくさんの荷物を運び込んでいた。ひととおり荷物を搬入して、引っ越し業者は帰っていった。
引っ越しの手伝いにロンタとレイジも手伝いに来ていた。ロンタもレイジも大好きなアイリスさんと会えるのは楽しいようだ。
「リンメが忙しいときはうちに来るといい」
アイリスがにこにこして言うとロンタがうなずいた。
「アイリスさんは掃除が苦手だから、掃除に来てあげるよ」
「仕事部屋だけ片付いていれば何とかなるだろ」
アイリスが得意げに言ったらリンメに困った顔をされて、ロンタに苦笑いされた。
「子供の教育上よくないだろ」
「かもな」
アイリスは笑ってロンタに詫びながらよろしくたのむよと言っていた。それぞれ荷物をアイリスに確認しながら各部屋に運び込んだ。
大体荷物を運び終わったら、アイリスがみんなに声をかけた。
「荷を解いて片付けるのはぼちぼちやるからいいよ。ご飯にしよう」
仕事部屋のテーブルに、買い込んでおいたパンや串焼き肉にリンメがお茶を入れてきた。カップはお客様用を使いたくなかったので、コップやら椀やらいろいろだ。
「せめて4人分の食器がほしいな」
「あ、じゃそれ引っ越し祝いのプレゼントに用意するよ。カップとちょっとした食事に使う皿に椀、フォークスプーンくらいかな」
「いいね。楽しみだ」
みんなでご飯を食べて、ロンタとリンメで後片付けをしたら、アイリスとレイジがソファーで寝ていた。
「くたびれたんだね」
「レイジ帰るよ」
レイジはふにゃふにゃしていて起きない。ロンタが背負って帰ることにした。
「アイリスを起こしたくないけど、鍵を閉めてもらわないといけないからな」
ふにゃふにゃアイリスを起こして、なんとか鍵を閉めてもらった。
***
自宅に帰り、リンメはレイジを寝かせて、今回の王都からの通達のことをロンタに説明した。
「今後、今までとは少し違う貸し付けの方法になるから、一緒に勉強していこう」
「回収できなかった場合の差し押さえと、増える会費がコワイね」
ロンタはぶるっと武者震いした。
「あと、しばらく毎日アイリスに会いに行こうと思うんだけど」
「レイジも連れていけるから、夕方剣の訓練が終わったら寄ろうか」
「そうだね。それなら仕事にもかぶらないし、場合によってはご飯も一緒でもいいかもね」
「アイリスとみんなで一緒に作るのも楽しいかもね」
ロンタはうきうきしている。
「まあ、まずは明日食器類を引っ越し祝いに買いにいこう」
「うん。僕も行く」
「もちろんだ。レイジもだ」
今夜は疲れているので、貸金屋の勉強はやめて、はやめに休むことにしてロンタは部屋に帰って行った。
リンメは、ふーっとため息をついて、寝間着に着替えてベッドに入りながら、これから始めようとしている闇金屋の計画を考えていた。
いくつかつながらないところはあるが、大体の構成が出来あがった気がした。
明日アイリスに相談してみよう。それと、カゲツに変異をしっかり仕込んでもらわないとできないことだから、カゲツにも相談してみよう。
***
「こっちのほうがいい」
「これ?」
「うん」
みんなで雑貨屋に来て、お皿やカップとかスプーンやフォークを選んでいた。レイジがなかなかいいセンスをしている。相談するとすぐ決まって助かる。
布の風呂敷に、割れないように持参した書き仕損じの紙を当てながらぎゅつとしばった。
リンメが持とうとしたら、ロンタが持ってくれた。スプーンとフォークの小さな包みを作ってレイジにも持ってもらった。
アイリスの家に着いたら、今日買ったばかりの食器をさっそくきれいに洗った。今日のご飯から使えるぞ。
「ふーん」
「まだ、だいたいなんだけど、こんな感じでどうかな?」
木切れに書き出しながら、リンメはアイリスに説明していった。
「やってみないと何とも言えないけど、リンメにかなり負荷がかかるのと、準備というか訓練というか練習が必要なんじゃない?すごくむずかしそう・・・」
「まあ、それはがんばるとして、王都から取り締まりを受ける危険は、アイリスに集中することになるしね」
ふたりでうなりながら、でもおなかがすいてきたのでご飯を作りましょうと台所に向かった。
みんなでご飯をわいわい作って、わいわい食べておなかがいっぱいになると、ロンタとレイジが船をこぎ出して、ソファーで寝てしまった。
お酒をもってきたアイリスが言い出した。
「問題は発生したら考えるとしてやってみよう」
「そうだね。カゲツが湖の孤島に塔を持っているし、あとは私の練習というか訓練がカンペキになればいいんだものね」
「あと、今夜は二人を泊めてやってくれないかしら?さすがに私までは泊る場所はないだろうから帰るけどね。ちょうどいいからカゲツに相談してみるよ」
「明日の朝、二人を迎えに来るね」
手を振ってリンメはひとりで帰ることにした。