7.貸金ギルドの会合
貸金ギルドに、たくさんの金貸屋が呼び出されて会合が始まった。
「今日来てもらったのは」
ギルドマスターのアイリスが、王都からの羊皮紙の命令書を部下に持たせて読み上げた。
ざわざわと金貸屋たちは騒ぎ出した。
「ようは、王都は「魂」を担保とする契約を、今後認めないということだ」
「なぜ?」
「担保が無ければ大した貸し付けもできないじゃないか」
「悪魔との契約をどうするんだ」
みんながうろたえて騒ぎ出していた。
「現在ある契約を最後に、「魂」の担保が禁止される。魂が悪魔に合成魔獣の材料として利用されることは、人民に危険だという判断がなされた」
アイリスは、王都の命令書を指さしながら説明した。
「では担保としてよいものは、土地・建物・魔道具等・借主や保証人を奴隷として売却すること。これだけですか?」
「まあそういうことだ。魂以外なんでもということだ」
「困ったことに、これに違反したものは、貸金ギルドから排除され、金貸屋の継続が不可能となる」
ざわっとした。
「貸し付けする金額はかなり小さいものとなってしまうだろうな」
「不動産屋や魔道具商とつながらないと」
パンパンとアイリスが手をはたき注目を集めた。
「まあ、いろいろ意見が出てきておるが、7日後にもう一度集まって、貸金ギルドとして何をすべきか、ギルド会員が何をすべきか話し合おうじゃないか」
みんなぶつぶつ言いながら貸金ギルドを出て行った。
リンメも帰ろうとしたら、アイリスに呼び止められた。
「ロンタとレイジは元気でやってるけど、なかなか連れてこれなくてわるいね」
「いや、しばらくざわざわしそうだから、暇をみて会いに行くよ」
「そうだね。そのほうがいいかもね」
アイリスがぐいとリンメを抱き込んで、小さな声で囁いた。
「まあ、これはここだけの話だけど、あんた闇金やらないか?」
「・・・」
「あんたは悪魔と人間のハーフで、悪魔のガゲツと切っても切れない縁がある」
「そうだね。でも、ロンタとレイジを預かっている間は、無茶はできないよ。あたしひとりなら何とでもなるだろうけどね」
アイリスは苦笑いしながら手を離した。
「まあ、そうだな。ふたりのために無理は禁物だな」
「うん。まあ、・・・すこし考えてみるよ」
リンメはじゃあと言って貸金ギルドを後にした。
***
夜になって、ロンタとレイジが寝静まった後、カゲツがやってきた。
「カゲツさ、不動産屋とか知ってる?」
「おう。付き合いあるぞ」
「やばい奴?」
「そこそこな。まあ、ちょうどいい悪さじゃないか?」
「こんど紹介してよ」
「ほう。なんでだ?」
カゲツに貸金ギルドに王都から来た命令について話した。
「「魂」を担保にできなくなるのか?」
「うん。貸金ギルドではね。いまアイリスと相談中なんだ」
「何を相談してるんだ?」
「契約金の支払いと、約束手形の回収管理は貸金ギルドの口座がやっていている」
「うん」
「けれど、「手形法」は法廷が絶対支払義務を謳っている」
「うん」
「契約だけ裏契約を作って、表向きの契約書と約束手形を貸金ギルドに提出すれば」
「ほう!」
「約束手形だけは法廷の権限だから、これさえ取れれば回収は絶対安全なんだよね」
「なるほどな。あとは裏契約した契約書をどう隠すかだな」
「まあ、もうすこしアイリスと詰めてみるよ。それより、普通の貸金契約は、不動産屋から貸付依頼が来たり、魔道具屋から貸付依頼がくるわけだけど、仲良くなっておかないと仕事が回ってこないだろうしね」
「そういうことで不動産屋なのか。魔道具はいろいろありすぎて価値の算定も難しいぞ」
「魔道具はよくわかんないしなぁ。担保にしても難しいよね。小さいものは所有権設定自体無いしね」
「どちらにしても面白くない商売だな」
「まあね」
リンメはふと気が付いた。
「で何の用?」
「いまさらか。来た途端不動産屋の話をしだしたくせに。霧散の練習するかなと思って来たんだけどな」
「あ、やるやる。ひとりだと怖くて出来なくてさ」
「だろうな」
あきれ顔でカゲツは大あくびしていた。
***
貸金ギルドの会合の日になった。ほほ全員集まって、いろいろな意見や提案が出た。
貸金ギルドで、差し押さえ部隊を5~6人用意して、ギルド会費から雇うことになった。頭数不足は会員が交代で役割分担することになった。
契約の方法も、契約時に法廷にて不動産等の抵当権を設定して、完済と同時に抵当権解除を行う書類を整えておいて、貸金ギルドの職員が法廷に手続きする。
貸金ギルドでは、人をけっこう増やさないとならないのと、会費がかなり高額になるだろうと試算に入った。
そのかわり、どこの貸金屋が約束手形の不渡りを受けても、貸金ギルドとギルド会員が一丸となって抵当権の執行を直ちに実行する手続きが一連の業務として確定した。
大体決まって来て、しばらく月一回くらい、みんなで話し合おうと決めて解散となった。
「このあいだのことなんだけど」
リンメがアイリスに声をかけた。
「おお。ちょっとこっちに」
アイリスが応接室に案内してくれた。
応接室に入り、アイリスがお茶を入れてくれた。
「はいどうぞ。わたしは貸金ギルドを辞めて、「闇金ギルド」を作ろうと思う。カムフラージュとして「金貸屋アイリス」を作ってそこをベースにする」
にんまり笑いながらアイリスは続けた。
「受付は顔を変えられるあんたしかできないと考えている。別人として貸金屋を作って、どこまでできるかちょっといろいろ詰めてみるから、まとまったらお宅に行くよ。ロンタとレイジに会いたいからな」
リンメは少し考えながら、頬杖をついてお茶を眺めた。
「王都がどこまでやる気なんだか、そこも調べたいよね。
苦情が出たからとりあえず・・・程度だったら、追及もなさそうだけど、そうじゃなければやばいからね」
アイリスはお茶をおいしそうに飲んで言った。
「そっちは調べているところだ。カゲツにも聞いてみてくれよ。顔広そうだからな。私もイシゲに頼んで調べてもらっている。あーイシゲは私の悪魔ね」
「わかった聞いてみる。じゃあ、今日のところは帰るね」
リンメは貸金ギルドを出て、急いで金貸屋ユウに戻った。
剣の稽古も終えて、戻っていたロンタとレイジはなかよく洗濯物を畳んで、着られなくなった小さい服を風呂敷に包んでまとめていた。
「大き目な服を持ってきたから、小さくなった服をサガの家に置いてきます」
ロンタがそんなことを言うから、リンメは不思議に思って聞いてみた。
「サガの家に小さい服を置いてどうするの?」
「ある程度まとまったり、服を買うときとかに、服屋にもっていくと買い取ってくれるんですよ」
「へえ。知らなかった。こんどユウの服も持って行ってみようかな」
「汚れが少なければ結構いい値段で買ってくれますよ」
ロンタはすこし誇らしげに説明してくれた。
「今度一緒に行こうか。ロンタもそろそろ新しい服欲しいものね。ズボンや袖が短くなってきてるからね」
「はい。お願いします」
「ぼくのは?」
レイジがリンメにくっついてきた。
「レイジの分は、下着と靴下を買いに行こうね」
レイジを抱き上げてリンメはグルンと回って答えたら、レイジはキャッキャと声を上げた。