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5.「金貸屋ハガ」の仕事

アイリスさんが帰って、風呂に入って疲れて寝たロンタとレイジを確認して、リンメは1階に戻った。


鍵のかかる部屋にとりあえず入れた「金貸屋ハガ」の契約書の写しはそのままにして、契約リストと帳簿を取り出して机に着いた。魔道ランタンの光を強くして、リストを眺めた。


向こう10年くらいは入金がある。ロンタが10歳。あと5年で仕事を覚えれば、入金が尽きるまで5年の猶予を残して「金貸屋ハガ」を再開できる。


貸金契約は、契約書に押された「印」がその効力を実行する。その「印」は悪魔が作ったものだ。

「金貸屋ユウ」はカゲツが「印」を作ってくれた。


ようは「金貸屋ユウ」の契約に支払不履行があれば、カゲツが魂の回収に自動的に入る。


「金貸屋ハガ」は、悪魔トキと契約していた。


「ねえカゲツ。これカゲツに頼むことってできないんだよね」

「普通はできないな。トキに合わせてやるから自分で聞いてみろ」


ここのところ、カゲツは呼べはすぐに出てきてくれる。見張られてるのかな。


「いや。怒らせたくないからこのままでいいよ。明日来てもらうようにおねがいできるかな?いずれロンタが引き継ぐことになるから、顔合わせもかねてお願いします」

「おまえが殊勝にすると気持ち悪いな」

「うるさい」



***

朝から契約リストと契約書の写しを二人がかりで突合して、なんとか午前中で半分終わった。

レイジはこっちの様子を見ながら、自宅から持ってきたおもちゃで遊んだり昼寝したりしていた。


かんたんな昼ご飯を3人でにぎやかに食べて、これもいいかもなぁとか感じながら、スープをこぼしてぐちゃぐちゃになったレイジを着替えさせていたら、悪魔のトキがやって来た。


悪魔に男も女も無いのだけれど、トキは黒いドレスを纏い、グラマラスな艶っぽい女の姿をしていた。


「お取込み中失礼するよ」

「いえ騒がしくてすいません。「金貸屋ユウ」のリンメと申します。顧問はカゲツです」


「私はトキという。先々代から「金貸屋ハガ」の顧問をやっている。まあカゲツには借りがあるからな。悪くはしないぞ」

「ありがとうございます。これはいずれ「金貸屋ハガ」を引き継ぐロンタです。若輩者ゆえ勉強中です」


「ロンタです」

「父親似だな。よろしく頼む」

トキはふっと優しい微笑みを浮かべた。こう見ていると悪魔ってホントに悪い魔物なのか悩むなぁ。


「帳簿を確認しましたら年間金貨120枚でお世話になっていたようです。そしてそろそろお支払いしないといけないのではないのでしょうか?」

「そうだ。そろそろだ」

トキはリンメを横目にうなずいた。


「では、貸金ギルドに出向いて口座から金貨を引き出しましょう。お呼びしたら来ていただけますか?」

「わかった」


「ロンタ。レイジを連れて貸金ギルドに行こう」

「はい」


リンメと眠くなったレイジをおぶったロンタは、貸金ギルドで「金貸屋サガ」の口座を確認した。充分残高もあったので、金貨120枚引き出した。トキを呼んだらすぐ来てくれて、そのまま支払った。


アイリスさんも出て来てくれたが、起きないレイジに笑いながら手を振ってくれた。帰りは交代でリンメもレイジをおぶりながら帰った。


途中でパンと肉と野菜を買ってロンタが持ったが、その時にはレイジが起き出し、荷物を一緒に持つんだと張り切っていた。


帰って、リンメとロンタは残りのリストと契約書の写しを突合して、今日引き出した金貨120枚をロンタが帳簿に記入した。


ひとつひとつ金貸屋の仕事を説明していった。ロンタはずっと両親がやっていたことを見ていたが理解はしていなかった。でも、自分が見ていたことがそういうことだったのかとあらためて納得していた。


「この契約の期日ジャンプですけど、今10回目で、あと2回ジャンプしたらどうなるんですか?」

「それで期間は終わりだから、期間内の日付にジャンプするか、支払不履行になるかは客次第だよ」


「支払い不能になったらどうなるんですか?」

「契約書の「印」が発動して、契約書に書かれた人の魂が回収される」


「その「印」の管理をトキさんがやってるんですね」

「そうだよ。その管理費がこのあいだの年金貨120枚ってやつだけど、回収された魂は悪魔に買い取られる。

その値段は悪魔が付けるんだけど、私の経験では一番安かったのが金貨500枚、高かったのが10,000枚だったよ。母のユウは100,000枚の魂を一回だけ見たことがあるって言ってたなあ。一番多いのが1000枚かなぁ」


「だから支払不履行になったとき、プラスになるかマイナスになるかはもう運しだいみたいなところはあるね。なんとか金貨1000枚くらいまで回収しないとけっこうじり貧になるかな」

「なるほど。その買い取られた魂はどうなるんですか?」


「わたしも詳しくはわからないんだけど、魂はほとんど無色透明で、それらは合成魔獣の作成に使われるってことらしいんだよ。

で、色が付いている魂の暖色系の魂は、悪魔が食べるらしい。冷色系は魔王に奉納されるらしいから、その後はわからない。

で、高値が付くのが金・銀・黒の特殊な色の魂らしくで、特殊な魔道具を作るのに使うらしいよ。魔剣とかね」

「きついですね」


「そうだね。まあ、魂を賭けるなんて相当の覚悟を持って借りてるんだろう。人間とはすごいね」

「そうですよね」


「あれレイジは?」

「あれ?」


探しに行ったら、どうも漏らしてしまったらしく、自分で着替えて、汚れた服を洗おうとして風呂場でずぶぬれになっていた。子供ならわんわん泣いてもおかしくないと思うけど、レイジは自分でなんとかしようとしていた。


「そうか。大変だったな。でも偉いぞ、頑張り屋だ」

リンメはレイジの頭をぐしゃぐしゃに撫でて褒めてやった。


「でもな、まだ小さいんだからそんなに頑張らなくてもいいんだぞ。汚れたらそこのかごに入れときな。私かロンタがまとめて洗濯するから」

「いまは干す時と畳む時に手伝ってくれよ。もう少し体が大きくならないと洗うのは無理だよ」

ロンタも膝をついて正面からレイジの目を見ながら諭した。

「うん。わかった。ごめんね。よごしちゃったの」

「いいんだよ」

ロンタはびしょびしょになったレイジの服をはいで、乾いた布でよく拭いてあげた。

そのあいだにリンメが着替えを取りに行ったが、もう小さくなっていることに気が付いた。


「これさぁ、そろそろもう一回り大きい服を買った方がよくないか?」

リンメが聞くと、ロンタが首を振った。

「実家に僕の小さい頃の服が残っているはずだから、取りに行ってくるよ」


「そうか。ふたりで行っておいて。もう暗くなるから、明日ね」

「うん」「うん」

ふたり同時に返事をして、見つめあってにこにこしていた。

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