4.ロンタとレイジ
リンメは貸金ギルドに来ていた。
口座の状況の確認と、とりあえず自分の身を守ることは出来そうだけれど、護衛とかを雇った方がいいか相談に乗ってもらうためだ。
窓口で相談に乗ってもらおうとしたら、なぜか応接室に通された。継承したての新人貸金業者に、貸金ギルドマスターが出て来た。なんだろう。
「変異ができるようになったので、この顔と姿で店舗の運営をしようと思っています」
気を取り直して、リンメは40歳になって見せた。物理攻撃も分散できることを説明した。
「おお。で、攻撃からも身を守れるのなら、護衛はいらないんじゃない?ここまで逃げてくればいいじゃない?」
貸金ギルドマスターの妙齢のアイリスさんが、にこにこしながら席を立ち、もみ手しながら隣にやってきた。
「そ こ で。相談があるのよ。「金貸屋ハガ」の話を聞いたことある?」
「いいえ?なにかあったんですか?」
「ちょうどユウのすぐ後に、「金貸屋ハガ」の経営者と奥さんが殺されちゃってね」
「まあ。うちも大変でしたけど、大変ですね」
「そうなのよ。10歳と3歳の男の子を残してね、とりあえずうちで保護してるんだけどね、子供の社会教育と、金貸屋を継承させないといけないから事業教育が必要でね」
「はあ」
「ギルドマスターは結構ハードな仕事だから、子供を見てあげられなくて、だれかかわりに引き受けてくれる人を探しているのよ」
「はあ」
「「金貸屋ハガ」は結構な契約持ちで、それを管理しながら、収入も確保してあげながら、教育もしないととなるとやはり同業者に頼むのが最適じゃないかと思ってね」
「・・・」
「もちろん管理代行手数料は出せると思うのよ。口座の管理も込みだしね」
「・・・」
「孤児院に預けるには、「金貸屋ハガ」の権利が多くて、なかなか難しくてね」
「・・・」
「どう?やってみない?」
「えーと」
真横から両手を握られて、こっちは40歳の見た目にはなってるが、中身は15歳である。
管理をしてあげる代わりに、手数料を少しいただいて、そこから二人を育てながら経営のノウハウを教え込むと言われても。
収入は魅力的な話だが、リンメは自分のとこで手いっぱいでと断ろうとしたら、
「おもしろそうではないか」
カゲツが突然あらわれた。
「名前は何というのだ」
「10歳がロンタ、3歳がレイジという」
「では、ロンタを5年で仕込めれば独立も可能だし、仲間としていい協力者になるだろう」
と言い出した。
「いや、その子供と言われても、その、育てたことないし、生んだこともないし」
「わたしもだ」
にこにこしながら貸金ギルドマスターのアイリスさんが握った手をぎゅっとしてきた。
「貸金ギルドは今後も「金貸屋ユウ」をとても優遇するよ。ぜひぜひ頼めないかな?」
「やってみろ。ぜったいに損は無いぞ」
「ええ~・・・」
と、言いたいことだけ言ってカゲツはどろんと消えた。
ということで、ロンタとレイジが応接室に連れてこられた。
「えー。私は「貸金屋ユウ」を引き継いだばかりのリンメと言います。15歳です。悪魔と人間のハーフで、見た目をこんな風にして商売していこうと思っています」
40歳になったリンメを見せた。ロンタはびっくりして、レイジはきょとんとしていた。
「わたしと勉強しながらやって行きたいですか?いやなら断ってください?」
ロンタはアイリスさんを見ながら不安そうにしていたが、
「実は前々からアイリスさんにリンメさんのことを聞いていました。怖い人なのかなと思っていましたが、普通の人なんですね」
「前々から・・・」
リンメはちろとアイリスさんを見たら、そっぽを向いてにこにこしていた。
「いやね、同じ境遇で、歳も近いし、協力して頑張ってくれないかなーなんてね・・・ははは」
アイリスさんは正面の席に移動して、こほんと咳をして座りなおした。
「リンメがね、「貸金屋ユウ」の仕事のほとんどをこなしていたのを知っているからね。仕事は問題ないだろう。教育もいつでも頼ってくれ。3人でどうか乗り越えてくれ」
「・・・「貸金屋ユウ」を間違えなく優遇してくれるんですね?」
リンメが手を腰に席を立った。
「おうよ。まかせておけ。あとは、ロンタとレイジがどうしたいかだね。何日か考えるかい?」
アイリスさんがやさしくロンタに声をかけた。
「ううん。アイリスさんが一番いいと思うと言っていたから、まずはお世話になりたいです。けど、だめだったら戻ってもいいですか?」
ロンタがアイリスさんをまっすぐ見て言うと、アイリスさん心打たれちゃったみたいでビクンとしていた。
「いいさ。いつでも。戻ってこい」
アイリスさんは優しい微笑みを浮かべてロンタの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
「じゃあ、やってみようか」
「どうぞよろしくお願いします」
ロンタが頭を下げた。手をつないでいたレイジがきょとんとしながらきょろきょろ見ていた。
「では人手を出して、「金貸屋サガ」から、ロンタとレイジの着替えと生活用品をそちらに運ぶから。明日でいいかな?今日はお別れ会だな」
「部屋はありますが、寝具をお願いできますか?小さなものはあとでとりに行くこともできるでしょうから」
貸金ギルドの人たちが、「金貸屋サガ」に、「金貸屋ユウ」の地図を乗せた、しばらく営業場所を移転しますと書かれた看板を置いた。
リンメの家の「金貸屋ユウ」の看板の横には、真新しい「金貸屋サガ」の看板が設置された。
「臨時休業」の張り紙のままのリンメの家に、ふたりの荷物も運びこまれて、ロンタとレイジがアイリスさんに連れられてやって来た。
「3階がふたりの部屋で、続き部屋だからね。1階が金貸屋。2階が私の部屋」
「はい」「はい」
ロンタとレイジが同時に返事をして、ふたり見合わせてにこにこしていた。
アイリスが「金貸屋ハガ」の契約リストを作って来てくれて、契約書の写しの束を渡された。
「まずは、これの突合だね。お部屋の引っ越し荷物の整理が終わったら、ロンタといっしょに突合したいんだけど、どうかな?」
リンメが聞くと、ロンタは目をぱちくりして
「はい!いいんですか?僕がやっても?」
「もちろん表立っては私が動くけど、管理や運営はやってもらうからね。だってあなたの両親の財産なんだからね」
「はい!がんばります」「ます」
レイジもつられて叫んでいた。
「あと、これこそ落ち着いてからでいいんだけど、私たち金貸屋は自分で身を守れなければ、私の母やあなたたちの両親のようになってしまう。
だから、護身のための剣技とか武道とかやりたいことがあれば、ひとつでも習得してほしい」
「・・・そうなんですよね。父は剣を持っていたけど、腕はありませんでした。母も短剣を持っていたけど、何も使ったことがありませんでした。なにがいいか考えてみます」
「剣がいいなぁ。勇者みたいなおおきいの」
レイジは3歳の割に言葉も意見もはっきりしているようだ。慎重なロンタが奔放なレイジを守っているのだな。
「まあ、まずはご飯にしよう。アイリスさんはどうします?私の料理ですけど、パンと具だくさんのスープ」
「いただきます」
アイリスさんはにこにこしながら腕まくりしていた。手伝ってくれるようだ。