2.金貸屋リンメ
貸金ギルドの人たちが手伝ってくれて、無事葬儀と埋葬が終わったころ、悪魔のカゲツが訪ねて来た。
誰に殺されたかわからないが刺殺されたことを報告した。その場でカゲツは爆発して消えた。
しばらくしてカゲツが、犯人が見つかったと連れて来た。リンメは急いで鴉の面を付けた。
「あなたは、2年前にマダムユウが金貨10000枚をお貸ししたタム様ですね。たしか保証人もひとり付いていましたね」
「もうユウさんは死んでいるんだから、借金もチャラだろう?」
「契約書をご覧になっていますか?個人のユウではなく「金貸屋ユウ」に権利があります。いま引き継ぐ代表者は決まっていませんが、「金貸屋ユウ」は存在していますので、その権利はそのまま残っています。チャラというのはありえないんですよ」
「あなたが継ぐのかね?」
とタムが殺意をにじみ出してきた。
「いまのところ、そうなる可能性が高いのですが、カゲツ氏も継承者の対象なのですよね?」
リンメはちらとカゲツを見た。
「わたしは妻を奪われたので、あなたの妻を奪いましょう。」
「わたしは結婚していないのでね」
「わたしも結婚はしていなかった。ではあなたの愛人を奪いましょう」
「・・・」
そこに光に縛られて気を失った若い女性が現れた。
「やめてっ」
タムが叫んだ。
「いただいていきます」
カゲツとその若い女性がフッと消えた。
「かえせぇぇぇ」
怒鳴りながらタムがリンメに襲いかかってきた。リンメの前にカゲツがボンと音を立てて現れた。
「貴様は借金を返すことだけ考えろ。期日を7日過ぎて返済されなかったら、お前と保証人の魂を、今の女と同じところに連れていくことになる。まあ、返せなければ会えるかもしれないが、その前にあの女は息絶えているだろうな」
「ひいいいいいいいいいい」
「去れよ」
カゲツが手を振ると、タムは消えた。
「どこに行ったの?」
「元居た場所に。自分の家だろう?たぶん」
「ふん。カゲツ。金貸屋ユウをわたしが引き継いでもいいか?」
「いいけど、子供の女ひとりじゃ、ユウの二の舞だろう?」
「そうだねえ。冒険者ギルドで護衛でも雇うか、商人ギルドか貸金ギルドで従業員でも探すか、とにかくひとりでは危なさそうだね。見つかるまでカゲツ助けてよ」
「それ、親に言うセリフか?」
「あれ?親って自覚あったの?」
「ないけど」
「そうだろ」
「まあ、しばらく見ていてやるから、「金貸屋ユウ」の代表者登録をしてこい。でついでに従業員募集の広告も出してみたらいい。俺の知り合いじゃあてにならん。あと金貨50枚よこせ。バックアップ料金だ」
「やっぱそうだろうなぁ。期間は?」
「まあ、お悔やみ価格で1年面倒見てやるさ」
「ずいぶん安くしてくれるね。ありがとう。今無いから、あとで貸金ギルドで渡すから」
リンメはすこし笑ってため息をついた。
「貸金ギルドに行って、代表者の変更をしてくる。この後のことも相談してみるよ。他の金貸屋に買い取ってもらうって手もあるんだけど、カゲツはそれでもいいかな?」
「買い取ってもらうってなによ」
「ここを売り払って、私はどこぞにでも行くってことだよ」
「ここにいてくれ。ここはユウの場所だから」
「でもユウはいないよ。エッチもできないし」
「エッチはユウがエッチ好きだったから付き合っていたけど、実は悪魔にとってどうでもいいことなんだよ」
「え、そうなの?よく私ができたね」
「そうだな。奇跡かもしれないな」
「ユウは魅了というスキルがあってな、なかなかあれがよくてな」
「それ生娘に言うセリフ?」
「ははは。まあたぶんユウは"異種族でも交尾できる"みたいなスキルを持っていたんだろうな」
「なんじゃそりゃ。まぁ、今となっては誰もわからないか」
リンメは(そんなスキルあるのかよ)と寒気をこらえた。
「まあいいか。とりあえず貸金ギルドに行ってくる」
「わたしは消えて隠れておくよ。あ、ユウの指輪持っておけよ。真偽判定できるから。嘘だと赤く光る」
というわけで貸金ギルドに代表者変更に来ていた。口座名義とか貸金ギルドカードとか手続したが、問題なく変更できた。
「金貸屋ユウ」の口座から金貨50枚出して、カゲツを呼んだら手だけが出て来た。不精なやつだ。
続けて商人ギルドに行って、商人ギルドカードの変更もした。
役場に行って、状況を説明して、必要な手続きを教えてもらいながらいろいろやったけど、言われるがままやったので、あとでちゃんと整理しないとやばい。
でまあ、一通り終わってもう一度貸金ギルドに戻って来た。
素直にいつもお世話になっている受付のお姉さんに聞いた。
「身を守る方法を教えてください」
「護衛を雇うよりも、あなたが戦えるようになるのが一番早いんじゃない?」
「わたし?」
「そう。だって悪魔のハーフでしょ。なんか使える魔法とか技はないの?」
「ワザ?考えたことも無かったな。剣でも習いに行ってみるか」
「魔法の方がルーツ的にはいいんじゃない?」
「魔法かぁ。だめだったんだよなぁ」
「だめなの?」
「うん」
そうなのだ。いちおう悪魔のハーフということで試したけれど、まるでダメだったのだ。
従業員をたくさん雇うというのはどうだろう?でも何の仕事をしてもらおう?
そもそも人を雇ってもしてもらう仕事が警備くらいしかない。
母みたいに愛人を囲うということはどうだろう?強くなければだめだけど常に居られてもうるさいかなぁ。
やっぱり、自分が強くなるのが先決かも。
まずは店に戻って仕事の整理をはじめることにした。