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16.新入ギルド員

リンメが午後だけいろいろな部署の手伝いに入っていたら、どこも手が足りなくて大変らしいということが分かった。


ガイダントの貸金ギルドでは、15歳~18歳の新規採用されたギルドの事務の女性達がぞろぞろと入職して来た。


受付の前に集合がかかり、各部署に割り振られて10人もの若い女子が配属された。もともと若い女性が多いギルドではあったけれど、ずいぶんと賑やかになった気がする。


総務にひとり、経理にひとり、貸付係に四人、回収清算係に四人割り振られた。


「今日は受付をお願いします」

今日も総務のキキョウさんは相変わらずきれいで優しい。午後から出勤したリンメは受付に置かれた。


「わかりました。貸付の受付ですね」

「即戦力で助かるわ」

にこっと微笑むその笑顔も眩しい。古くから伝えられている舞踊の師範だそうで、所作も優雅でうつくしい。けれど、妊娠してもうすぐ退職するんだそうだ。こんなきれいな人をやめさせちゃうなんてもったいないなぁ。



***

受付に5~6歳くらいの女の子がやってきた。大事に抱え込んだ貯金箱を背伸びして受付に出した。

「これでかんべんしてくださいっていえって」

リンメは眉の間にしわをよせて貯金箱を見つめた。


「えーと。だれが言えって言ったの?」

「おとうが。おとうがおかねかりてて、おかねはらえなかったからおじちゃんがきておこるの」

おお。これはねぇ。リンメは貯金箱を女の子に渡して、反対側の回収清算係に手を引いて連れて行った。


「対応お願いしまーす。おとうのお金を払うんだそうですう」

リンメが声をかけると、奥から細身の青年が困った顔をして出て来た。


「わかりました。ザイゴンさんのお嬢さんですね」

「これでかんべんしてくださいっていえって」

女の子は貯金箱を手渡した。細身の青年が中を確認すると、鉄貨が15枚と銅貨が2枚入っていた。


「残念ながらこれではぜんぜん足りないから、これは持っていなさいね」

細身の青年は、鉄貨と銅貨を貯金箱に戻して女の子の頭に手を置いて優しく手渡した。


「おとうはどうなるの?」

「あと3日で奴隷落ちになりますね。お嬢ちゃんはだれか親戚のお家に行きなさいね。一緒に奴隷になってもどのみち離れ離れになってしまうからね」

細身の青年が踵を返すと、女の子は言っている意味がわからないようだった。


「あのね、おとうはね、あと3回寝て起きたら、奴隷になって遠いところに行ってしまうんだって。おとうとバイバイだから、親戚のおじさんとかおばさんのところに行きなさいって」

リンメは膝をついて女の子と同じ目線になって説明した。


「おじさん」

女の子は真っ青な顔をしている。

「いや。いたいことするの。おじさんいや」

ぽろぽろ泣き出してしまった。


リンメが困っていたら、後ろから身なりの汚い男が声をかけて来た。

「おーおー泣かしてくれて、ずいぶんじゃねぇか」

「いらっしゃいませ、サイゴンさん。お支払いですか?」


「まさか。金なんてないからな。それよりよう。子供から金取って、子供泣かしてかわいそうじゃねえのかよ」

どうも酒臭い。一杯やってきているようだ。さっきの細身の男がカウンターの外に出て来た。


「金は取っていませんよ。ぜんぜん足りませんからね」

細身の男はサイゴンさんに微笑みながら答えてはいるが、目が怖い。


それを感じ取ったか、サイゴンさんはリンメに食ってかかって来た。

「おい、おまえ、子供がかわいそうじゃないのか!」


子供がかわいそう?ふとロンタとレイジが浮かんだが、サイゴンさんか知ってるわけもないし、脅されているわけでもなさそうだ。


子供がかわいそう。・・・貯金箱を持っているサイゴンさんの子供とばちっと目が合った。

子供って・・・サイゴンさんの子供がかわいそうって言っているのか?本気かい?


「それは・・・、あなたのような親を持ってかわいそうな子供だ」

としか言いようがないではないか。


「なにぃ」

と凄むサイゴンさん。


「子供は孤児院に預けることをお勧めします。あなたに付いて行って一緒に奴隷化すれば、その時点で子供だけ娼館に売られるでしょう。

ここはあなたがひとりで奴隷になって、自分の借金を自分で返済するんですね」

リンメは16歳だが、ものすごく老齢な魔物のような冷たい目をして答えた。


回収清算係のカウンターがザワっとしたけど、無視してリンメは対岸の貸付窓口まで帰って行った。


サイゴンさんと娘さんは、細身の男に貸金ギルドから追い出されていた。

3日後、抵当権が発動して、サイゴンさんだけ奴隷落ちして、子供は町の孤児院に引き取られて行った。


この契約は残金金貨100枚に対して、奴隷代金が金貨50枚にしかならなかったので、貸金ギルド的には大損である。


ちゃんと完済してくれる客ばかりならいいけど、やっぱり「魂」を担保に取らないと金貸屋はつぶれていってしまうんじゃないか。


だから、ガイダントでは金貸屋が少なくて、ほとんど貸金ギルドが金貸を行っている。ギルドは皆の会費で賄われているから、損失だったら、会費を値上げすればいいということらしい。


金貸屋ユウはいずれ閉めて、金貸屋ジョヤのみに切り替えたほうがいいかもしれないな。

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