15.貸金ギルドのお仕事
新しい家に引っ越して、荷物がなにも無いのでとりあえず寝具と食器と鍋やナイフを買い込んだ。それでも家は閑散としている。服も数枚しか持って来ていないので、いちどハンキン王国の家に戻って少し荷物を持ってこようとしたが、夜のうちに霧散を使って運んでしまおうと決めた。
いつでも逃げられるように、最小限の荷物にしようと選別したけれどけっこうあるなぁ。せっせと荷造りし続けた。荷物がいっぱいあるのは、知人の魔法使いに頼んだとか言ってとっとと運んでしまおう。
「なんだ。手伝ってやろうか」
「カゲツ来たんだ」
ちょうどいい。こいつ転送うまいからなあ。
「しばらくガイダントに住むから、新しい家を教えとくね。で、これが運びたい荷物ね」
出来上がっていた大風呂敷の10個の荷物をリンメがポンポン叩いた。
「お安い御用だ」
家の戸締りをした次の瞬間、荷物と共にガイダント王国の国境の山の中にいた。
「ふうん。じゃあ行くね。ついてきて」
リンメは霧散して上空に飛んだ。そのあとにカゲツが続いた。
リンメは方向を確認する為にくるくる回ってから新しい住居に飛んだ。意外と近いところにカゲツは転送していた。
家に着くと通気口から侵入して1階の居間に着地してリンメに戻った。カゲツも同様に侵入したが、やはりカゲツのほうがスマートでかっこよかった。荷物もぽんぽんと降ろしてくれた。
「あ、これとこれと、これ!2階にお願います!」
「ふん」
指さした荷物を、ぽーんと2階に送ってくれた。やっぱりカゲツはすごいなぁと感心していたら、もともとこの家にあったソファーにどっかりと腰を下ろした。
「ここは人目は大丈夫なのか?出入りは2階か3階にした方がいいんじゃないか?」
「ああ、そうだね。のぞかれる可能性も考えないとね。じゃあ次から2階にする。2階は寝室なんだ」
闇金っていう危ない仕事をするんだから、もう少し自覚しないといけないな。
「闇金の方はどうなんだ」
「うん。次の契約は待ってもらってるけど、こっちが落ち着いたらすぐに開始するよ」
「何を企んでおる」
「・・・わかる?」
「わからぬから聞いておる。ただ、なにか面白そうな気配はするがな」
「うん、まあ、すぐには無理そうなんだけど、人として金貸屋を営んで、いつかは悪魔として印を発動して魂を担保に取るのを私ひとりで完結できたらいいなと思っている。
もちろん、魂を担保で取ったら、その先はカゲツに売りたいと思ってるよ」
まあ、いろんな契約が出てきそうだけどな。
「ふん。まあ誰に売ってもいいがな。顧問としてついていてやるから、契約の紹介元の金貸屋に応じて、金貸屋の持っている悪魔に売るのが正しいだろう」
「最終的にはね。でも、当分はそこまでは無理かなぁ。
今アイリスの用意している客は、他の金貸屋に蹴られた客だからカゲツに頼むようになるよ。アイリスは自分の客は裏でやってるみたいだから」
よくばれないよなぁ。ただの人間なのにアイリス、度胸ありすぎだよね。
「イシゲか」
「そう。すごいというか、うまいというか、惑わし系の術なのかな」
一度会ったとき、なんとなく感覚が狂わされている感じがしたんだよな。
「あいつの得意な惑わしてコントロールする術だな。やつの右に出るものはいないからな」
「ほえ~」
そんなすごい悪魔なんだ。あのひと。
「まあ当分は貸金ギルドのアルバイトにいそしみます」
「人間としてか。まあ、楽しんでやってみろ」
カゲツって、悪魔なのになんだか親切なんだよね。
「うん。来週から始まるんだ。他人と一緒に働くって初めてだからたのしみだ」
***
午前中は湖の孤島の塔で過ごし、午後から貸金ギルドに働きに行く生活が始まった。
「今日は、会計を手伝ってください。こっちでーす」
呼ばれていった先は大きな金庫室だった。引き出しがいっぱいあり、約束手形がたくさん収納されていた。
「会計のマリーです。今月末の支払期日の約束手形を全部抜き出します。リストはこれですから、漏れの無いようにお願いします」
どん!と置かれたリストは、みっちりと書き込んであって、1ページ約束手形100枚分×50ページの冊子が10冊くらいあった。
「抜き出しながら、不備をチェックして、不備があったら訂正に回さないといけないので、リストに不備内容を記入して、約束手形に不備内容のメモを張ってください」
(とんでもない量だぞ。しかも、不備のチェックしてないのか?チェックなんて契約時にやればいいのに)と、びっくりしていたら、冊子を1冊渡された。
これは!けっこう頑張らないといけません。リンメはさっそくリストに記された約束手形の取り出しを開始した。ちゃんとリストの順番に保管されているので、たくさんあってもどんどんできた。
「振出日が書いてない」
「宛名が書いてない」
「支払期日が間違えている」
「サインが不鮮明で読み取れない」
出るわ出るわの不備三昧。これどういう管理したらこうなるの?
リストに不備のマークを記入して、横に理由を書く。順に束ねた約束手形の不備を抜き出して、小さい紙を張り、不備内容を記入する。
結構な枚数の約束手形を取り出し、結構な枚数の不備手形を抜き取った。
仕事を依頼してくれた事務のマリーさんに嫌な顔をされたが、私にではなく不備手形の多さにだ。
「まったく、なんで契約時に気が付かないのかしら」
ごもっともです。
マリーさんは、せっせと不備の約束手形の契約書の写しを確認し訂正できるものは訂正していた。
のこりは今月の1枚だけでなく、その不備の契約の約束手形全部を取り出すよう指示されたから取り出して束ねた。
とても怖い雰囲気のマリーさんは、貸し付け担当者に手渡してできるだけ早く正すように指示を出していた。