14.勉強とアルバイトと
ロンド
リンメはアイリスの紹介状を持って、隣国ガイダントの街のロンドの貸金ギルドにいた。
ロンドは鍛冶屋が多く、武器を鍛えるために冒険者が多く集まってくる。
貸金ギルドの応接室で、副ギルドマスターのリーがアイリスの紹介状を渋い顔をしてみていた。
リーはふくよかな壮年の男性で、おっとりとして品のある優しい雰囲気がある。
「あの、アイリスとお知り合いなのですか?」
あのがらっばちなアイリスと、この上品な男性とお友達?とは思えないなぁ。
「くされ縁がありましてね。働くのは午後からなんですね」
「はい」
リーはアイリスの紹介状を見ながら小首をかしげている。
「一日は無理なんですか?」
「はい。午前中は勉強に当てています」
リンメはにこにこと微笑みながら答えた。
「ハンキン国では何をされていましたか?」
「母の経営する「金貸屋ユウ」を手伝っていました。母が亡くなってしばらく経営していました。ですが、国の方針が変わって経営方法が大きく変わることになりました。そこでガイダントのやり方とまったく同じ方針になるので勉強させていただきにまいりました」
リンメはぺこんと頭をさげた。
「ああ、魂の担保ですね。恐ろしい担保ですけど、大きな借入額の設定ができたんですよね。それはそれでうらやましい契約方法だったのですがね」
夢見る顔をしているリーに、うらやましいとはずいぶん正直な意見だなぁとリンメは頬がひきつった。
「土地建物、魔道具、奴隷落ちが担保ですと、やはり額面的に小さくなってしまいますよね。
ですので契約数を増やしていかないといけませんが、その際の所有権設定と解除の人件費と経費がバカにならないんですよね」
小口の契約は踏み倒しも多いし逃げる人も多い。取り立てするにはある程度額面が無いと利益も無くなってしまう。
「額面が小さかったり信用が不足していたりすると、その分金利が大きくなってしまうのですが、状況と金額によっては担保なしというケースもあります」
「ぜひ勉強したいです。それと、今宿屋にいますが、アパート探しは商人ギルドに行けばいいですか?」
「そうですね。商人ギルドに紹介状を書きましょう。では来週から来てください」
リーがさらさらっと紹介状を書いて手渡してくれた。
***
リンメはリーの紹介状を持って商人ギルドに来ていた。
「一軒家とアパートでどちらがいいですか?」
「できれば一軒家のほうがいいです。ハンキン国から知人も何人か遊びに来るって言ってましたし」
カゲツが来るしなあ。自分も午前中に湖に飛ぶのに隠れて飛びたいしなあ。
「ほう。若いお嬢さんがめずらしいですね」
「もう若くない行き遅れですよ。ロンドには勉強に来ました。ひととおり学習出来たら自国に戻りたいと思います」
「勉強ですか」
「はい。金貸屋を営んでおりまして、休業してまいりました」
「すごいですね。わかりました。通りに面した物件は便利ですが値が張ります。通りからはずれた物件なら安い物件があります」
「場所を教えてもらえれば見に行ってきます」
簡単な地図を書いてもらって、リンメは物件を見に来ていた。通り沿いの物件はそのまま金貸屋が出来そうな便利な場所にある。
安い物件は、中庭があって何件もの賃貸物件で共有していて、鉢植えの花がたくさんあったり、洗濯物が干してあったりしている。その中庭を通って出入りする物件だ。
普通に生活するなら、中庭を通る物件のほうが楽しそうだ。リンメは午前中ジョヤをやりたいので、変異して出立したり戻ったりするのに、詮索される危険はあるけれど中庭のある安い物件に決めた。
狭い3階建ての物件で、1階にキッチンとダイニングと風呂トイレ。2階に大部屋1部屋。3階に小部屋が2部屋ある。家賃は働いた分が半分以上出てしまうので、生活費はたぶん持ち出すようだ。ちょっと無謀だったかな。
まあ、ユウの残してくれたお金が結構あるから10年くらいならなんとかなるだろう。