13.ロンタが大人になって
日々の生活に追われて、魂を担保にする新規契約が出来なくなってから早くも5年が過ぎた。
リンメは20歳。ロンタは15歳。レイジは8歳になった。
いよいよ「金貸屋サガ」を再興しようと、アイリスと貸金ギルドの現ギルドマスターのハンさんがバックアップに入ってくれた。
この5年の間、リンメが協力して、「金貸屋サガ」も結構な契約数を増やしていた。ほとんど不動産か奴隷落ちを担保としていた。件数は多いけれど、小さい契約ばかりだ。
ひと月ほど金貸屋サガにリンメやアイリス、貸金ギルドから手伝いが通って、サポートすることになった。
「ありがとうございます。こんなに皆さんに助けてもらって、私はなにをお返しすればいいのでしょう」
ロンタが両親の家に戻り、「金貸屋サガ」の看板を設置しながら涙ぐんでいた。
「それは返さなくてよくて、その代わりギルド会員が困ったときはお互いに助け合うのがギルドの決まりだから、今度は誰かを助けてください。はいどうぞ」
ギルドマスターのハンさんがにこやかに笑いながら、半泣きのロンタにお茶を勧めていた。
リンメの方は「金貸屋ユウ」の新規契約をしないで「サガ」に客を譲り、あと数件で手持ちの契約も無くなる。
リンメは「金貸屋アイリス」と貸金ギルドに「サガ」の引継ぎと、今後のことを相談に来ていた。
「「金貸屋ユウ」の契約が無くなったら廃業して、隣国ガイダントの貸金ギルドでアルバイトしたいんだけど、アイリスさ、手配できないかな」
リンメはサガの契約一覧表をアイリスに渡して肩の荷が下りた気がした。
「紹介状を書いてやるが、隣国は我が国のような王都からの制限はかかっていないけど、そもそも魂の担保の概念自体が無いぞ」
アイリスが腕組みして仁王立ちしている。
「うん。カモフラージュだからいいんだよ。午前中にあの湖の塔でジョヤをやる。午後からリンメとしてアルバイトしてつましくガイダント王国で生活していこうと思う」
リンメは変異を5年もやっているのでずいぶん上達していた。
「これはこれは・・・。地味な生活を選んだね。でも地味すぎていいかもしれないな。
そろそろ王都が本気で調査を始めているからね。5年経つのに一向に合成魔獣の数が減らない。だれかが魂の横流ししてるんじゃないかってね」
「ここらで逃げておいた方が賢いよね」
アイリスとリンメは悪い顔をして笑っている。
「ふつうの契約を残しちゃうと、抵当権解除とか法廷に手続きに行かなくちゃでしょ。「金貸屋ジョヤ」のだけにすれば、悪魔の「印」が勝手にやってくれるから、それだけにして行こうと思って」
「私が破綻したら、あんたに仕事が回せなくなるなぁ。貸金ギルドのハンにも頼んでおくよ」
アイリスが現ギルドマスターに頼んでくれるなんて、なかなかありがたいことである。
「ありがと。あと、ジョヤの本契約書は、今は金貸屋ユウの貸金庫に預けているんだけど、そのまま預けたいとしたらどうしたらいい?」
「金貸屋ユウを廃業じゃなく休業にしたら?隣国から帰ってきたら再開するとかさ。そしたらそのまま使えるでしょ」
「な る ほ ど」
***
「誰もどこも貸してくれない者に、アイリスに会いに行くと貸してくれる人を紹介してくれる」
そんな噂が街に広がった。
アイリスは何度も王都警備隊に呼び出されたが、何も証拠が出なかった。
アイリスが事務手続きを代行している「金貸屋ジョヤ」の住所が金貸屋アイリスの場所になっているためジョヤも調査対象になったが、ジョヤ本人は旅に出ていて所在不明ということにしている。
王都警備隊からジョヤに出頭命令が出た。アイリスはいつ連絡が来るかわからないが、来たらすぐに帰ってくるように通知すると伝えておいた。
***
リンメはジョヤに変異して、あらかじめ用意してあったまやかしの契約書の写しを持って王都警備隊のもとに出向いた。もちろん悪魔の「印」も無く、不備も見つからない。
王都警備隊には、連絡できる先を教えてくれと言われたが、各地を旅して転々としているので、貸金ギルドのある街に着いたら、アイリスと連絡をとっている。なので、何かあれば金貸屋アイリスに連絡してくれとお願いした。
王都警備隊の調査は、何度も入っているうちにいつまのにかうやむやになり立ち消えてしまった。
リンメは悪魔のイシゲのまどわしの能力の高さは計り知れないなとすこし寒気がした。