12.悪魔の練習
リンメは、夜中に変異の練習をしていた。
40歳のリンメ。戻る。霧散。飛び回る。戻る。ジョヤになる。戻る。
「うまくなったではないか」
「カゲツ、来たんだ」
「たまにはな。様子を見に」
「うん。気持ちが安定した状態ではうまくいくんだけれどね。このあいだ、お客さんといろいろやり取りした後に変異しようとしたら、気持ちが高ぶっちゃってうまくできなかったんだよ。まだまだなんだよね」
がっくりしているリンメに、カゲツは目を丸くしていた。
「そういえばお前こどもだったな」
「いちおうこのあいだ成人はしたけどね。15歳だよ。子供ではないんだけどね」
ふわんふわんと浮かびながらカゲツが腕組みをしてうす笑いを浮かべている。
「私は何歳とか言う概念はあまりないんだが、お前はどう見ても生まれたてだ。何千年も生きる悪魔の技をわずか生年15年程度で使おうと言ってもそう簡単に行くわけがなかろう」
「・・・生まれたて。そうだね。カゲツも練習したって言っていたよね」
「そうだ。そんな1年や2年じゃないぞ。何百年もかかったんだぞ」
「何百年。って、わたしどのくらい生きるんだろう」
はた!とリンメはカゲツを見た。カゲツは鷹揚に両腕を広げて、困った顔をしている。
「そなた腹は減るのか」
「減る。一日3食ばっちり食べる」
「わたしは腹は減らない。それを見ると人間に近いのがわかるな」
「な る ほ ど」
「変異を使いこなせれば、おそらく悪魔と同等くらいまで生きるんだろうな。
使いこなせなければ人間の寿命程度だろう。いまは半分くらいは習得しているから、人間よりはすこしは長く生きるのではないかな」
「私しかいないんだものね。ハーフ悪魔って。わかるわけがないのか」
「悪いな、ユウの子よ。推測の域を出ない」
「いいよ。様子を見ながら生きていくから」
「そういう年寄りめいた口調で話すから、ついつい若いことを忘れてしまうのだよな」
「ふん。失礼な」
カゲツはくるんと回ってソファーに腰かけた。
「見ているから好きに変異をやってみろ」
「うん。霧散がやっぱり不安定だから何度もやって当たり前にできるようになりたいんだ」
リンメはブワッと黒い霧になり、部屋をくるくると飛び回り着地してリンメに戻った。
それを何度も繰り返して、30回目あたりでうまく戻れなくなった。黒い霧のまま床にドンと落ちた。
カゲツか指を指すと、霧からリンメに戻った。
座り込んだリンメはふらふらになっていて、立ち上がることができなかった。
「なにこれって限界ってこと?」
リンメは床に両手をついてくらくらしている。
「そなたは思ったより魔力量が少ないようだな。この限界は理解しておかないとな」
「ふう~。そうだね。なんかすごいだるい」
リンメは這ってソファーに向かった。ソファーにいたカゲツは立ち上がって場所を開けて、指をくいと回してリンメをソファーに放り込んだ。
「すこし休め」
「うん寝る」
言ったとたんリンメは寝息を立てていた。
***
目を覚ますとソファーに寝転んでいる自分にいろいろなものがかかっていた。そこらへんにあるものなんでも上にかけてくれたようだ。
「悪魔にしては気が利くな」
リンメはむくりと起き上がって見渡すと、一時間程度寝ていたようだ。すこしだるいが動けないほどではない。
大きく息を吐いてお茶でも飲もうと湯を沸かしに台所に行った。
変異は、変化するときに魔力がごっそりかかる。けれど、変化したもので維持し続けるのは魔力はいらないようだ。
変わるときと戻るときに、心を落ち着かせて、魔力をある程度確保しておくことだ大事なんだな。お茶を入れながらひとつひとつ確認していった。
ただ、これがうまくできるようになると、本当に悪魔になってしまうのだろうかと不安になった。が、そもそも半分悪魔なんだから今更なのか。思わずふっと笑ってお茶をくっとあおった。