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1.金貸屋ユウ

母は悪魔カゲツの 情婦だった。名前はユウ。ハンキン王国の貸金ギルドに所属して、「金貸屋ユウ」を営んでいた。

カゲツがたまに訪れると、母は私に店番を任せて、ふたりで店の奥に消えていった。


ふたりとも30分もすればいつも出てきて、何事も無かったかのようにカゲツは帰り、母は仕事に戻った。いつも母から漏れ出るその匂いが嫌だった。


母は、母という感じではなく「血のつながった女」という感じだった。母のスキルは魅了(チャーム)だった。


「リンメ。羊皮紙と植物紙が足りないからいつものドントの店に買いに行ってくれる?」

「うん。大きいから羊皮紙は1枚で、植物紙は10枚くらいでいい?」

「そうね。それでいいわ」


リンメは銀貨が何枚か入っている皮袋をもらって店の外に出た。


母は賢く、読み書きや計算は仕事を手伝いながら教えてもらった。常にお客が来る商売ではなかったので、お店では本は読み放題だし、計算するものもたくさんあった。


リンメは15歳。人間と悪魔のハーフだったが、体の成長は人間そのものだった。


お店に出るときは鴉の顔を模した仮面をつけるようにした。子供だと馬鹿にされるからだ。若い女性が雇われているふうに装って、母には「マダムユウ」と声をかけるようにした。



チリチリン。扉が開くと、商人のおとなしい雰囲気の若い男性が入ってきた。

「貸金ギルドの広告を見たのですが」

「いらっしゃいませ。ただいまマダムユウを呼んでまいります。こちらにおかけになって、少しお待ちください」

リンメはお客に椅子をすすめて奥に声をかけた。


「マダムユウ。お客様です」

「ありがとう。お茶をお願いします」

「かしこまりました」


母とすれ違い、奥にお茶を入れに行った。盆にのせて店に運び、音を立てないようにテーブルに並べた。

「ここで手伝ってちょうだい」

「はい。マダムユウ」


木札と筆記用具を用意して、話し合いの内容を書いていった。


「まずは、商人ギルドカードの写しを取らせてください。お名前は、ラグリード様ですね。どうぞよろしくお願いします」


母は大切そうに商人ギルドカードを預かりリンメに渡した。リンメは預かった商人ギルドカードを木札に書き写して母に返した。母はラグリードさんから見えないようにひざ元に隠して、カゲツにもらった指輪で触れてカードを確認した。


「商人ギルドカードをお返しします。これはご本人のカードであることを確認しました」


母はそう言ってカードをラグリードさんにお返しした。



借入したい金額は金貨5000枚。

返済の期限は5年で1年12回払いの60回払い。1年間だけ支払期限の延長が可能だ。


約束手形を60枚買ってもらう。約束手形は1枚銀貨6枚。銀貨30枚で金貨1枚だから、金貨12枚をラグリードさんに負担してもらう。


金貨90枚ずつ、月末にどの街の貸金ギルドでも返済を受け付ける。金貨400枚は利息だ。


ラグリードさんには、貸金ギルドに口座を作ってもらうことになっている。

そこに金貨5000枚入金するために、リンメはあらかじめひな型を書き込んであった契約書に必要項目を書き込んで、羊皮紙2枚の契約書を完成させた。


返済もその口座で行う。どの街でも貸金ギルドがあれば、月末までに入金すればよいのだ。


約束手形は、法廷がガチガチに管理している。400年前の賢者が考案した「手形法」に基づいて運営されている。

記載されている支払口座に残高があれば、記載された期日に引き落とされて、あらかじめ申し込んである貸主の口座に支払われる。



母は、ひとつずつ丁寧に説明していく。


返済の方法。


「どの町の貸金ギルドでも、自分の口座を指定して月末までに入金するだけで勝手に決済されます」


返済ができない場合の期日延長の手続きの仕方。


「手続きに伴う手数料は銀貨6枚で約束手形を買ってもらい、差し替える約束手形を作るだけです。

延長できるのは6年目の12か月のみで、支払いのある月への変更は勧めていません。

どうしても早く払いたい場合はできなくはないですけれど」


契約書につづられる「魂」の抵当権の設定。

完全に支払いができなくなった時の抵当権の執行について。


「「魂」は抵当権が付きますが、生活に変化はありません。

契約書は悪魔の認定付きの「印」が押されています。

他店からの借り入れも含め、ひと月に2回返済不能を起こしたとき、貸金ギルドの口座は取引停止となります。

または、支払期日を過ぎ7日以内に支払いがなされなかった場合、契約書の悪魔の「印」が自動的に発動して、「魂」が没収されます。

「魂」が没収された場合、ご存じかと思いますが死にはしません。抜け殻となって生きる人になります」


「そうですね。風呂も入らず、食事もとらずふらふらと歩き続けて行き倒れた人を見たことがあります。そういうことですよね」

「なかには、普通に生活できる人もいます。精神力の強い人なのでしょうね」


「貸金ギルドの口座が取引停止してしまった場合は、直接当店へ返済金貨をお持ちいただければ、支払いは継続し「魂」の抵当権は発動いたしません」


「没収された「魂」は、対価により返却してもらうことはできますか?」

「おそらく数日のうちに取引されてしまうので、返却は不可能でしょう。「魂」の需要は多く、市場に出る「魂」は少ないので、引く手あまたなのです」


「そうですか・・・」

しばらくラグリードさんは下を向いて唇をかみしめていた。


「支払いが完済すると、契約書に自動的に「完済」の文字が入り、抵当権も自動的に解除されます。特別に手続きする必要は何もありません」


「そうですか・・・」

ラグリードさんは、顔をあげて母の目を見て小さくうなずいた。




出来上がった羊皮紙の契約書2枚は当店負担で作成した。


リンメは植物紙を同寸に切りそろえて型判を押して作った約束手形に、60回にわたる支払期日と、支払額の「金貨90枚」と、振出日に今日の日付、支払先の宛名「貸金屋ユウ」を書き込んだものを60枚作った。


大変だが、この場ですべて住所と名前を書き込んでもらう。自書でなければ契約は完結できない。悪魔の「印」が、ひとつでも不備があると光り出して契約が完了できない。



すべて不備なく記入が済んだら、貸金ギルドに母とラグリードさんのふたりで向かった。契約書と約束手形を貸金ギルドに提出して、ラグリードさんの口座に、金貨5000枚を「金貸屋ユウ」の口座から移動した。


貸金ギルドの受付印を押された契約書は、母とラグリードさんにそれぞれ渡され、母は約束手形と契約書をそのまま貸金ギルドに預けて、手形と契約書の預かり証として契約書の写しを受け取った。


ラグリードさんは金貨12枚を引き出して、約束手形代金として母に渡した。母はあらかじめ用意していた領収書をラグリードさんに渡した。


母は預かり証をカバンの奥にしまい、金貨12枚をギルドに預け、ラグリードさんと別れて貸金ギルドを出た。



そして母は血みどろの遺体となって帰って来た。

久しぶりの投稿になります。拙い文章ですが読んでいただけると嬉しいです。

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