手に握るこん棒を躊躇わず振り下ろす。
ダミル村を出てから一日が過ぎ、ボルテアは林道を景色を眺めながら歩いていた。
林道は木々の枯葉で埋まり、踏みつけ歩くとジャリッジャリッと何枚もの重なる枯葉の崩れる音がしていた。
季節は寒くなり始めてはいるのだがボロマントを羽織ったボルテアの服装は大きな布を下着の様に結んでショルダー部分の小さい革鎧を重ねシックスパックに割れた腹筋が丸見えで筋肉質の太い太腿を露出した生地の分厚いホットパンツに脚にレッグレザー、皮のサンダルととんでもない薄着であった。
そして羽織ったボロマントから女とは思えない程筋肉質で太い上腕の右手を出しこん棒を担ぎ先に必要最低限の物を入れた荷物袋を吊るしていた。
近づく寒気と枯れ出した木々の匂いに上機嫌でジャリッ、ジャリッ、と練り歩くボルテアだが鉄錆た様な生臭い匂いが微かに鼻をついた。
(血の匂い…。)
ボルテアは不愉快な匂いがする方へと足を向けると、そこにはあまりにも惨い光景が彼女の目に飛び込んで来た。
この森に茂るダミルの木の枝幼い少女と…若い女の亡骸が首を括られ吊るされていた。
若い女の方は衣服を破かれ乱暴された痕が一目で解り、血の匂いは彼女からしたものと気付き、ボルテアは不愉快とばかりにギリギリと歯軋りを立てた。
二人を地面に降ろして並べて寝かせてやり、持っていた大きな布を被せてやった。
(墓は無理だがせめて埋めてやりてぇな…。)
…と考えているとガサリと枯葉を踏む足音がした。
(二人…、いや三人か。)
彼女が思った通り別の木の陰から三人の男が姿を現した。外見は見窄らしい装備で三人ともニヤニヤと嫌なニヤケ顔をボルテアに見せつけた。
「ほれ見ろ。馬鹿なお人好しが釣れたぞ!」
「何かゴツい…なかなか胸も背もデカい女がたった独りだ。」
「おい女、黙って俺達についてきな。いろいろ教えてやるぜ。」
男が舌舐りするのを見たボルテアは冷めた目で三人を睨む。右手のこん棒の柄を強く握り、臨戦体制を取った。
「おっ、この女殺る気だぜ。」
男の一人がそう言って刃の欠けた剣を抜く。
「女あ、死にたくなきゃ無駄な事はしねえ方がいいぞ?」
「ここであの女みたいに股あ開かせてもいいぜ。今思えば殺したのは勿体なかったぜ…ぇ!?」
そう口にした途端、その男の頭をボルテアの振り下ろしたこん棒でカボチャの如く弾け飛んだ。
男との間合いはこん棒が届く距離ではなかった筈だが、ボルテアは一瞬で間合いを縮め男の頭を潰したのだ。
仲間の二人は慌ててボルテアから離れると、剣を抜いていた男が「おんなあっ!!」と叫び斬りかかるがボルテアは即座にこん棒を横に振り回し、剣を折りそのまま男を打ち飛ばした。男は大量の血を吐きながらダミルの木にぶつかり、根元に落ちた。どうやら胸元をこん棒の一撃で潰されて大量の吐血をした様だ。
残された一人は青い顔となり、ヒィ…と小さな悲鳴を絞り出し枯葉に尻餅をついた。
「三人で自分達の方が強いと思ったみたいだが、あたいは独りでもお前等より自分が強いと確信してたぜ。」
「てっ、テメェ、俺達がこの山を統べる“千牙”の一員だぞ!
俺達が戻らなきゃ必ず報復が…!」
そこまで吠えた男の顔にボルテアはこん棒の先に付いた脳漿の混じった仲間の血をベットリと男の顔に押し付けた。
「へえ、あの野盗集団“千牙”の一員か。お前等みたいのがいるなら、やっぱその千牙もろくなもんじゃねえな。
ゲスカスクズの集まりだ。」
そう罵りボルテアは嗤う。
男は悔しさに顔を歪めるが直ぐに脂汗を滲ませ恐怖に歪んだ。ボルテアは血塗れのこん棒を振り上げてその血が男の顔にボタボタ降りかかった。
「お…俺も、殺すのか…?」
「当たり前だろ。女子供殺しといて自分は無事に帰れると思ったのかよ?」
そしてボルテアは男の脳天に躊躇う事なくこん棒を振り下ろした。