刺青の男はミーハーハゲ!
「後腐れなく…なんて言ったわりには…随分大きな嘘が出て来たわね、町長。」
口調が大人びている。ナナリはバンファルを冷たい眼光で一瞥していた。しかしバンファルは焦ってはいるものの彼女の目を反らさず見つめて答える。
「そうだ。…“千牙”とはもう二十年以上の付き合いだ。」
二十年以上ではその繋がりにナナリが何かを言う権利はない。では町長との話は此処で終わりとして彼女は刺青の男に話しかけた。
「千牙の貴方にいくつか聞きたい事がある。」
「何だい、俺が話せる事なら話してやる。」
「町長と何話していた?」
「ああ、冒険者を仲間に引き入れてた事を怒られていた所さ。
彼奴はなかなかに使えたから躯牙に潜入させて情報を仕入れていたのよ。お陰で隠れ家も分かって速攻片が付いた。
躯牙は千牙に最近加わったんだが何をトチ狂ったのかわざわざ千牙を大声で名乗りやがったから粛清したのさ。
因みに町長は冒険者を引き入れた事はつい今まで知らなかったからよ。」
「随分ペラペラしゃべるのね、その仲間に入れた冒険者の名前はヴェルズかしら?」
「あぁ、黒鉄の一閃のメンバー、ヴェルズだ。
あの野郎、調子こいて千牙のメンバー上手く言いくるめて四人も死なせやがった。」
「?確か一人は生かして帰したけど?」
「あんな完全に心折られた奴使い物になるか、俺が処分したぜ。
そこでだ、ヴァル老師の愛弟子のお前に依頼したい。」
バンファルを蚊帳の外にして蛇髑髏の刺青をいれた男はニヤけながらナナリに言った。
「俺面倒臭いからヴェルズの奴殺しといてくれよ、金ならやるからさ。」
「わたし達は冒険者、金を積まれて人は殺さない。」
「そりゃ矛盾じゃねえか?お前さんはもうあの餓鬼殺す気満々だろ、利害は一致してる。」
「わたしは殺し屋じゃない。」
「否、ヴァル老師から受け継いだ狩猟技術は獣を狩る技術じゃない。人を狩る技術だ。」
刺青の男はナナリに顔を近付けて危険な笑みを見せつけた。
「ヴァル老師は三十年程前まで“千牙”に所属していた。
千牙でも一・二を争う暗殺者だ。その暗殺技術はあまりに異質なものだったそうだ。その暗殺技術をお前は受け継いでいるんだぜ、ゴブリナのナナリさん。」
彼の話にナナリは目を見開き、冷や汗を掻いて小さく呟いた。
「ヴァルじいが…、暗殺者…?」
刺青の男は笑い顔をしたまま離れるとドスンと座り直す。
「今お前が考えてる事を当ててやろうか?」
男は満面の笑みを向けてジッと黙るナナリを見つめる。
「ヴァルじい…」
「応?」
「かっ…」
「応!」
「くいいいいっ!!」
「だろおおおっ!!」
突然に意気投合したかの様に立ち上がり声を張り上げる二人にバンファルは目をパチクリして驚く。
「ナナリ、お前…ヴァルが千牙の一員だった事にショックはないのか?」
「別に、ヴァルじいにはヴァルじいの人生があった。わたしはそれが何であれ知れた事が嬉しい。」
口調がいつもの幼い口調に戻っていた。刺青の男も先程までの危険な気配か薄れている。
「組織から老師の存在を聞いてから俺はヴァル老師のファンになっちまってよ!
…会った事はねえがな。千牙を抜けてからは組織とは接触を避けてたみたいだからな。無理に老師を追えば皆返り討ちに遭っていたみたいだ。
お前が帰した奴の刻み傷見た時は感動しちまった!
出来るならまたあんなやり口を生で見たいんだが…」
「…殺らない。」
「んじゃ、彼奴をどうするつもりだ?
もう彼奴動いてるぜ。」
「ミーハーハゲは何か知ってるの?」
「ミーハーハゲとか言うな、ヴェルズを必ず殺すか?金は払うぜ。」
ナナリは少しだけ考え、「分かった。必ず殺す。」と言って頷き、バンファルの屋敷を走り去った。




