冒険者には荒くれ者が多過ぎる。
「ボルテアさんの冒険者登録は完了しました。次は…“妹さん”どうぞ?」
「ぐっ、妹違うぞ、わたしは“ゴブリナ”のナナリ27歳だ!」
先程ボルテアと親子と言われ、次は姉妹の妹と言われて流石にプライドを傷つけられたナナリはフードと黒マフラーを脱ぎ去り証明証を乱暴にカウンターに叩きつけた。
「えっ!?」
「おいナナ、思い切り良過ぎ。…っうか二十七!?」
「言わなかった?」
「聞いてねえよ、マジで年上だったわ。しかも十歳以上もっ!」
証明証を見た受付嬢アリンはカウンターのそれを掴み取り、ナナリをマジマジと見て目を見開き驚いていた。
「えっ…、緑色の肌に、とんがった長耳…そして小さな身体の女の子…、ゴブリ…ナなんですか!?」
周囲の空気…、特に男共も厭な気配をさせながら近付いて来る。
「おい、マジでゴブリナだぜ。」
「おじょーちゃん、もし良かったら俺と組まないか?」
「ゴブリナかよ、どうせなら娼館で客取った方が儲か…がっ!?」
途端、ボルテアの左腕が今口を滑らせた男の顎を鷲掴みにして吊り上げた時、“ゴキリッ”と小さく響いた。ボルテアは無雑作に手を離し、男を床に落とした。
着地した男はそのまま両膝を着くと両掌を顎へと近付けるが触らずに呻く。
「あ…、あが…!?」
仲間らしい男女が駆けつけてしゃがみ込む男に寄り添う。
「ウェルズ大丈夫か!?」
「顎割られてる、今治癒術かけるわ!」
女…法衣姿の女性が屈む男の顎に手をかざすと淡い黄色の光が灯ると男の顎の充血した腫れと歯茎から涎の様に垂れ流れた血が引いていった。
顎を砕かれたウェルズという男は仲間らしき男が肩を貸して退かせると厳つい男達がボルテアとナナリを逃さぬ様にと囲い脅し煽り始めた。
「やってくれんじゃねえかレディオーク、そこのゴブリナも只で冒険者ギルドから出れると思うんじゃねえぞ?」
「あまり舐めてんじゃねーぞ、亜人女!」
「其処のゴブリナもぐるぐる輪姦してやんから覚悟しろよ!」
熱り立つ男達を前にボルテアはこん棒を放しドスンッと床に落とし両指を交差して重ね掌を向けて腕を伸ばす。
「良いぜ、野郎共。死なねえ程度に相手してやんよ!!」
言うがいなや巨漢一人がボルテアのアッパーカットを受け血混じりの涎を宙に伸ばしながら吹き飛んだ。
それを皮切りに荒くれ者が一斉にボルテアに襲い掛かる。男達は蹴り飛ばされ、殴り飛ばされ、床に顔面を叩き潰され、投げ飛ばされて壁を貫き、天井にも突き刺さった。
あわあわと慌てふためく受付嬢にナナリは平静を保ちながら冒険者登録を急かした。
「アリリン《・・・・》、気にせず登録頼む。」
「…アリンです、ナナリさん。」
○
ナナリの冒険者登録が終わる頃には立っていた数は四人程だが皆血だらけでゼーゼーと荒い息をしていた。ボルテアも青痰擦り傷をアチコチに作り、鼻と口端から血を垂らしてはいたが全く息は上がっていなかった。
「ナナ、登録終わったか?」
「ん、アリリン終わったか?」
「アリンです、冒険者登録終わりましたよ。」
「うっし、次は依頼だ。町長から盗賊討伐とか出てる筈だよな?」
ボルテアが鼻血と口端を拭きながら尋ねる。気付けば荒くれ者の死屍累々が足元に転がっていた。
「ぁ…、ちょっと待って下さい、お二人のマジックカードを用意をしますね。それをお渡ししたらお二人は冒険者です。
今後はコレが身元証明証になります。」
そう言ってアリンはカウンター奥へと引っ込み、二人に真っ黒なカードを渡す。次いでに床に転がる荒くれ者達を見渡してボソッと呟いた。
「エグいですね…。」
「ったりめえじゃん!“友達”を馬鹿にされたんだ、殺されなかっただけマシだと思えっつんだ。」
そう即座に答えたボルテアにナナリは胸が熱くなるのを感じた。
「おい、何の騒ぎだ?」
するとカウンター奥から無精髭を生やした強面の中年男性が睨みを利かせながら出て来た。
「ギルマスさん!」
アリンがビビりながら無精髭の男性をそう呼んだ。




