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第七話 魔物との戦闘

 王都ワルシュレイから東に15キロほど、そこまで十分のフライトを経てヴィルヘルムたちはシルラ森林に訪れていた。

 この場所は、王都の冒険者が日々の生計を立てるためによく訪れている場所でもある。


「到着〜ありがとうリンさん」


「別に大したことではないわ」


「ここが森林?」


「ええ、シルラ森林。魔物ランクで言うとHから最大でもBランクの魔物しか生息していないわ」


 王都の中、それも霹靂旅団の屋敷の外へは滅多に出ないヴィルヘルムにとって、王都の外に来るのは初めてだった。故に少し緊張気味だった。


 ゆっくりと森の中でも開いた場所に着地する。

 そして、降ろしてもらう。


「ここら辺にはヘルスパイダーとか虫系の魔物が多く住み着いているエリアね」


「虫か〜。私虫嫌い」


「そうね、私も確かに苦手だわ」


 女子2人は、これから遭遇するのであろう虫系の魔物に少しオカンが走る。一方、ヴィルヘルムはスラムに住んでいたころ貴重なタンパク源としてよく虫を食べていたのでそうゆうのには平気だったりする。この前など屋敷にいたゴキブリを素手で掴んで外に投げていた。


「召喚・ユキ、アーラ」


 そんな2人を尻目にヴィルヘルムは眷属を召喚する。


「くぅ!!」


「キュイ!キュイ」


「ごめんって」


 二匹は自分達を置いてどこかに行ってしまったヴィルヘルムに御立腹だった。

 数回ほど尻尾で叩かれ、嘴で突かれたりした後解放された。


「何だか魔物を倒すことになった」


「くぅ!!」


「キュイ!!」


 二匹ともやる気に満ち溢れてるようだった。

 ヴィルヘルムはそれに満足げに頷くと、イフェリアたちの方を向いた。


「じゃあ、行きましょうか」


 リンフィールがそう言うと一同は歩き出した。

 イフェリアは鼻歌を歌いながら、ヴィルヘルムは何があっても対応できるように注意しながら進んでいた。

 肩にはアーラが止まっており、すぐ横には地面に降りたユキが歩いていた。


「ふむ、結構強そうなのがいそうね」


 十分ほど歩いてリンフィールが急に止まり、そう呟いた。

 リンフィールが凝視している先にはたくさんの木々が根元から倒されたり、何らかが焦げた跡があった。


「うっわぁ。これはひどいね。これ冒険者だよね?何があったんだろ?」


「ええ。まだ腐った匂いがしていない以上、私たちが森林に来る前にやられたんでしょうね。こんな残状、何か騒音があってもおかしくないもの」


 ヴィルヘルムは何のことだかと思い、イフェリアの横から顔出して周りを見てみると数人の死体が無残な姿で捨てられていた。

 地面にはまだ乾ききってない血の水溜まりがいくつかあり、全ての人間は息絶えていた。

 武器を持っていたりしていたので冒険者であろう。

 しっかりと原型を保った死体はない、全て潰されているか全身がバラバラにされているかだった。

 脳みそや内臓の破片が飛び散っており、木々にこびりついていた。

 死体の一部にはカラスが群がっており、人の目玉を繰り出して啄んでいた。


「ここまでのは……スラムでも見たことない」


 スラムでは死体が転がっているなど日常の風景であったので、今更死体を見たところで何もヴィルヘルムは感じたりしない。が、ここまで死体が無残に放置されているのは見たことがない。

 基本、無表情の彼が顔を顰めるのも仕方のないくらいには酷かった。


「そっか。ヴィルはスラム街に住んでいたんだっけ?あそこもマフィア同士の戦争があったりしているらしいからね。死体を見慣れていて当然だったね。でも、見ていて気持ちいものではないよね。死体」


 イフェリアは少し、目を逸らしつつそう言う。


「間違いなく魔物によるものでしょうね。戦争でもここまでのはなかなかないわ」


 旅団が戦争に参加した際、もちろんリンフィールも参加していて数多くの死体も見たし、殺したがこの光景はそれ以上だった。

 故に、少しこの子らを連れ回るのは危ないかもしれないとも思った。


「あ、このおっさん…『幽霊の棺』じゃん。パーティではBランクくらいあったんだけど」


「そうなの?Bランクパーティが全滅なんて、Aランク程度の魔物がいるのは間違いなさそうね」


「A??」


 冒険者のランクも魔物同様10段階で定められており、強さ的にも互角くらいに設定されていた。

 しかし、ヴィルヘルムにはランクによる強さなど全くわからなかった。


「はぁ……今日は厄日ね」


 リンフィールがそう呟くと背後から殺気を感じた。

 そして次の瞬間、地面が波打って杭が勢いよく突き出た。

 その威力は、人間の頭など軽く潰すレベルだった。

 幸い、3人は攻撃を察知し、死体のある方向にバックステップすることにより避けた。


「ぐぎゃあああ!!!!」


 背後に現れた魔物は、虫系の魔物。通常より大きくなっていた魔物であった。


「特殊個体か。道理でBランクパーティが負けるわけね」


 リンフィールは、冷静にそう判断した。

 特殊個体、魔物は稀に突然変異し、人間や亜人と同じように魔力機関を体内に発現させ、魔法を使うことができるようになる。

 その個体は普段のランクから3段階上げられる。

 この魔物は元がCランクだった、つまり今はAランクの魔物となっていた。


「『ヘルマンティス』。早速虫系の魔物がお出ましってことね」


 鋭い、ルトーリアの持っていた刀という武器ぐらい湾曲し、首程度なら軽く切り落とせるであろうそのパワー。

 大きさは4mほどあり、普段の緑色から禍々しい青紫色に変色していた。


「ぐぎゃああああああああ!!」


 ヘルマンティスが咆哮をすると、再び土の先が鋭利である柱が地面からヴィルヘルムたちを狙わんと突き出てきた。

 それを全員避ける。


「ヴィル」


 ヘルマンティスの魔法を避けながらイフェリアがそう声をかけてきた。


「やってみる??」


 そうやって少し笑いながら言ってきた。


「やる」


 ヴィルヘルムは迷わず答えた。

 ここに来てからの一ヶ月、ヴィルヘルムは常に鍛錬をしてきた。それを試せる絶好な相手だ。

 強大な相手に抱く恐怖など、貴族相手に盗みをした時においてきた。

 ヴィルヘルムは、自分でも知らないうちに自身が自分の中にあった。それに、今は1人じゃない。ユキやアーラがいる。この2体がいるだけで何でもできる気がした。


「じゃあ、お願いね」


 両手で手を合わせて、舌を少しだけ出してそう言ったイフェリアはにっこりと笑う。そして、リンフィールの元に戻る。


「いいの?」


「いいの。もし危なくなったら私が助けてあげるから」


 イフェリアは、腰にある剣の柄を触りながらそういった。





 □




「さて、どうしようか」


 推定、自分の六倍は軽くあるであろう巨体のヘルマンティス相手にヴィルヘルムは、武者震いのような震えを覚えた。


「まずは小手調べだね。ユキ」


 現時点で、一番強いユキの名前を呼ぶとユキは紫電を体に纏わせ臨戦体制に入った。

 ヴィルヘルムは、召喚魔法の応用で以前ルトーリアにもらった刀と呼ばれる武器を召喚した。

 そして、目一杯の身体強化。


「行くよ」


「ぐぎゃああああ!!!」


 ヘルマンティスの魔法行使の合図となる方向と同時に、ヴィルヘルムは駆け出した。

 地面から出る杭を避けて、踏み台にしながら。


「アーラ!!引きつけて!!」


 ヴィルヘルムが猛スピードでヘルマンティスに接近していく時、アーラに指示を飛ばす。

 ヘルマンティスの俊敏性よりも小柄で空を飛ぶという自由が与えられているアーラの方が機動力は高い。

 アーラは、足の爪を立てながらヘルマンティスの頭を狙い続ける。

 ユキは、背後からヴィルヘルムのサポートをしている。ヴィルヘルムが避けきれない土の杭を雷の魔法で壊したりし、時には雷でヘルマンティスの本体を狙うのだが、魔力防御力が高くなかなかダメージが通らない。


 ヴィルヘルムは、何とか攻撃を掻い潜りヘルマンティスの懐へ滑り込む。

 そして、後ろ足2本を刀で切り付ける。

 甲高い金属音が森に鳴り響く。身体強化魔法を最大限まで上げたヴィルヘルムのパワーは、かなりのものがある。

 しかし、傷一つもつかない。

 それよりか、思い切り切り付けた反動で神経に手からしみ渡るような鈍い痛みがする。


 アーラを呼び寄せ、その足を掴んで空を浮遊するようにヘルマンティスから距離をとる。


「硬いね。どうしようか?」


 ヘルマンティスの攻撃を避けながらそう考える。

 現時点での最高火力を出そうと思えば出せる。おそらく一発で倒せるのだろうとは思う。

 しかし、その攻撃は自分にも反動が来て、周りの被害も甚大なものになる。

 眷属や人が近くにいる以上使えない。

 そうなると次なる選択肢は、ユキの持つ高火力の魔法行使である。

 ユキは、全属性の魔法を扱えるのだがその中でも威力の強い魔法は雷系統の魔法である。しかも、一点集中型の魔法なので、ヴィルヘルムとは違って周りの状況はあまり関係ないのだ。

 それで行こう、とヴィルヘルムは結論を出した。


「ユキ。強いのためて」


 ユキにそう伝えるとコクリと頷き一旦ヘルマンティスから距離を取った。

 敵は、突如自分を最も攻撃していたユキが離れていったことを警戒してか、すぐには手を出してこない。

 ユキは、術を編み始めた。

 ヴィルヘルムは、ユキの邪魔をされるのを阻止するべく牽制する。


「【付与魔術(エンチャント)】。『焔』」


 そう唱えるとヴィヘルムの持つ刀に炎がまとわりつく。

 付与魔術とは、文字道理武器に魔術を付与して斬撃に魔法攻撃を上乗せすることを可能とする技術である。

 それを見たリンフィールは感心する。


「へぇ。付与魔術かぁ。なかなかやるじゃん」


 付与魔術は、中級上位に位置する魔法である。

 本来ならば、魔法を5年間研鑽し長い実践の中で習得していく魔法である。

 それにもかかわらず魔法を触って数ヶ月の6歳がこの魔法を使っているのをみると、背筋が凍った。


「アーラ。敵の邪魔して」


 そう言うとアーラは上空へと飛び上がり、急降下しながら再びヘルマンティスの頭を狙う。

 アーラの小賢しい攻撃に気を取られている隙にヴィルヘルムは、敵の背後に回る。


「貯める。一点集中。焼き切る」


 そう呟きながら刀に纏わせている炎に集中する。

 すると、炎はさらに温度が上がり蒼く、鉄をも溶かし切る高温まで上がる。

 その温度は周囲の温度も上げる。背後から熱波が迫ってきたので、ヘルマンティスは背後に回られていたことに気づく。

 魔法を行使しようとすると、上空からアーラが邪魔してくるので魔法がうまく発動できない。

 特殊個体と言っても通常の個体より頭のいいくらいのこのヘルマンティスの頭脳では状況を打開する打開策を見出すのが難しかった。

 ヘルマンティスの視界の隅でヴィルヘルムが突然姿を消した。

 次の瞬間、自身の体に走ると鉄もない痛みと共にいきなりバランスを崩して前方に倒れてしまった。

 ヴィルヘルムに後ろ足2本を切り落とされたのだ。空には自身の足が高く舞い上がっている。


「ぎゅあああああ!!!!!」


 咄嗟に魔法を発動させる。

 地面から出る杭をヴィルヘルムは、避けたり叩き切ったりしていなした。


「そろそろだね。ユキ」


 バックステップで攻撃を避けながら、ユキに微笑みながら視線を送る。

 ユキの周りは魔力で溢れてお理、小石は電気を帯びて宙に浮き、周辺には空気がユキを中心に渦巻いているのがわかる。

 魔力の流れが激しくなったことでヴィルヘルムは、ユキの魔法の完成を察した。

 アーラを一旦ヘルマンティスから離して、自身は最後まで敵を惹きつける。

 ヘルマンティスに再び接近する。

 ヘルマンティスは、その両腕にある剛健な鎌をヴィルヘルムに向かって振り落とす。それを受け流しつつ、ヴィルヘルムは反撃する。

 右腕の鎌を刀の側面に当てて、威力を逃すように鎌を刀身を滑り落ちる形で流す。

 そして、バランスの崩したヘルマンティスの大鎌の付いている関節を狙い、叩き切る。

 後ろ足2本に続いて腕を2本とも切り落とされたヘルマンティスは、かなり焦っていた。

 自身が初めて経験する命の危機、ただの人間のガキだと思っていた雑魚にここまでこっぴどくやられた。

 バックステップで自身から距離をとる、無表情の少年の顔を見た時、ヘルマンティスは初めて恐怖を抱いた。


 ヴィルヘルムがある程度距離を取ったみるやユキが大きく吠える。


 そして、頭の少し上くらいに極限まで圧縮された極電圧の雷を放つ。

 まるで、竜の突進の如くに直線的な光線となって雷は打ち出される。

 その速度は、音速を超えて光速にかなり近い速さであった。

 そして、ヘルマンティスに命中する。

 命中すると一瞬の静寂を挟み、雷の極限まで圧縮されたエネルギーが爆裂する。

 シルラ森林に一瞬紫の光が全域に走った。そして、大きな爆発音と共に爆風が森林の木々を大きく揺らしながら森林を駆け巡った。


 ヴィルヘルムは、物凄い煙に包まれたこの場所から探知魔法によって敵を探す。

 生体反応はなかった。つまり、戦いはヴィルヘルムの勝利だった。


「お〜〜見事っ!!」


「わぶっ」


 イフェリアと初めてあった時と同じように彼女が後ろからヴィルヘルムの首元に手をクロスさせる形で抱きついた。


「私、いつ助けに入ろかなって結構考えてたんだけど、その必要はなかったね!」


 満面の笑みでそうイフェリアはヴィルヘルムに告げる。

 それを見たヴィルヘルムはどこか照れ臭そうに頬を指先で掻く。


「たまたま。作戦がうまくいっただけ。ユキとアーラがいなかったら危なかった。


「キュイ!!」


「くぅ!!!」


『そりゃそうだ!』と言っているように、二匹の眷属たちが鳴いた。

 アーラはヴィルヘルムの頭の上に止まり、隣に寄ってきたユキをご苦労様と、労いながら撫でる。


「よくやったわね。どうせ泣きついてくると思っていたわ」


「うん。まぁ、師匠とルトーリアさんのおかげ」


 フレイヤからの魔術の鍛錬に近頃はルトーリアからも召喚士としての闘い方や刀を扱う剣術の稽古をつけてもらっていたのだ。


「ルトーくんは剣もできるものね。それでもあなたの歳にくらいにAランクを倒せる人なんて世界にもほぼいないわ」


「そうなの??」


「ええ。現に私が君の歳くらいの時は、庭で飼っていたペットとかと遊んでいて、たまに魔術の稽古をしていたくらいよ。私じゃあんなの倒せっこなかったわ。今では一秒だけど」


 微笑みながらリンフィールはそう言う。

 明らかな化け物、それが今のリンフィールのヴィルヘルムへの評価である。

 6歳でAランクを倒せる人間なんてほぼいない。ほぼいない(・・・・・)のだ。

 その例外中の例外の1人がヴィルヘルムに抱きついてる天真爛漫なこの少女だ。

 2年前、イフェリアが5歳の時にイフェリアはSランクのドラゴンをソロで討伐している。

 特異体質である彼女だとしても頭のおかしい結果であった。

 そのことをヴィルヘルムを見て思い出し、少しため息を吐く。

 天才どもは、いっつもこうだ。

 リンフィールは、赤い髪のメガネの女の姿を思い描く。


「さて、そろそろ行きましょうか。死体についてだけど冒険者ギルドに報告だけしておいて帰りましょうか」


「そうだねリンさん」


「わかった」


 リンフィールは、思考から離れてそう言った。


「生き残りは……」


 森を離れる前、一応生存者の確認をしようと思ったリンフィールは、少し探知魔法で生体反応を探してみることに。

 すると、少し離れた茂みに小さな、リンフィールでも集中しなければ見つけられないであろう小さな生体反応に気がついた。


「ちょっと待って。生存者がいるわ。いくわよ」


 リンフィールは駆け出す。それについていくように2人も走る。

 少し走ると茂みの中へと血痕が続いているのを見つけた。

 茂みをかき分けて探すと、木に背をつけて呻き声を上げながら死にかけている男を見つけた。


「聞こえる??あなた、意識は??」


 すぐに近づいてリンフィールは声をかける。


「う……、だ、だれ??」


 息も耐える寸前で、ヒューヒュー吐息をしながら男が答える。


「意識もあるし声も聞こえるのなら大丈夫ね。上級魔法【上級回復術(エクスヒール)】」


 ヴィルヘルムがフレイヤと出会った際にかけられた魔法をリンフィールも男に使った。

 体力も切れる寸前だった男は、息を引き取るように失神した。


「危なかったわ。少し遅れていたら死んでいたわね」


 男を担ぎ上げながらリンフィールは言う。


「それじゃ、帰るわよ」


 手を2人に差し伸ばしながらそう言った。


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