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第五話 魔術と召喚

「さすがは私の見込んだ弟子だ。教えて一日目で初級魔法を使いこなすとは」


 天井に穴を開けて、レオリアの素っ裸をヴィルヘルムが見てから一晩経った。

 その後、鬼のようにレオリアに怒られてしまったがフレイヤは何故か楽しそうだった。それは、見つけた弟子がほんの図を見ただけで身体強化を扱えたことが大きい。

 そして、今日。

 太陽は既に真上に来ているのだが朝食後、魔法を教えたら一時間もすれば五大属性の初級魔法を扱えていた。


 火の初級魔法『フレア』

 水の初級魔法『リヴェール』

 土の初級魔法『ウォール』

 風の初級魔法『エアロ』

 雷の初級魔法『アンペア』


 通常、初級魔法をゼロから扱えるようになるには最低一ヶ月はかかるものである。それにも関わらずヴィルヘルムは一時間程度で使いこなせていた。元々、無意識下で魔力を制御し身体強化を自身で使った経験があるとはいえ、この習得スピードは異次元である。


「私に『フレア』を撃ってみろ。現状、自分が出せる最大火力で」


「いいの?」


「私を誰だと思ってる。世界とは言わないが王国最強の魔術師は私だ。今のお前の魔法じゃ私の結界一枚も貫けない」


「わかった」


 ヴィルヘルムは少し、フレイヤから距離をとり魔法の準備にかかる。


 魔法で大事になってくるのはイメージである。自分が持つイメージにより魔法の性質も威力も変わってくる。『フレア』の魔法は火炎弾をただ相手にぶつけるだけの魔法。火炎弾を想像して、そのイメージに合うように己の魔力を練り上げ、変化させる。

 これがフレイヤから教わった魔法の本質だった。

 言うは易し、その言葉がこれほど合うものはないだろう。ただイメージするだけではダメで、魔力を変化させるための緻密な魔力コントロールが必要になってくる。だから初級魔法でも通常は一ヶ月かかってしまうのだ。

 だが、ヴィルヘルムにはそれがない。まるで呼吸するかのように魔力のコントロールが容易にできてしまっているのだ。

 故に求められるのは次の段階。それは魔力の効率化である。


 通常のフレアよりも魔力に圧力をかける。

 火炎弾をもっと縮小させる。そうすると爆散した時の破壊力は跳ね上がる。手で水を使って水鉄砲をする時、手の中の水にかける圧力と、噴出口を小さくするとそれだけで発射される水の威力は上がる。これと同じことである。


「フレア」


 数秒ほどで魔法の発動まで持っていく。発射されるのは極数センチまで圧縮されたフレアである。ただ、その威力は通常のものと比べたら比にならない。


 凄まじい爆風と、火炎を伴って轟音を立てながらフレイヤにフレアが命中した瞬間爆発を起こす。

 庭の芝生が少々焦げて、あたり一面煙でいっぱいとなる。


「…ふふふ、おいおい。6歳のガキの魔法じゃないだろ」


 フレイヤが魔力を用いて立ち込めていた煙を霧散させる。フレイヤの周りにヒビが入っていた。


「まさか私の結界を傷つけるとは。さすがだな」


「たまたま。思いついたことがうまく行った」


「その思いつきが魔法においては大事なのさ。いやはや、私の結界に傷をつけてくるなんて、さすがに肝が冷えたな」


 フレイヤはここまでの火力を想定していなかった。今は屋敷にいるので最低限度の結界しか巡らせていなかったとしても、腐っても【紅蓮の魔女】と呼ばれるフレイヤの結界はAランク冒険者でも傷をつけるのは厳しいものなのだ。それなのに、下級魔法でヴィルヘルムは結界に傷付けてきた。そのことにフレイヤは戦慄していた。


「そろそろ昼飯だし、ここで一旦切り上げるか」


 太陽を見上げながらフレイヤはそう言った。


「わかったよ師匠」


「後、これからずっと一切身体強化を停止させるな。常に使え。お前なら私と同じように常に身体強化できるはずだ。微量でもいい。常い魔力をコントロールする癖をつけろ」


「わかった」


 ヴィルヘルムにそう言いながらフレイヤはどこかへと去っていった。





 □






「ご飯食べるの大変だった」


 ルトーリアの精霊が食事を作ってくれるのだが、身体強化の調整は難しく、皿やフォークなどの食器類を使うだけで壊していた。幸い、ある程度壊したところでコツを掴んで不自由なくご飯を食べられるところまでにはなった。

 身体強化の魔力消費量よりもヴィルヘルム自身の魔力回復量の方が多いので、魔力を出し尽くしてしまう、と言った心配はなかった。


 食事が終わり、午後からの時間。フレイヤはどこかに行き、ノアは怪しい声を出しながら部屋に引きこもっており、レオリアはまた別の仕事に向かった。クラウドは王城の方に顔を出すと言っていた。



「何しよう」


 ヴィルヘルムがそう呟いた時であった。


「ヴィルヘルム。いるでござるか??」


 部屋のドアからノックする音と同時にルトーリアの声が聞こえてきた。

 それを聞いたヴィルヘルムはドアを開けに行った。


「ルトーリアさん。どうしたの?」


「ヴィルヘルムは召喚魔法が使えるのであろう?魔物を召喚して見るでござるか??」


「やる」


 即答だった。

 自信を拾ってくれた恩を返すためにも、強くならなければいけないとヴィルヘルムは思っていた。そのチャンスが舞い降りて来た今、迷う理由などなかった。


「じゃあついてくるでござるよ」


「わかった」


 少しの不安と大きな期待を胸に、ヴィルヘルムはルトーリアについて行った。


 屋敷から出て、広大な庭の中心付近にいくと白い大きな魔法陣が描いてあった。

 周囲には庭を囲むように結界が施されており、万が一大事になった時用にルトーリアが作ったものだった。


「この魔法陣の中心にいくでござる。中心にある手形から魔力を流すとそれに応じた魔物が召喚してくるでござるよ」


「わかった」


 魔法陣の中心に歩いて行き、白く手形が描かれている場所に自分の手を当てて魔力を流しこむ。しばらく魔力を流し込んでいるといきなり深淵に落ちるかのような錯覚を覚えた途端にごっそりと体の魔力がなくなった。そして、ヴィルヘルムの魔力が普段の12分の1程度になってようやく魔法陣が反応を示した。


「ここまで魔力を使うとは。これは大物が召喚されるもかもしれないでござるな。拙者が黒龍を召喚した時もかなり魔力を消費した故」


「そ、そうなの??」


「そうでござる。ささ、召喚をするでござるよ」


 魔力をほぼ出し尽くし、息切れが激しいヴィルヘルムを起こしてそう言う。


「どうやって??」


「魔法陣に向かって『我が意志に答えし僕よ、ここに集え!』って言うでござる。それが召喚魔法の詠唱でござる。召喚魔法で出てきた魔物と契約すれば詠唱破棄ができるようになって、名を呼ぶだけで召喚可能になるでござるよ」


「じゃあやってみる」


「そうするでござる。【召喚】『黒龍』」


 ヴィルヘルムが詠唱しようとした時、ルトーリアが魔物を召喚した。

 ルトーリアの隣に巨大な魔法陣が出現したと思ったら、巨大な黒い龍が出現した。

 大きな翼は太陽すらも隠し、その大きな影でヴィルヘルムを飲み込む。分厚い鱗の装甲に覆われており、爪や牙は容易く人を貫くであろう。人間と龍の種族としてのさを特と見せつけられていた。


「これが拙者の相方の黒龍の『黒太郎』でござるよ」


「く、クロタロウ」


 ヴィルヘルムは龍につける名前じゃねぇだろ!と少し思ったが感性は人それぞれなのであまり考えないようにした。


「もし、召喚魔法で強い魔物が召喚された際、襲われることがある。その保険でござるよ」


「なるほど」


「じゃあ。読んでみるでござる。もし何かあればこの黒太郎が助けてくれるでござる」


「グルル!!」


 ルトーリアが言ったことに対して黒太郎は返事をしていた。黒龍は世界最強クラスの魔物なのに手懐けられていて何故か怖くないな、そうヴィルヘルムは思った。


「我が意志に答えし僕よ、ここに集え!!」


 ヴィルヘルムが自分の元に来い!!と強く念じながら。そうすると目をあえられないくらいの光が魔法陣から出てきて、周囲を光の世界にした。一体何が召喚されるのだろうか?そう考えながら、待った。


 少しの時間が経つと、光は収まり魔法陣の先に召喚されたのは


「くぅ!!くぅくぅ!!」


 小さな馬?否。竜?否。鹿?否。その魔物はその三体の魔物の特徴を全て捉えていた。龍の幼い可愛らしい顔で体は白銀の鱗で覆われており足と蹄、尾は馬そのものであり、額から小さく生えているツノは子鹿のようだった。

 小さな魔物ながら神々しく、その辺の魔物とでは比べ物にならない存在感を放っていた。それこそルトーリアの黒龍と同じように。


「………驚いた。まさか『麒麟』を呼び出すとは」


「麒麟??うわっ」


 麒麟はヴィルヘルムに飛びつき、そのまま頬をぺろぺろと舐めていた。

 その姿は子犬のようにも見えた。


「そうでござる。この黒龍たる黒太郎と並ぶ伝説級の、SSランクの魔物でござる。麒麟を見たものは末代までの繁栄を約束されるとヤマトでは言われているのでござるよ」


「そうなの??」


「うむ。そして、麒麟が戦えば天が割れるとも言われている」


「黒龍と同じくらい強いの??」


「う〜む。難しい質問でござるな。召喚士との相性抜きに考えても互角ぐらいであると思うでござるよ。今は、その麒麟は幼い。ので黒太郎には勝てないでござる。拙者も麒麟を見たのは初めてなものでな。なんとも言えぬでござるよ」


「そうなんだ」


「そうでござる。ささ、名をつけるでござる。召喚士において魔物との契約の証になるのが名付けでござるよ」


「わかった」


 麒麟を見ながら少し考え込む。

 白銀の鱗がキラキラと太陽の光に反射して美しく見える。


「じゃあお前の名前はユキ」


 ヴィルヘルムは、麒麟を最初に見た時その白銀の体が足跡ひとつない太陽の光を反射してキラキラと光る雪原に見えたからだ。名前を名付けると麒麟の体とヴィルヘルムの掌に紋章が浮かんできた。光り輝く紋章を見ながら、ヴィルヘルムは契約完了を悟った。


「契約が終わったでござるよ。よかったでござるな。これからはそのユキがヴィルヘルムの僕となった」


「よし」


「くぅ!!」


 ヴィルヘルムがルトーリアに向かって拳を向けたと同時にユキも片足をルトーリアに向けて掲げていた。


「ヴィルヘルムと息ばっちりでござるな。もう一体呼んでみるでござるか?」


「呼べるの?」


「うむ。召喚士には魂に要領があるのでござるよ。拙者はそれが大きいのでいろんな魔物と契約しているのでござる。ヴィルヘルムにはまだ余裕はある。もう一度は確実に呼べるでござるよ?」


 強い魔物と契約を結べばそれだけ容量は減るのだ。麒麟を呼んだヴィルヘルムには後半分くらいの余裕はあった。

 ヴィルヘルムの容量は一般の召喚士よりも多いものの、SSランクの麒麟を’呼び出したことによりかなりの容量を食っていた。一方、ルトーリアの容量は莫大過ぎて、1000体以上の魔物と契約してもそこが見えない異常体質なのである。その影響で彼はSSランクの魔物数体も余裕で契約できていた。


「やってみるよ」


 魔法陣に残った魔力で魔法を発動させる。

 2人は次はどんな魔物が出て来るのか楽しみで仕方がない、と言った様子で待っていた。


「キュイ!!キュイ!!」


 出てきたのはひよこだった。

 麒麟と打って変わって小さな小さなひよこだった。

 少し黒目のふわふわな羽毛につ生まれていた生まれたばかりのひよこだった。


夜鷲(ナイトホーク)でござるか。Dランクの魔物でござる。魔法陣に残った魔力が少なかったのかもしれないでござるな。どうするヴィルヘルム。今ならかえすこともできるでござるよ?」


「いやいい。僕はこの子がいい」


 ヴィルヘルムはひよこを掌に乗せてそう言った。


「君の名前はアーラだ」


 翼を意味する言葉をヴィルヘルムはナイトホークに送ると、先ほどできた紋章が再度輝くとナイトホークの翼の一部に小さく紋章が出現した。


「うむ。これ以上は魔力量が無くなったからできないでござる。では大切にするのでござるよ?」


 そう言ったルトーリアはヴィルヘルムの頭を撫でた。

 撫でられるヴィルヘルムはほくほく顔をして眷属を眺めていた。


 この日、魔術師・召喚士としてのヴィルヘルムの伝説が始まったのだ。

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