第三話 馬車の中で
馬車の中、整備された道を走っている。この時期のユレイドル周辺は雪で覆われているのだが、馬車に搭載された魔道具によって雪原の中を馬車が走ることを可能にしていた。
馬車は二頭の馬が引っ張り、2台と馬車の二つを引っ張っていた。馬も疲れているのだろうと思ったヴィルヘルムだったが、どうやらこの馬は普通の馬ではなく、霹靂旅団の召喚師であるルトーリア・カグラザカという人が召喚した魔物の馬であるそうだ。通常の馬の三十倍は余裕で走れる上に、足が速いそうで快適な旅のお供である、とノアが教えてくれた。
現在馬車の中にはフレイヤとヴィルヘルムしかいない。
ノアは薬の調合に荷馬車の方に移って自分の作業をしており、レオリアは馬の手綱を握っていた。
ヴィルヘルムはこの際に気になったことをフレイヤに聞いてみようと思っていた。
「フレ……師匠」
「なんだ?」
「スキルって何?」
宿でノアと会話していた時、ノアが自分は【調合師】というスキルを持っていると話していたことを覚えていた。
ノアには聞けずじまいで終わっていたがこの際聞いておこうと思ったのだ。
「ああ、ノアから聞いたか。スキルとはな、この世界にいる神からの恩寵だとされているな」
「恩寵??」
「そうだ。神話時代に他の魔神との戦いで力を大きく失った主神は、ヴィルヘルムに自身の力を分け与え、そしてヴィルヘルムに地上を収めさせた話はしているだろう?」
「はい」
「ヴィルヘルムも人間だ。やがて死んだ。ヴィルヘルムの力の残滓はこの世界の輪廻へと移った。その際、力は分散してしまっているがな。そして、その力は稀に輪廻転生を経る人の魂に結びつく。そのヴィルヘルムの力の一端を受け継いだ魂が地上へ転生した際に、その力がスキルとして顕現した状態で人が生まれるってわけだ」
「じゃあ、ノアのスキルは元々ヴィルヘルムのものだったってこと?」
「そうだ。ノアのスキルの権能は、鑑定と調合効果増加だ。鑑定は文字通り、全ての者の情報を抵抗されない限り開示できる能力だ。もう片方は、ノアが調合した薬は効果が倍増する。例えばノアがただのポーションを調合したら、そのポーションは権能によってハイポーションとなるんだ」
「すごいね」
「ああ。私らも助かってるよ」
ノアは思ったよりもすごかった、とヴィルヘルムは思った。
「あと、私も持ってる」
「そうなの?」
「ああ。と言ってもノアと比べたら大したことない。ノアのスキルの権能の中にもある鑑定さ。だが、それがあったからこそお前の才能を見抜けた」
「へー」
「……お前自分に興味ないだろ」
フレイヤがジト目でヴィルヘルムを見る。
実際、ヴィルヘルムは自分にあまり興味がない、というより興味を持つ余裕がなかった。
生きるか死ぬかが常に隣り合わせなスラム街の孤児で、興味を持たざるを得なかったのはその日の飲食物ただ一つだけだった。それがなければ死ぬだけだったからである。
そんな状況下で、自分に興味を持つことなんかヴィルヘルムにはできなかった。
「まぁいい。お前は【特殊魔法】を二つも持っていた。これはとんでもないぞ。私ですら一つだ」
「すごいの?」
「ああ。すごくてやばい。レオリアの貧相な胸ぐらいやばい。あ、あれが原因で200年彼氏ができなかったのか?」
「うっさいよ!!フレイヤ!!」
馬車の外で手綱を握っていたレオリアがそう叫ぶ。
どうやら聞こえていたようだ。
「それで、お前の持つ魔法はおそらく【召喚魔法】と【激核魔法】だ」
「そうなんだ」
「そうだ。私の【激核魔法】にルトーリアの【召喚魔法】を持ちつつ私に匹敵する魔力を保持するときた。お前は人外だよ。人外」
「凄いのか?」
「ああ、凄い。この私の次にな」
どこか張りあってる自分の師匠に、ヴィルヘルムは少し大人気ないな、コイツと思った。
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