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第二話 小さな薬剤師とドジなエルフ

「ん?……ここは??暖かい」


 この季節に温かさを感じたのは初めての経験だった。

 そして、ふかふかのベッド。

 自分が寝ていたそれを、ヴィルヘルムはこの世のものとは思えないものを見るような目で見ていた。

 布団でなんか寝たことがなかった、純白の布団を見ているとこれは自分が使っちゃいけないもののように見えてくる。

 意を決して、ヴィルヘルムは起き上がる。


「あ、起きた。フレイヤさん。起きたよ」


「っ!!?」


 急に声をかけられたヴィルヘルムは、背後にきゅうりを置いた猫のように飛び上がった。それを見ていた可憐な少女は、ずっとこちらを観察していた。翡翠の瞳がこちらを射抜いてくる。沈黙が続く気まずさに負け、ヴィルヘルムは彼女に聞いた。


「ど、どなたですか??」


 そう尋ねながら少女を観察する。

 美しい花緑青の髪をいわゆるサイドポニーで横に流し、桜色の唇は彼女の整った顔立ちを更なる美貌へと昇華させていた。背はまだ低く、おそらく6歳である自分と同じくらいであると思われた。手には本を持っており、服装は清楚な印象を受ける

 少し間をおいて、彼女は口を開いた。


「私はノア。ノア・ヴィンブルク。この旅団の薬剤師」


「この旅団の?僕はヴィルヘルム、って名付けられた」


「聞いた。フレイヤが拾ったって。召喚魔法と激核魔法の使える頭のおかしいヤツだって」


 ノアは無表情でそう言う。

 大人しい人であるのだろう、そうヴィルヘルムは思った。


「召喚魔法?激核魔法?」


 何も学んだことないヴィルヘルムは、なんのことだかさっぱりだった。


「フレイヤさんとルトーを足して二で割った感じ?」


 ノアもあんまりわかっていないようだった。


「あなた何歳??」


 不意に、ノアがそう聞いてきた。

 それを聞いたヴィルヘルムは少し考える。

 ヴィルヘルムは、自身の年齢を正確に知らない。物心ついた時にはすでに捨てられており、周囲にいた浮浪者や捨てられていた子供たちの真似をしてなんとか生きてきた。ので、自分の年齢など把握していないし、暦などもわからない。

 ただ、自分が周囲にいた6歳の子供と同じくらいの身長であったから多分、6歳であろうと思っている。


「6……歳??多分??」


「多分って?自分の誕生日もわかんないの?私は5歳。大陸歴454年の11月11日」


「そうなの?」


「そうなの」


 少し、表情の変化は少ないがドヤ顔している気がするヴィルヘルム。

 初めて同年代とした会話であるので、少しどこか楽しんでいる自分に気がついいた。

 スラム街にいた時は、同年代の子供はおろか、全てが敵。金目のものや飲食物などを持っていたら殺される。ゆえに誰かと仲良くなる余裕など微塵もなかった。


「よろしく?多分僕もここにいることになると思う」


「うん。フレイヤさんから聞いた。私はいいよ」


「私は??」


「うん。旅団のみんな全員がいいというかわからないから」


「旅団ってフレイヤとノア意外にもいるの?」


「うん。みんなで9人。ヴィルくんで10人目」


「ヴィルくん??」


「あなたの名前長いから」


「そうなの?」


「そうなの」


 表情や感情が乏しいもの同士、どこか機械的な会話をしていた。

 側から見たら少し、怖いかもしれない。

 だが、当の本人たちは全く気にしてなどいなかった。

 しばらくの間、ヴィルヘルムが質問してそれにノアが答えるという構図が出来上がっていた。


「10人って多いの?」


「わからない。少ないと思う。けど国で一番強いからいい」


「そうなの?」


「うん。私以外みんな強い。スキルを持ってる人もいる」


「スキル?何?それ?」


「特殊能力のこと。私も持ってる。【調合師】ってスキル。なんだか持ってる人すっごく少ないんだって」


「魔法よりも?」


「多分?」


 互いに話し合っていると、扉が開く音が聞こえた。

 入ってきたのは帽子を取ってコートを脱いだフレイヤだった。


「お?結構仲良くなってるな」

「フレイヤ?」

「あ、フレイヤさん。」


 2人同時に入ってきたフレイヤを見る。

 ヴィルヘルムの方向にフレイヤが歩いてくると、一発拳骨をした。


「い、痛い」


 頭のてっぺんを抑えながらヴィルヘルムがそう言う。

 それをみたフレイヤは笑う。


「ばーか。いきなり気を失うな。あと師匠だ。師匠」


「師匠?」


「ああ。偉大なる魔術師、フレイヤ師匠でもいいぞ?」


「また始まった。フレイヤさんの馬鹿の一つ覚えのように偉大なる〜って呼ばせようとするやつ」


 ヴィルヘルムは、フレイヤに手を差し出されたあと気を失った'。

 その理由は回復魔法は、患者本人の体力を用いて外傷を治す魔法である。それによってただでさえ体力が切れかけていたヴィルヘルムがそれに耐えられるハズもなく、気を失ってしまったのだ。

 そして、フレイヤたちが寝泊まりしているこの宿に寝かされていたのだ。


 ノアの嫌味を流しつつ、フレイヤが言う。


「じゃあ、帰るか」


「帰る?」


「おー。そうだった、お前は知らないんだったな。私らの本拠地はユレイドルではなくて、王都ワルシュレイにあるんだ。たまたま、仕事でここにきただけで、もう帰る。いやぁ〜ヴィルヘルムは拾い物だった」


 才能あるやつを鍛えられる、グフフフ。と一眼見たら明らかに危ないやつだと認識されてしまうような悪どい笑みを浮かべながらフレイヤは独り言を言う。


「レオリアさんは?」


 ノアがフレイヤにそう聞く。


「レオリアは今、ユレイドル支部で今回の報酬を受け取っている。まぁ、時期に戻る。とにかくすぐチェックアウトして飯でも出発前に食いに行こう」


「レオリアさん。ドジってないかな?」


「ま、まぁ流石に大丈夫だろ?多分。」


 まだ見ぬレオリアという人は、相当なドジなんだろうな、とヴィルヘルムはそう思った。










 □









 大人1人、子供2人という面子でユレイドルの大通りを歩いていた。

 昨日まで、自分がその場所を歩くなんか考えられなかった。スラム街の者は虐げられ、迫害されている。大通りに出たら袋叩きに会うのは容易に想像でき、スリをしようとした人間がいたが、スラム街には帰ってこなかった。

 そんな場所をヴィルヘルムは歩いていた。


「さて、飯も食べたし。レオリアと合流してさっさと王都に帰るとするか」


「そうだね」


 前の2人の背に隠れながら、周りを見渡しつつ2人に着いていく。

 お目当ての人がいた。

 冒険者ギルドと呼ばれる大きな木造の建物の前に一際目立つ女性が立っていた。


「おー、おー。いたいた。おーい、レオリア〜」


 なんだか気の抜けるような声でフレイヤがそう呼びかける。


「あ!フレイヤ!!やっと会え…っどわぁあ!??」


 レオリアがこちらに向かって少し小走りで走ってきた時、彼女は思いっきりコケた。

 それはもう、芸術的に。

 小石を踏んだときそのまま足を滑らせ、背中を地面にぶつけるかと思いきや、そのまま一回転して大きな音を立てて尻餅をついた。

 これが、ドジってことかとヴィルヘルムは思った。


「今日も今日とて、だな。レオリア」


「う〜。痛い」


 お尻を手で摩りながら立ち上がるレオリア。


 長い金髪を後ろでポニーテールのように束ねて、エルフの象徴である横に長い耳をもっている。

 エメラルド色の瞳で、背も女性の中ではかなり高い方でありスタイルもいい。

 まさに絶世の美女と言っても過言ではないような容姿だった。


「気をつけてるんだけどなぁ〜」


「気をつけて直るものじゃないってことだろう」


「レオリアさんはもう手遅れ」


「非道い!!」


 もぉ〜と声を上げながら、レオリアは怒っていた。

 会話の流れについて行けず、ヴィルヘルムが何が何だかわからないでいると、


「あっ!この子がフレイヤが拾ってきた子??」


「ああ。私が拾った」


「そっかぁ〜。顔が結構いい子供だね!将来性あるねぇ〜。名前は?あたしはレオリア、レオリア・リンブルムだよ。見ての通りエルフ!!」


「さすがレオリアさん。ウルトラ面食い。それだから200年間独身なんだ」


「うるさいよ!!ノアちゃん!!」


 レオリアは活発な女性だな、とヴィルヘルムは思った。


「僕はヴィルヘルム?です?よろしくお願い…します?」


 ヴィルヘルムはチラチラとノアを見ながらそういう。

 先ほど、食事をしていた際にいろいろなことをノアに教えてもらっていたのだ。

 辿々しい敬語を使って、この言い方が合っているのかをノアを見ながら確認していたのだ。


 それにノアは、ドヤ顔でサムズアップする。

 それを見たヴィルヘルムは胸を撫で下ろした。


「うんうん。よろしくね!団長の確認はとったの?フレイヤ?」


「いや、まだだ。まぁ、反対するのはローランくらいだろうな」


「そうだねぇ。あの陰険メガネだけだろうねぇ」


「陰険メガネ??」


「ああ、ヴィルはまだ知らない。私らの旅団の参謀だな。あいつの指示で私らは動いてる」


 ヴィルヘルムは陰険メガネ、という単語から背が高い神経質そうなメガネをかけた男性を思い浮かべる。


「うん。大体そんなのであってる」


「え?考えてることわかったの?ノア?」


「陰険メガネって聞いて、想像する人間像は万国共通」


「そうなの?」


「そうなの」



 どちらとも感情が乏しい2人だが、なぜか不思議とコミュニケーションは取れていた。


「なんか面白いね、2人」


「拾われた者同士、なんか気が合うんだろう」


 レオリアはその光景を見て微笑み、フレイヤはそれに応じる。

 4人の中では和やか空気が流れていた。










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