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第一話 出会い

 

「寒い……」


 大陸歴459年、季節は冬。

 北陸大陸の最北方、ワルシュレイ王国のユレイドル地方の冬は凄まじい寒波が押し寄せる。

 ユレイドル地方の都市、ユレイドルでは雪に阻まれ、陸にある孤島となっている。

 雪に埋もれた街中の路地裏、そこで1人の少年が倒れていた。


 痩せほそった体は皮と骨しかないように見え、いわゆる貧相な体である。

 黒髪は埃、垢、泥などで汚れ、シラミなどが住み着いていた。

 極寒であるにも関わらず、薄い布一枚で倒れている少年はあと数刻で死に至るように見える。


 両親に捨てられ、当てのある親族もいない。

 ある日は生ごみを漁り、ある日は盗みを働いた。

 全ては生きるため、だったのだが少年の命の灯火は消えようとしていた。

 

 もう疲れた、楽になりたい、と少年は考えていた。

 死ねば楽になれる、死ねば全てが終わる。死ぬのもいいかもしれない。そう思っていた。

 盗みに失敗して、命からがらこの路地裏に逃げてきたものの、大の大人から受けた暴力は確実に体を蝕んでいた。骨が折れ、胃の内容物を吐き戻し、這いつくばってでも逃げてきた。だが、そうして助かるためにそうしたものの、少年は生きる理由がないように見えた。

 スラム街に捨てられ、数年間生きた少年は息を引き取ろうとしていた。


 そんな時だった。

 

「おー、おー、死にかけてんなぁ」


 目を瞑り、死を待つことに集中していた少年の頭上から女性の声が降り注いだ。

 追い剥ぎでも来たのか?そう思ったものの、自分にはとられるような物はない、ともかくこうして死にゆく自分に声をかけてくる人間なんぞ、ロクでもないやつなんだろう。

 そう思った少年は、無視を決め込んだ。


「おーい、おーい。生きてんのかぁ???」


 朦朧と、ゆらゆらと揺れる煙のような少し風に吹かれたら消えてしまう意識の中、体を揺さぶられている。

 そして、いわゆるお姫様抱っこのような形で抱え上げられる。


「どうした少年?ん??あぁ、怪我してんのか」


 少年のアザだらけの体を見て、少し凝視すると女は少年をまた地面に寝かせる。


「ふむ、こりゃひでぇな。少年、骨何本か折られているな?盗みでもしたか?」


 ニヤニヤしているのがわかるような口調で女はそう言う。


「ちょっと待ってな。上級魔法【エクスヒール】」


 女が何か唱えると、急に体の節々まで冴え渡っていた痛みが一瞬で消え失せ、一気に意識も回復していた。

 

 ばっと起き上がり、少年は女を見上げる。


「おーおー。復活だな。さすがは私の魔法。イけてるな。感謝しろ?少年。お前の命の恩人は私だ」


 そう、話す女は長くこの歳のスラムで動いてきた少年が知らない女だった。

 ルビーのような見たものを引き込むような深い赤の腰まで伸ばしたストレートの長い髪。

 見たらわかってしまうような高価なコートに身を包み、頭にはベレー帽をかぶっていた。赤い縁の眼鏡の奥にある瞳は、物語で想像する少年がまだ見たことない海ように深く美しい蒼色であった。


「名前は??少年。ちなみに私はフレイヤだ。霹靂旅団という旅団に所属していてな。少しばかり有名だぞ?」


「フレイヤ??」


「そうだ。偉大なる魔術師を付け加えてもいいのだぞ?それで?君の名前は?」


 ふと考えてしまう。

 そういえば、名前で呼ばれたことなどなかった。

 そもそも人と関わりを持たなかったので、名前なんかそもそも知らなかった。


「知らない」


「ほう、知らないのか」


 顎に手を当てながらフレイヤは考え込む。

 そして、何かを思いついたように右手を握り、左手の掌の上にポンっと当てた。


「では私がお前に名をつけよう。お前はヴィルヘルムだ。お前も知っているだろう?世界神話の英雄さ」


 フレイヤが言った名前は、学がない少年でも誰もが知っているような神話の英雄様の名前だった。はるか昔、世界がまだ安定していなかったころの話、英雄ヴィルヘルムが世界の各地に住まう魔神を平定して世界に平穏をもたらしたという物語はもはや常識のように有名な話である。


「そして私について来い」


「????」


 ヴィルヘルムは、フレイヤの言っていることがよくわからなかった。

 何か、自分にさせるのだろうか?

 助けてもらった以上、従わないといけない。そういう風にヴィルヘルムは捕らえた。


「お前には魔法の才がある。私がお前を高みへと連れて行ってやる」


「ま、魔法??」


「そうだ。お前には魔法の才がある。それも特大のな」


 魔法、火・水・風・土・雷の五属性を主とする魔力を用いて自然現象に干渉する技術。

 魔法が扱えるのは千に1人と聞く。

 そんな才能が自分にあるとは到底思えなかった。

 だが、理由はないが、この弱肉強食の世界で生き残るチャンスを得た。それを見過ごす選択はヴィルヘルムにはなかった。

 そもそも、実際は死んでいた身である。どこにいようともはや死を待つしかなかった。


「行かない、というのであればいいのだが」


「行く」


「…即答だな。一応、聞くが旅団はわかるな?」


「旅団……」


 その言葉はヴィルヘルムの知らない言葉でもあった。


「そうだ。旅団だ。旅団は冒険者や傭兵業、時には暗殺なんかを行う総合的な荒事専門の会社みたいなもんだと思ってくれていい」


 そういうフレイヤはこの日初めて真剣な顔をしてそう言う。


「私についてくると言うことは、まぁかなり、と言うより今のお前じゃ超危ないぞ?それこそこの街に止まっていた方が長生き…安全かもしれないしな」


「うん??」


「お前はそれでも私と来るのか??」


 フレイヤはヴィルヘルムの両肩を掴み再度質問してきた。

 ヴィルヘルムの答えはもう決まっていた。


「行く」


 自分は助けられた。だからこの人に恩を返したい。

 死にたいと思っていたが、フレイヤについて来いと言われた時、ヴィルヘルムは初めてこの世界から認められて気がしていた。

 フレイヤに恩返しすること、それが今ヴィルヘルムが見つけた生きる理由だった。


「わかった。ならついて来い。ヴィルヘルム。私がお前の最初の家族になってやろう!」


 紅の魔女は笑いながら俺へと手を差し伸べた。

 

 

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