タナカさんと花崎家
タナカは大家さんに連れて行かれた。しかしアライグマの時のような悲鳴は聴こえてこないでいる。その事を不思議に思ったサキたちは壁に耳を当ててみるが特に何も聴こえてこない。
するとまた玄関のドアがノックされた。母がドアを開けると先程まで怒り心頭だった大家さんは微笑みながら
「タナカさんのことは私が許可します。タナカさんまた遊びに来てね」
とタナカをサキの部屋へ送り出した。タナカは大家さんからもらったピーナッツをポリポリ食べながら何事もなく戻ってきた。あの動物嫌いな大家さんがたぬきのタナカをどうやって受け入れたのかは納得いかなかったが、とりあえず狸が家に住む事になってしまった。
タナカが戻ってきたことにサキとユウタは凄く喜び、3人で交互にハイタッチをしていた。母は喜んでいるサキとユウタを見てタナカを受け入れることにした。
「タナカさんちょっとこっちに来て」
「お茶ならさっき大家さんにたくさんもらったからいらないぜ」
「そうじゃないの、これからタナカさんが花崎家の一員として過ごすためにルールを説明します」
最初はゴネるかと思ったがタナカはそれを素直に快諾した。
1つ、サキやユウタにお金を与えないこと
1つ、サキやユウタに無闇に物を買い与えないこと
1つ、お風呂は毎日入ること
1つ、ヤモリや爬虫類を家に入れないこと
1つ、母が言うことは守ること
だった。タナカは
「なんか座りっぱなしだったからちょっと散歩行ってくる」
そう言って立ち上がるとサキはあまり長くはない髪をツインテールに結んで
「わたしも一緒に行く! 」
とタナカと一緒に散歩へ出かけることになった。タナカとサキは2人並んでてくてく歩いている。新雪の上を歩くと足あとが残り、タナカはジグザグに歩いたりピョンと飛び跳ねて歩幅を大きくしたりして遊んでいたのでサキもタナカのマネをして遊んだ。
「タナカさんって裸足だし裸だけど寒くないの? 」
「そりゃ足は冷たいけど歩けないほどじゃないし、これは裸じゃないだろ! このふかふかの毛並みが目に入らぬか! 」
と言うとサキの首元に巻き付いた。サキは
「わかったよタナカさん」
そう言うとタナカは首から飛び降り
「わかればよい」
とまた歩き始めた。どうやらタナカは自分の毛並みが自慢のようで、そのことに触れられると少しムキになることをサキは理解した。