タナカさんと大家さん
サキの母はタナカを見ながら、タナカは口を開けたまま固まっている。
「昨日はバタバタしてて言い忘れてたけど、ここの大家さんは動物嫌いで動物は禁止されているのよ。以前大家さんに黙って鳥を飼っていた人がいたけど。大家さんから追い出されて引っ越しせざるおえなくなったのよ」
サキの母の言葉を聞いて、タナカは札束を取り出し
「問題ない。引っ越そう。アライグマの出ない高層マンションへ」
そう言ったタナカへ、サキの母は札束を押し戻し
「タナカさんそのお金は受け取れません。私たちには私たちの生活があるのです」
タナカは解ったのか解らないのか札束を引っ込め
「なら大家とか言うのに頼んでみる! 」
そう言ってアライグマのカワサキの方を見ると、隣の大家さんの部屋から大きな虫取り網がニョキッと出てカワサキは網に捕らえられ隣の部屋へ引き摺り込まれ
「イヤァアアー! ギャーーアァァアァア! ギャラクシー! 」
と悲痛な叫び声が聴こえている。タナカは冷や汗をかきながら母の方を振り返り
「今日はなんだか取り込み中みたいだから後日にしようか」
と爽やかな笑顔を見せて座卓へ着いた。
サキと弟のユウタと一緒に朝食を食べ始めるタナカを見て母も一緒に朝食を取り始めた。朝食を食べ終えて静かにしているタナカへ母は
「タナカさん、さっきのアライグマさんの状況を見たでしょ? 早くこのアパートの敷地から出たほうがいいわよ」
静かにそう言った。
ドンドン!
突然部屋のドアが激しくノックされ
「花崎さん! この部屋で狸を見たって報告がきたのですけど、ドアを開けてもらえませんか」
高齢の女性の声が響いた。サキとユウタは顔を見合わせてタナカの方を見た。サキの母はタナカを見て
「大家さんだわ、私が時間を稼ぐから窓から逃げなさい」
そう静かに伝えて立ち上がった。そしてタナカは窓へと向かい窓を開け
「居るじゃない。狸が…… 」
なんと大家はいつの間にか玄関のドアから窓の方へと移動していたのだ。目を光らせながらタナカの首根っこを掴み自分の部屋へと連れて行った。タナカは悟った顔をして
「あーるはれたーひーるさがりーいーちばーへ…… 」
ドナドナを歌い始めた。サキは母の顔を見て
「タナカさん連れて行かれたけど、なんか余裕そうだったね」
「諦めたのかな? 」
サキとサキの母は何事もなかったかのように朝食の片付けを始めた。