タナカさんとクリスマス
サキや弟やタナカがシャンメリーで賑わう裏で台所の母は電子レンジでフライドチキンを温めながら頭の中を整理していた。
1 料理がてんこもり
2 散乱するオモチャ
3 喋るたぬき
4 思い出したくもないアレ
5 全部たぬきが買った
とぶつぶつ考えていた。サキの母は料理を温め一品ずつ座卓へ並べながらタナカを見た。やはり狸である。次の料理を運んでタナカを確認した。やはり喋っている。
サキの母は頭を抱え込み。普通じゃない状況が普通に行われている事に、もしや自分が異常なのかと考えたがやはりこの状況は普通でないと答えに達した。
しかし楽しそうにしているサキやサキの弟を見ると母は諦め、せっかく話せるのだからたぬきに聞いてみようと考えた。
「ねぇたぬきさん」
「タ・ナ・カ」
タナカの返事に少し母はイラッとしたが大人気無いことはするまいと話しを続けた。
「タ・ナ・カさんはどこからきたの? 」
「熊本県の山の方」
「意外と近いじゃない。タナカさんは何で喋れるのかな? 」
「知らねーよ爺ちゃんと喋ってたら自然と話せるようになったんだよ。そんな事より料理が冷めないうちに食べーぜ姉さん! いただきます! 」
タナカが手を合わせるとサキや弟も手を合わせて『いただきます』と言った。タナカの意外な行儀良さに母も続いて『いただきます』と言った。
食事が始まるとタナカはフライドチキンを手に取りモシャモシャ食べながら
「サキちゃん、ユウタ、一緒にゲームやろうぜ! 」
「えーっ私もこのゲーム使い方がわからないよ」
「え? サキちゃんもわかんないの? じゃあ踊るか! 」
タナカはまたタヌタヌ言いながら腰を振り踊りだした。サキの弟ユウタもタナカのマネをして踊りだし、母は
「お行儀良さそうなのは間違いだった…… 」
そう呟くとサキとタナカは
「タナカさんお食事の時は踊ったらダメだよ」
「そうなのか? じゃあ食べ終わったら踊ろう! 」
「うん! 一緒に踊ろうね」
そんな会話を繰り広げるので母は安堵と同時にサキの将来が不安になってきた。しかし考えたら女手一つで育ててきて仕事や家事に一生懸命になり、こんなに笑顔のサキ見るのは久しぶりだと気付いた。
この現状は理解できないが子供たちが楽しそうなのを眺めるのに夢中になり、いつの間にかサキの母も一緒に笑っていた。
しかし母はタナカの変な踊りだけは絶対踊らなかった。