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第5話 巫女になってよかったこと


「ところでジルベルドさん」

「どうしましたか、カーテネラ様」

「巫女のお仕事って、ぶっちゃけ何をするんですか?」


 神都メディオクリスへ向かう途中、私はジルベルドさんに聞きたいことがあった。


 巫女というのが具体的にどんなものなのか、普通の一般エルフには知るすべがない。このあたり一帯の空島を守ってくれる神秘的な存在という、実に曖昧な認識なのだ。


「まず、神都についたら、カーテネラ様には神殿にて神託の議を行ってもらいます。その後は日々の日課として世界樹への祈り、そして神都の中を散策して治安維持に努めてもらいます。他にも神殿内での公務が諸々に、後は……時折神都にある昇降機で地上に降りて、人間との交流を図ってもらうくらいですかな」

「ええっと……すみません。世界樹って何ですか? 初めて聞いたんですけど」


 そう聞くと、ジルベルドさんはどこか遠くを見ながら質問に答えた。


「神都の中央に樹立しているとても大きな大木の事です。伝承によると、大昔に存在した我らが神の意志が宿っているとききます。……ほら、見えてきましたぞ」


 そう言って前方に指をさすジルベルドさん。

 その方角を見ると、なにやら遠くの雲の境目から見える景色の中に、大きな空島が浮かんでいるのが見えた。


 それは、私が住んでいた田舎の空島とは比べ物にならない程の大きさで、その中央には確かに巨大な、大きな大樹がそびえていた。その根っこは島全体を覆いつくさんほどに張り巡らされており、その葉は一枚一枚が積み重なって島全体に大きな影を落としている。

 まさに絶景。これだけでも見惚れる価値があるだろう。


 だが、それだけではない。神都というからには、その島は私の故郷とは比べ物にならないはずに賑わっているはずだった。そして実際、大樹の根の上やその隙間に小さな白い凸凹が島の上に張り巡らされていた。緑色の部分は島の端っこの部分しかなく、どうやらそれ以外の部分には全て石の建物がそびえ立っているようだ。

 エルフらしき人影もちらほら見えるし、空を飛んでいるエルフの群れはこちらも健在だ。


「さあ、もうすぐ着きますぞ」


 そして空飛ぶ円盤は、街のど真ん中、建物が密集する中にある大きな広間に近づいていった。


 そこには既に、多くのエルフが集まっていた。広間に近づくにつれ、歓声が大きくなり、スタンディングオベーションが鳴りやまない。

 そして広間に降り立つ頃には、エルフたちが何を言っているのかも聞き取ることができた。


「キャー! 新しい巫女様よ!」

「カーテネラ様! どうか我らに御加護を!」

「巫女様! どうか我らを災いからお守りください!」

「カーテネラ様万歳!!」


 みんながみんな満面の笑みを浮かべて、私をたたえる言葉を送ってくれる。


 すごい……。


 なんか私……すごい有名人になっちゃったみたい。


「ほら、巫女様。早く神殿へ向かいますよ」


 思わず顔がほころんでしまう私に向かって、護衛の一人がたしなめるように言う。どうやら大勢のエルフたちに圧倒されて、その場で立ち尽くしてしまってたらしい。


 ……もう少しこの空気を堪能したかったんだけどなあ。


 なんだか、こんな扱いを受けるんだったら、巫女になるのも案外悪くないのかもしれないなって私は思った。




 街の中はさらに圧巻の一言だった。


 石畳がいたるところに張り巡らされていて、見たこともない巨大なパピリオが、エルフを乗せた乗り物を引いて進んでいた。蝶車というらしい。

 当然だが、私の住んでいたところより交通網は遥かに発達していた。


 そして一番驚いたのが、この島の全ての建物に水道なるものが張り巡らされており、この島のエルフたちはいつでも好きなだけ水を使えるというのだ。どうやら水源となる噴水に水属性の魔力を持つ神官が巨大な水の球を作っているらしく、これで数万人分の水を供給しているというのだ。

 水の魔石の量もはるかに多いらしく、使える水の量に制限があった故郷とはさぞかし住み心地が違かろう。


 巫女になってよかったことその二。自分が水源を作る必要がないので、朝は好きなだけ寝られるかもしれないということ。


「さて、カーテネラ様。ここからは蝶車で移動しますぞ」


 ジルベルドさんに連れられるがまま歩いていくと、そこには他の巨大パパピリオよりも一際色が鮮やかで輝いて見える巨大パピリオが、荷車を引いて待っていた。

 言われるがまま荷車に乗ってみると、これが何とも心地よい。


「では、頼みましたぞ」

「かしこまりました。さあ、行くぞ!」


 蝶車の御者さんが綱を引くと、いよいよ蝶車が動き出した。ガタゴト、ガタゴトと荷車が揺れるたびに、リズムに乗っているようで、なんだか乗ってて楽しい。


「……うん?」


 その時、蝶車のすぐそばを、一人のエルフの女性が通り過ぎていった。果物の入ったバスケットかごをもって陽気に歩いている、普通の女性だ。


 ただ一点を除いて。


「あの……あそこにいる人、羽が二枚しかないみたい何ですけど」


 ジルベルドさんに聞いてみた。


「おや、何か気になりましたか?」

「いえ……ただ、私以外にも羽が少ない人がいることにびっくりしちゃって」

「ああ、なるほど。ご安心ください。この都では羽が少ない、あるいは羽がない人は珍しくありません。あの方も、とある事故で羽を二枚失くしてしまいましたが、今では立派な神官なのですよ」

「えっ、あの人神官なんですか!?」

「ええ、何もそんなに驚くようなことではないと思いますが……」

「…………」


 なるほど。

 なぜ羽のあるエルフたちが空飛ぶ円盤を持っているのかと疑問に思っていたが、そういうことだったのか。


 この都は、まるで楽園のようだ。


 お母さんも、最初からここに住んでいれば、迫害を受けることはなかったのかな……。




 巫女になってよかったことその三。私も自由に羽を伸ばせる場所だったこと。

 まあ私、羽ないんだけどね。

 

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