私の神様
エルフは皆、神様を信じている。
恐らく人間も、私たちとは別の神様を信じていることだろう。
けれど私には、この世界に神様なんてのが存在すること自体不思議だった。
その理由はいろいろあるけれど、あえて二番目の理由を挙げるとするならば、それは、エルフが空に住んでいるからだ。地上に住むと言われている人間よりも遥かに長命で、魔法の扱いも人間のそれとは全く比べ物にならない。おまけに持ち前の羽で空まで飛べる。
別に人間が矮小で貧弱な存在だと言うつもりはない。エルフが全能的すぎるのだ。まるで全ての生物の頂点に立つ存在だとでも言うように。
周りの人はそれが普通だと言うけれど、私はその違和感を拭うことが、どうしてもできなかった。
何故なら、私は生まれつき羽がない。
魔法の扱いだって、それほど上手くはない。
長命ではあるけれど、逆に言えばそれだけ。
それ以外は、多分人間とほとんど変わらないと思う。
そして何よりも、エルフが信仰している神様は、どういう神様で何を司るのとかは、私たちも全く把握していないのだ。
わかっているのは、その神様はエルフを何らかの形で守ってくれること、その神様の祀り方、そして二百年に一度、神様からの信託を受けてそれを皆に伝える『巫女』様を選定して、エルフは毎朝巫女様がいる神殿の方角にお祈りする。ただそれだけ。人間の世界にあるような教典などは存在しないし、誰もそれ以上の事を探ろうとはしない。
そんなわけで、私は神様をあまり信じていない。もちろんこのことは誰にも話していない。ただでさえ羽がないだけでも異質なのに、これ以上異質な存在になってしまえば、お母さんと同じように仲間外れにされてしまうかもしれないから。
もし信じることがあるとするならば、自分の身に降りかかった不幸を呪って神様に八つ当たりするときだけだと思う。とても醜いエルフだと皆は感じるかもしれないが、私はそうは思わない。
だって、もし神様が本当にいるのなら
どうしてお父さんとお母さんは、私を置いていなくなってしまったのだろう?
まさかその答えを、神様本人から直接聞くことになるなんて。