第7話 話すということ
僕とみーむとルナは協力して孤児院のある村へと向かった。
道中ではいろんなことがあった。
ルナが落とし穴に落ちたり、ルナが滝に落っこちたり、ルナがモンスターに捕まったり、ルナがドラゴンの尻尾を踏んでドラゴンを怒らせてしまい、なだめるのに苦労したり……
……全部ルナがドジった話じゃないか!
しかも全部僕とみーむがフォローする羽目になってるし!
挙句の果てにルナが道を間違えていることが発覚したし!
いやおかしいとは思ったんだよね。
なんで村に行くだけなのに道なき道を行って、こんなにモンスターに遭遇するのかって……
こんなことならもっと早くに尋ねておくべきだった……
ルナ曰く近道だそうだが、こんなにモンスターに遭遇したり罠にかかったり、道に迷ったら意味ないだろ!
どうにか僕とみーむが説得して整備した街道に戻ったころには日も暮れていたのでその日は野宿することになり、村に着いたのは三日後の夕方になった。街道に戻った後は特にモンスターと遭遇するなどのトラブルはなかったが、とにかく急いでいたからな……
はあ……疲れた……
それで僕とみーむは孤児院があるという教会のベンチで休んでいた。その間にルナは孤児院の子どもたちの様子を見に行っている。
そうそう、薬草を薬屋に届けるって言ってたっけ。
そこで僕がここまであったことをぼんやりと思い出しているとルナが戻ってきた。
「どうだった?」
「思ったより大丈夫そうだった。医者や薬屋の人も来たけどこれなら治るだろうって言ってた」
「それはよかったね」
「それでね……」
「ん?」
「子どもたちの様子も見たいからしばらくここに留まるけど、そのあとまた別のところに行く予定なんだよね」
「そうか、人助けが趣味の正義の盗賊とか言ってたもんな」
「それでさ……もしよかったら君たちについて行っていいかなって」
「え? なんで? 行きたいところがあるんじゃないの?」
「特に行きたいところは決まってないんだよね。どうも君たちにはなにかしようとしていることがあるみたいだけど、よかったらぼくも手伝えないかなと思って。それに失敗ばかりのぼくを助けてくれてとても嬉しかったし、ついていけば安心かなって。迷惑かな?」
「そうか……」
どうしたものか。
一応神を倒すという目的はあるけど、今はまだ情報を集めている段階で明確な目的地はないんだよね。
それにしてもルナは僕たちのことをよく見てるな。失敗してる自覚はあるし、意外としっかりしているのか? でもドジだし今までどうやって旅してきたんだとも思う。ルナの謎は深まるばかりだ……
一緒にいると大変だけど悪い人じゃなさそうだし仲間は欲しいが、果たして信用していいのか……
僕はそれとなくみーむに思念を送ってみる。
『ねえ、みーむはルナを仲間にして大丈夫だと思う?』
『いいんじゃない? ルナからは邪悪な気配を感じないし。でも今は場所は変えた方がいいと思う』
『ここは教会だもんな……』
僕がみーむと出会った村を思い出すな。あそこにも孤児院があって……
いや、今はそれよりルナのことだ。
「いいけど、とりあえず場所変えない? ゆっくり食事しながら話したいんだ」
「それって聞かれたらまずい話?」
「ちょっとね……」
「わかった。じゃあ案内しよう。みんないい人だし、遮音性も確保されてるから大丈夫なはずだよ」
「ありがとう。頼む」
こうして僕たちは食事をとりつつ今後の話をすることになった。
やってきたのは素朴な感じの宿屋を兼ねた食堂だった。ルナは今夜ここで宿をとるつもりらしい。僕も他の宿を知らなかったのでここに泊まることにした。
宿の人たちはみんな親切そうでルナにも気さくに話しかけていた。
「いらっしゃい。ルナちゃんね。またお手伝いお願いね」
「最近は失敗も少なくなってきたよね。よく働いてくれてありがとね」
「ルナちゃんかわいいからお客さんもよく来るようになったのよ。だから、よろしくね」
「あはは……がんばります。それで相談なんだけど……」
ルナは宿のおばさんたちに自分と彩人をしばらく泊めてほしいこと、大事な相談があるので話がまわりに聞こえない席を用意してほしいことを伝えた。すると、
「あらあら、そこにいる男の子ってもしかして、うふふ」
「いいわよぉ。お楽しみくださいな」
「いやぁ、若いっていいわねぇ〜」
「そ、そんなんじゃないです!」
おばさんたち、思いっきり誤解してるな。てかルナも顔を赤くするなよ。誤解が加速するじゃないか。
ちなみに宿代は、自分の分は自分で出すことにしたほか、僕とルナはそれぞれ別の部屋に泊まることになった。おばさんたちには一緒の部屋を勧められたが、さすがにそれはちょっと……。
あと、みーむはどうしようかと一応聞いてみたら、
「あら〜かわいいじゃない」
「しかもしゃべるの? すごい!」
「同じ部屋でいいわよ。餌も用意するわ。何がいいかしら」
大人気である。楽しそうだ。あと、この世界ゆるいな。
みーむはみーむで
「ボクはみーむ! よろしくね!」
とか言ってぶりっ子してたし。
ともあれ、僕とみーむとルナは同じ席で食事をすることになった。ルナ曰く遮音フィールドを張っているので防音性は完璧らしい。これで心置きなく話せる。
それにしてもここの食事はうまいな。安い日替わり定食にしたけど、絶品だ。ちょっと違うけどルクシアのいた村を思い出す。……涙が出てきた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫。本題に入ろうか」
ルナに心配されてしまった。
「えーと、まずみーむのことは確か僕の使い魔として説明してると思うんだけど」
「え、違うの?」
「大きく違わないけど厳密には違うらしいよ。みーむは自称高位の精霊なんだってさ」
「自称ってなんだよ! ボクはホントにそうなんだよ! だいたいキミはボクを信じるって言ってたじゃないか! ひどいよ!」
みーむが首を突っ込んできた。
「みーむが僕のことを考えてるってことはわかってるし、嘘をついてないってこともわかってるよ。ただ勘違いしてる可能性があると思っただけだ」
「うわーん! ひどいよ!」
うるさいな。てか言わせんな、恥ずかしい。
「高位の精霊……?」
ルナはルナで驚いて固まってるし。そんなに驚くことか? まあ、みーむ以外で高位の精霊を名乗る存在を知らないし、みーむを見て信じろという方が無理だし。僕もそこはあんまり信じてないし。
「まあ、高位かどうかはともかくみーむが精霊というのは間違いないと思うよ。僕はみーむに何回も助けられてるし」
「そうなんだ……」
ルナもうなずいてくれている。
まあ、みーむの話だと純粋な精霊ってほとんどいなくなっているみたいだし、実際僕も見かけてないから、みーむが高位の精霊というのは間違っていないかもしれない。他の精霊を知らないだけかもしれないけど。
「ひどいよー! 本当なのにー!」
相変わらずみーむがうるさい。まあいいや、話を進めよう。
「それでみーむが言うには昔、精霊は力を持っていて神と呼ばれていたんだけど、ある時出現した新しい神と名乗る人物に負けて、神と名乗るのを許されなくなったんだ。それで人間や魔物に力として使われた結果、純粋な精霊はほとんど残っていないらしい」
「ずいぶん説明端折ってない?」
みーむが何か言ってるが無視する。
「その神というのはひどい奴で、人体実験をしたり、人同士を争わせたり、大災害を起こしたり、とにかく人が不幸になる様子を見て楽しむような奴なんだ。実際僕が前いた村では教会がやっていた人体実験のせいで壊滅した。本当は神にも事情があるかもしれないし、神にははかり知れない叡知があるのかもしれないけど、そうだとしても、こんなことになっても放置している時点で許せない。僕はその神を倒す。そのための仲間が欲しいんだ」
つい語調が強くなってしまったが、先走り過ぎたかと後悔する。ルナが驚きのあまり固まってしまったからだ。
一旦話を止めてどう続けようかと考えていたら先にルナが口を開いた。
「一つ、教えて。その神の名前は何というの?」
僕は一瞬言おうかどうか迷ったが、結局言うしかないと思い、意を決して口を開いた。
「ルアシス教の神、ルアシスだ」
僕がそう言うと、ルナはさっき以上に驚愕の表情になって絶句していた。と思ったら今にも泣きそうな表情に変わっている。
そんなに驚くことか? と思ったが、考えてみれば当然だ。自分が信じている神が悪し様に言われた上に倒すとまで言われたのだから。
そうだとすればすぐさま反論がきそうなものだが、そうしないのはルナがひたすら純粋で、反論の言葉を見つけられないからだろう。
よく考えたら今の僕の言動って宗教にかこつけて洗脳する人のそれじゃないか。自己嫌悪に陥る。……失敗した。
「ごめん、変なことを言った。この話は聞かなかったことにしてほし――」
「やります」
「え?」
「こんなことになっているのに放置しているなんて許せないよ。ぼくも君が神を倒すのに協力する。だからぼくも連れて行ってほしい」
「い、いや。僕が言っておいてなんだけど、ルアシスって君が信じている神だよね? それを……いいの?」
「確かにルアシスはこの世界の人間のほとんどが信仰している神だし、ぼくも教会のお手伝いをすることはあるけど、ルアシスを信仰してるわけじゃないんだ。それにこの現状はぼくもおかしいと思っていた。だから連れて行ってほしい」
そう言ったルナは泣きはらした後のように目元が真っ赤だ。いつの間に泣いたのだろうか。この子を連れて行っていいのだろうかと不安になる。だがその目は本気だ。放置すると僕の知らないところでとんでもないことをしてしまうかもしれない。
……僕自身とんでもないことをしようとしているのだが。
とにかくルナを連れていくしかなさそうだ。
「わかった。これからよろしく。でも僕もこの村は見ておきたいから、しばらくはここに滞在するよ。期間はルナの気が済むまででいいよ」
「うん。こちらこそよろしく。ぼくもう食べ終わったから行くね」
「わかった、もし気が変わったら言ってね。無理強いはしないから」
「うん」
そう言うとルナは自分の部屋に行ってしまった。
僕も宿のおばさんたちにお礼を言って代金を払ってから自分の部屋へ行く。
部屋で寝る準備を整えた僕はみーむと話していた。
「ねえ、みーむ。僕はこれでよかったのかな」
「何が?」
「僕は神を倒すと言ったけど本当にそれが良かったのかまだわからないし、ルナを悲しませてしまったみたいなんだ。考えた結果これが最善だと思ったからそうしたけど、いまいち自信がないんだ」
「実を言うとボクもこれが絶対いいとは言い切れないし、君に無理強いはしたくない。なるべく君の選択を尊重したいから余計なことは言いたくないんだ」
「そうだね」
ちなみに僕とみーむは互いの心を読むことはできるが、常時それをやると疲れるので、オフにする方法を覚えてからは普段はやっていない。それに心の整理をしたい時はやはり声に出した方がいいのだ。
「でもこれだけは確信を持って言える。ルアシスは絶対に放置しちゃいけない。放置すればボクもキミもルナも、苦しんだ上で殺されると思う。それに神を倒せば君が元の世界に帰る方法もわかるかもしれない。ただ、失礼を承知で言うと別にキミじゃなきゃいけないってことはないんだ。もし嫌ならほかの人を探すよ」
「いや、やらせてほしい。役に立てないかもしれないけど、このまま何もしないで過ごすなんてできなさそうなんだ。元の世界にはまあ、帰りたいけど事態が片付いてからだね」
「そうか」
「それに……う~ん、何を言おうとしたんだっけ?」
「キミはもう寝た方がいいと思う。疲れてるみたいだし」
「……そうだね、おやすみ」
「おやすみ」
こうして僕は微妙にもやもやしたまま眠りについたのだった。
みーむ「また説明回? 別に飛ばしても良かったんじゃない?」
彩人「いや、ルナの反応が気になって……」
みーむ「なんで?」
彩人「……なんでだろう?」
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