第6話 ルナという少女
僕がタコ型モンスターを倒した後、僕はモンスターに捕らわれていた少女を安全な場所まで運んで手当てをしていた。
僕とみーむは再び合体して少女に治癒の“力”を使い、魔力も補充した。みーむの指導のもと、傷が塞がりきらない部分には包帯を巻くなどして、応急手当ては一通り完了している。
今はみーむとの合体を解いて少女が目を覚ますのを待っているところだった。
改めて少女をよく見てみる。歳は十三、十四くらいだろうか。やや小柄で銀の髪をしている。身軽そうな格好をしていて、盗賊みたいに見えるが、肌はきれいで、実は育ちがいいのか? と思ってしまう。
少女が目を覚ますの待っている間、僕はルクシアのことを思い出していた。
……あの時僕がもっとうまくやっていれば助かったのか? そうすれば最後にルクシアが何を言おうとしていたのかも……
そんなことを考えていたら少女がいきなり目を覚ました。そしてばっちり目が合った。恥ずかしい。そんなつもりはなかったが、やましい気分になる。自分を誤魔化すため、とりあえず話しかけてみる。
「起きた?」
「……ここはどこ? 天界?」
……寝ぼけているようだ。一応訂正しておくか。
「ここはダンジョンの中だよ。無理しなくていいけど……自分が何していたか思い出せる?」
「ええとぼくは……孤児院で、病気で弱っている子がいて……その子を治せる薬がダンジョンにあると聞いて、潜っていったらタコのモンスターに捕まって食べられそうになって……」
少女の顔色が悪くなっていく。
しまった、トラウマを呼び起こしてしまったか。配慮が足りなかったようだ。
「ごめん、つらいこと思い出させちゃったかな」
「大丈夫だよ。……ええとそれで君が助けてくれたの? 君は一体?」
「ごめん、自己紹介がまだだったね。僕は三好彩人。冒険者をやっているんだ。で、そこにいる猫が……」
「ぼくはみーむ! あやとの使い魔なんだ!」
ええと……初耳なんだけど。僕が何か言おうとするとみーむが目で制してきた。
ああ、話を合わせろってことね。わかった。
「そうそう、僕はその使い魔と協力してタコのモンスターを倒したんだ」
「へえ……使い魔は見たことあるけど、喋る使い魔は初めて見た……すごいなあ」
ええと、みーむ先生使い魔って何ですか?
僕とみーむは意識が繋がっているのでそれとなくみーむに意識を向けると、みーむは思念で答えてくれた。
曰く、精霊とほぼ同じだが、必ず実体を伴っており、通常は人の言葉を話さないほか、力はそれほど強くないらしい。なるほどね。
「あ、そうだ! こうしちゃいられない! 早く薬を採ってきて持っていかないと!」
少女はそういうと、いきなり立ち上がって駆け出していった。
「どこ行くの?」
「あそこに薬草が採れる場所があるんだ! それを採らないと……」
僕の問いかけに少女が答えた時だった。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
蔦型モンスターが少女を絡め取ってしまう。
僕とみーむはすぐに氷の剣で蔦を切って少女を救出した後、炎でモンスターを焼却した。
「ごめん、ほんとにありがとうございま……」
少女は言い終わらないうちに駆け出し、そして
ずぼっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ
落とし穴に落っこちてしまう。
「おいいいいいい! 何やってんだ!? いい加減にしろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ」
僕とみーむはすぐさま穴に飛び込み、後を追った。
――――
で、僕とみーむがやっと少女を捕獲し、安全な場所に連れていったのは数時間後のことだった。
この間にも、少女がモンスターやトラップに引っかかりまくり、その都度僕とみーむが救出しては、少女に逃げられるということを繰り返していたが、割愛する。あまりに馬鹿げている上に大変で、思い出したくもない。
そして今、僕は少女に説教をしていた。
「何考えてるの!? ダンジョンに潜る時はもうちょっと落ち着いて行動しようよ? じゃないと死んじゃうよ? 君が死んじゃったら僕は一生嫌な思いをし続けなきゃいけないんだよ! わかってるの?」
「うぅぅぅ……ごめんなさい。でも早く行かないとあの子が……」
「だとしてもここで君が死んじゃったらその子も助からないし、自分のせいで君が死ぬのもたぶんその子は望んでない!」
「ごめんなさい……」
少女は涙目になっていた。さすがに可哀想になってくる。見知らぬ涙目の少女に向かって説教する僕って一体……
あと言ってて思ったけどこれ説教っていうか愚痴だよね。説教ってそんなものかもしれないけど。
それにしてもまさか僕が説教する立場になるとは思わなかったなあ……そんなことを遠い目をして思った。
「ごめん、ちょっと言い過ぎた。でも、これからどうするか冷静に話し合わないとヤバイと思う。だから行動する前に話してくれない?」
「……わかった。と言っても薬草採って孤児院に持っていくだけなんだけど……」
「じゃあさ、とりあえず落ち着いて一緒に行動しよう? あと、なるべく離れないほしいな。僕が心配になっちゃうからさ……」
「え!? 一緒にいたいの!? しかも離れるなって!? え!?」
あれ、なんか動揺してるぞ。しかも顔まで赤くなってる。……なんか誤解してないか?
しかしそれを言うと藪蛇になりそうなので、僕は黙って少女の腕をつかんで強引に連れていった。
あと、案内はみーむに任せた。
僕とみーむが協力してどうにか目的の薬草を採取した後、僕たちはダンジョンを出てモンスターのドロップアイテムを売り払い、その金で食事をすることにした。少女はすぐにでも孤児院に向かおうとしたのだが、かなり距離があった上に少女の方から腹の虫の音が聞こえた気がしたので、どうにか説得して作戦会議がてら食事をすることにした。
それでアイテムだが、僕の方はそれなりに金になったのに対し、少女の方はほとんど金にならなかったので僕が奢ることになった。
どうにか食事にありついて今に至るわけだが……
がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつ
少女がそれはもう食べる食べる。その小さな体のどこに食べ物が入るのか不思議に思うほど食べる。どんどん追加で注文するのでお金が……
「ふ~食べた食べた。ところで君はそんだけしか食べてないけど大丈夫? ……ひょっとしてぼくが食べちゃったからお金が足りなくなっちゃったとか? ごめんね」
「いや……」
これでも僕は普段よりたくさん食べたんだが……よく考えたらずっと動きっぱなしで腹が減ってたし。ちなみにお金はまだ残っている。みーむが効率よくアイテムを運ぶ方法を考えてくれたからだな。その方法はいずれまた。
ここで僕は少女のことをまだほとんど聞けていなかったことを思い出す。ひょっとしたら詮索されたくないかもしれないが、なんかこれからも一緒に行動することになりそうだったので聞いたほうがいいと思った。だから聞いてみた。
「ねえ、よければ君の名前を聞かせてもらっていいかな? 実はまだ聞いてなかったんだよね」
「あ! それはごめん。ぼくの名前はルナっていうんだ! 職業はシーフなんだけどフリーで、趣味で人助けをやっているんだ! ぼくが目指しているのは弱きを助け、強きを挫く正義のシーフ! かっこいいでしょ?」
「だせえ」
「……ひどい……ぼくはそれに憧れていままで頑張ってきたのに……」
「あ! ご、ごめん」
つい本音をこぼしたら少女改めルナが泣きそうな顔になってるぞ……さすがに今のは無神経過ぎたかもしれない。気をつけよう。
まあそれはそれとして。
「ええと、シーフって盗賊だよね? それって犯罪じゃないの?」
「え? いやシーフは立派な職業だよ? 確かに盗む技術は覚えるけど、やっていることは偵察がメインで実際に人のものを盗んだりはしないよ。それは犯罪だし」
「でも盗む技術は覚えるんでしょ? そしたら人のものも盗めちゃうよね? 大丈夫なの?」
「確かにそうだけど、それはダンジョンとかに潜るときに必要になるから覚えているだけだし、それに本当に盗みをやったらすぐにギルドに通報される仕組みが整っていて、厳しい処罰が下されることになるんだ。だからシーフは人のものを盗んだりはしないよ」
「あーそういうことか。よかった、てっきり人のものを盗む犯罪者と付き合ったのかと思った。自分も犯罪に巻き込まれるかと思ったよ」
てかそれはたぶんこの世界の常識だよね。恥ずかしい。
それにしてもやっぱり疑うのはよくないな。よく考えたらルナはドジだし純粋な感じがするから犯罪に向いてなさそうだよね。僕はもう少し人を信じてみようと思った。
「……まあ、やってるけど」
おい!
今小声でとんでもないこといったぞ! 気のせいだよね? そういうことだよね?
「まあその、人助けの一環として孤児院への寄付もやっているんだけど、そこの子が病気でね……」
「そういうことか」
だからその、今必死に話を逸らそうとしたように感じるのは気のせいに違いないのだ。うん。
「ごちそうさま。それじゃ、ぼくはそろそろ行くよ」
「え? あ、ああ……」
ルナは慌てて店を出て行ってしまった。
行かせて大丈夫だったのだろうか?
不安は残るが、よく考えたら彼女は今までも冒険してたわけだしな。今までなんとかなってたから大丈夫だろう。
そう思って会計を済ませてから店を出ると僕はみーむに尋ねた。
『ねえ、この後どうする? またダンジョンに潜る?』
『ボクはもういいと思うよ。君もここのモンスターとはだいぶ戦えるようになったし、ボクも欲しい情報は得られたしね。ほかにも行きたいところはあるから、もうこの町から出てもいいんじゃないかな? 今から出れば夜までに次の宿場町に着くと思うし』
『そうだね』
こうして僕たちは町の外へ出ることになった。
なお、みーむは町の中では目立つので僕と合体している。そのため、思念で会話をしていた。
そして僕たちは町の外へ出たのだが……
きゃあああああああああああああああああああああああああ
……なんか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
嫌な予感がして声の方へ向かうと。
ルナが蔦形モンスターに捕らえられていた。
「またかよ!」
モンスターは僕とみーむが退治した。
今回は割と早くに助けられたからかルナはボロボロになっていたものの、元気そうだ。
さてどうしたものかと僕とみーむが考えていると、ルナが話しかけてきた。
「あの……」
「ん?」
「よかったらついてきてもらえませんか? 報酬は今は出せないですけど……いずれ出しますので……」
「ええと、僕はいいけど……みーむは大丈夫?」
『大丈夫だよ。……あの状態を見ちゃうと断れないよね』
「そうだね」
こうして僕とみーむはルナと一緒に行動することになった。
それにしても僕は甘いな……
ルクシア「私のことをもう少し思い出してくれても……」
彩人「あれ? なんか言った?」
ルクシア「……なんでもない」
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