第5話 信じること
ぶおおおおお
今日もモンスターを“力”で倒していた。
みーむは精霊を宿したことで使える超能力か魔法みたいな力を単に“力”と呼んでいたので、僕もそれに倣って“力”と呼んでいる。
今は炎で、半分牛で半分人間のミノタウロスみたいなモンスターを倒したところだ。
『よくやったな。ちなみにそのモンスターはミノスロスと言うんだよ』
あっそ。
みーむが解説してくるがどうでもいい。てかなんで微妙に名前が違うんだよ。混乱するだろ。
「仕方ないだろ。この世界ではそうやって呼ぶんだから」
そう言いながらみーむは猫の姿に戻っていた。
とりあえず今倒したモンスターはミノタウロスでいいや。また戦うことがあるかは知らないけど。
そう思っていたら何やらみーむが神妙な顔をして僕に話しかけてきた。
「モンスターというのは神ルアシスが無力化した精霊と獣を融合して作ったものなんだ。それで人間を襲わせておいて、ルアシスは人間に力を与えてモンスターを討伐させた。しかしルアシスにとってモンスターが減ってしまうのも都合が悪い。そこでルアシスはダンジョンを作ってモンスターを増やした上で経験値稼ぎと言って人間をそこに誘導し、人間とモンスターに殺し合いをさせたんだ」
そう。僕たちは今ダンジョンに潜っていた。完全にゲームじゃん。ここに来た理由はみーむが経験値稼ぎに効率がいいからと勧めてきたからだ。入口が観光地化されて入場料取られたのが気に食わなかったけれど。
「そうなんだー。大変だねー」
「今大事なこと言ったのに反応薄くない?」
みーむは不満そうだ。てかさ。
「そんな大事なことならなんで今言ったの? ダンジョン潜る前に説明すればいいのに」
「だってそこに書いてあったから」
がくっ
すぐそばにあった壁画を指さしたみーむを見て僕はずっこけてしまった。
「高位の精霊が受け売りかよ!」
「し、仕方ないだろ知らなかったんだから」
みーむは僕の相棒だが信用していない。僕のことを案じているように見えるが、調子のいいことを言って僕をはめようとしているようにも感じるし。ほんとにこいつが高位の精霊かも怪しいしな。
で、みーむの指さした方を見るとよくわからない壁画(神が人とモンスターを争わせている?)と謎の文字の羅列があった。この世界の文字は一応教会で習ったから読めることは読める。でもこの文字は読めない。
「それは古代文字だよ。今ではほとんど使われていないけど、これからキミも使うことになると思うからそのうち教えるね」
えー。めんどくさいなー。
「ほんとにそう書いてあるの?」
「信じてくれた方がより力が引き出せるのになー。まあキミの境遇からすれば仕方ないか。それより一旦外に出ない? そろそろ装備も心もとなくなってきたし」
「そうだな」
僕とみーむがダンジョンを出ようと外へ足を向けようとした時だった。
「誰かー! 助けてー!!」
どこからかそんな声が聞こえたような気がしたのは。
「……出るか」
「そうだね」
そして気が付くと僕とみーむは声の主の前にたどり着いていた。
「さーて、こいつを突破して帰るぞ」
「キミも素直じゃないね。わざわざ出口とは反対方向に行って助けようとしたくせに」
「うるさい。ちょっと気になっただけだ」
みーむがからかってきた。くそ。
声のした方を見ると、巨大なタコのようなモンスターに女の子が捕らえられているのが見えた。女の子はもう声も上げられないほど弱っている。時間がない。
僕はタコのようなモンスターに向かって飛び出した。すぐに右手から炎を出そうとして……出ない! どういうことだ……あっ! みーむと合体するの忘れてた!
すぐにみーむが慌てて追いかけてくるが、間に合わなかった。
僕とみーむはほぼ同時にモンスターに捕らえられ、身動きが取れなくなってしまった。みーむは炎やら氷やらを出して抵抗するが、威力が小さすぎたせいか、モンスターはびくともしない。
うわあ、なにやってるんだ! またやられちゃったじゃないか! しかも今度は僕もみーむも身動きできない状況……絶体絶命じゃないか! どうしよう……この状況を打開できる方法はないのか……
そう思ってふとみーむの方を見てみる。みーむは一生懸命モンスターの腕から抜け出そうともがいていた。それはもう必死で何か使命感に燃えていて、ここで終わってたまるかという気迫が伝わってきた。
ふと僕はみーむが言ってたことを思い出す。
『信じてくれた方がより力が引き出せるのになー』
そういえば僕はみーむの話を聞き流していただけで、みーむの事情を真剣に考えたことはなかったな……みーむはこの世界をなんとかしようと真剣に思っているのだろう。僕はどうでもいいけど、みーむは僕にとってなにが最善なのか、ちゃんと考えてくれているようだった。僕もみーむの話にきちんと向き合ってみてもいいかもしれない。
信じることは簡単なことじゃない。裏切られたり、ひどい目にあったりすれば特に、これ以上自分がひどい目に遭わないように疑心暗鬼にもなる。それが生きる術だからだ。
でも自分のことを本気で思ってくれた人のことは大事にしなきゃと思う。そういう人は自分にとって得難い人だし、そうした方が気持ちがいいと思うからだ。
そしてみーむの言葉を思い出すと、この場を生き残るためには、みーむを信じるしかないような気がした。
今までみーむの言うことを信じられずにいたが、こうして考えることで胸にすとんと落ちたような気がした。
なので僕はみーむを信じてみることにした。
僕はみーむのことをもっと知りたい。だからみーむの話を聞かせて。僕もみーむのために協力する。だから答えて――僕はそう念じてみた。
念じた。祈った。想った。心を預けた。深層心理に潜った――
……すると何かが聞こえてきた。
――ボクはこんな所で終われない。これまでボクのために散っていった精霊や人間たちのためにも。ボクは世界を救ってみんなを幸せにするまでは終われないんだ! 何としてでも――
これは間違いなくみーむの心の声だ!
僕は少し嬉しくなった。
そしてみーむの想いに応えるため、思念で語りかけてみた。
『みーむ、聞いてほしいんだ』
『え? 何?』
『さっきみーむは信じてくれればもっと力を引き出せるっていってたよね?』
『そうだけど……まさか!?』
『僕はみーむを信じてみることにしたんだ。そうしたら……みーむの心の声が聞こえてきたんだ』
『え……もうできるようになったの!? それって相当練習が必要なはずなのに……すごい! だけど嬉しいような恥ずかしいような……』
『それで僕がみーむに魔力を分け与えればみーむはもっと力を出せる? そうなればこの状況を打開できる?』
『……できるはずだよ? でもこのことは君には教えてないはずだけど知ってたの?』
『知らない。でもできるような気がしたんだ』
『なら信じるよ。あと、僕が君に魔力を分け与えれば合体しなくても君は力を使えるようになるよ。魔力を交換すれば僕と君の両方で魔力を使えるようになるんだ』
『それはすごいな。みーむに魔力を送るように念じればいいの?』
『いいと思うよ。僕もやってみるね』
『頼む』
そして僕はみーむに魔力を送るよう念じてみた。
…… ……
しばらくして僕から力が抜けていき、次の瞬間みーむの力が入ってきたような気がした。
さて、この状態で力を出そうとするとどうなるか。
どの力がいいかな。燃やしてしまえば簡単だけどみーむも女の子もいるのにそれは危険だな。となると……
手から氷の剣を出す光景をイメージする。
……できた! 成功だ!
そして折れないように強く念じつつ剣を振るう。
氷の剣はすぐに砕けてしまったが、モンスターの腕を切断することに成功。
風の力を使いつつ着地するとみーむが駆け寄ってきた。
どうやらみーむも脱出できたみたいだな。
『あやと!』
みーむが呼びかけてきた。わかってる。合体した方がより威力が出るんだな。
僕とみーむは再び合体し、氷の剣を出した。
今度の方が強くて頑丈そうだ。
そして剣を振るうとモンスターの腕はきれいに切れた。今度は剣は折れてない。
すごいな。でも腕はどんどん出てくる。きりがないな。
そこで僕は蔦を出し、モンスターの腕をすべてからめとった。
モンスターの身動きが取れなくなっている隙に女の子を捕らえている腕を切断する。
女の子が落ちてきたので素早く受け止めて着地する。
うおっ意外とお……いかんいかん。
女の子の状態を確認するとぐったりして気を失っているようだが命に別状はなさそうだった。よし。
僕は女の子を安全な場所まで運んでから再びモンスターと対峙した。
どうしようかな……今度は……そうだ。
僕はタコ型モンスターの周りを土で固めて閉じ込めたうえで内部を凍らせる。そして内部に向かって炎を打ち込んだ!
当然氷は溶けるが、モンスターは茹で上がっていく。
モンスターはしばらく抵抗するものの、ついには動かなくなった。
念のため氷の剣で突き刺した後、モンスターの要である核を取り出す。どういうわけかこの核が地上で売れるらしい。
よし、モンスターは倒したな。もう少し冷静に対処していればここまで苦労することはなかったような気がするけど、この戦いを通してみーむと通じ合うことができたので実に有意義だった。
僕は合体が解けたみーむとハイタッチし、勝利の喜びを分かち合った。
ルクシア「ところでその娘のことは放置していいの?」
彩人とみーむ「「あ……」」
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明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。




