第45話 エネルギー発生装置
「……ぶはあっ」
謎の水路に放り込まれた私は、水の流れが緩やかになったところで水面に顔を出していた。
水中で息を止めたり、空気の膜を作る訓練をしてて助かった。おかげで、長時間水中にいても耐えられたのだから。
それにしてもここはどこだろう? ずいぶん流されたような気がするけど……
辺りを見回してみたが、人が歩ける通路のようなものは一つしかなかったので、とりあえずその通路を歩いてみることにする。
……どれくらい歩いただろうか? 視界が再び開けたところで、私の目に入ってきたのは巨大な装置だった。
はじめは何の装置かと疑問に思ったのだが……
「なに、これ……?」
思わずそんな声が漏れてしまった。
なぜなら、その装置のまわりが禍々しい“気”で溢れていたからだ。
私は気分が悪くなった。というより、ここで気分が悪くならない人はまずいないだろう。そのくらい、ここで溢れている“気”の濃度は凄かった。
とりあえず私は、水中で息を止めた時と同じく、自分の周りに空気の膜を張って対応した。
それにしてもこれは……
多くの人の恨みや嘆き、悲しみ……禍々しい“気”の正体がそういったものでできているということが、私にはわかる。私が多くの人を苦しめている原因がそれであり、どうしても手放すことができないものだから……。
ということは、目の前にある装置の正体は……?
噂には聞いたことがある。
人々の恨みや嘆き、悲しみなどといった、負の感情を集めてエネルギーを生み出す装置の存在を。
この王都は、魔力を使った照明や機械などの装置が多く置かれている。
当然、どこからか魔力を集めてくる必要があり、自然に漂う魔力を集める装置で賄っていることになっているが、それでは到底足りない。
そこで、人や精霊から無理矢理魔力を搾り取ってエネルギーを生み出しているという。
ただしこの方法にも限界があり、対象となる人は犯罪者や借金で首が回らなくなった人たちを中心に使っているらしいがそれでも足りず、酷いときにはどこからか攫ってきた子どもから魔力を集めているという噂も……。精霊に至っては、そもそも野生の精霊が絶滅に近いので精霊を確保することができず、近年では精霊から魔力を搾り取ることは皆無だという。
なので、より効率良く魔力を集めるために、負の感情を集めてエネルギーに変換する装置が生み出されたというのだ。そしてそのために、多くの悲劇が生み出されているとも。
まさか、これが……?
人々の生活を豊かにするための魔力エネルギー――要は電気のようなものだ――を生み出すためにそんな手段を取るという話を聞いた時はまさかと思ったが、実際にやっていたというの?
……ん? 電気? って何?
何で今そんな言葉を頭に思い浮かべたんだろう? 思い出せない記憶に関係しているのだろうか?
激しく気になったが、どうしても思い出せないので今はこのことは棚上げする。
それより今は目の前のことだ。
目の前の装置が本当に私の想像した通りのものなら破壊しなければならない。その情報を仕入れた“解放隊”のメンバーでそう決めていたからだ。というか、公式には禁止されている。
気になったのは、どうしてそんな重要な装置がろくな見張りもつけずに稼働しているのかということだ。
……厳密には少しはいたのだが、私が素早く手刀で昏倒させたので現在ゼロである。
もちろん、私の探知でこれ以上の人が隠れていないことも確認済みだ。
どういうことだろう? ……ひょっとして、この禍々しい“気”のせいであまり人が近寄れないことが原因なのだろうか?
だからあまり多くの人を配置することができなかった……? 警報装置はあるのだろうけど……
とにかく今は、一刻も早くこの装置を破壊しなければならない。ただ、私一人では不可能なので、応援を呼ぶ必要がある。
では、どうやって?
真っ先に思い浮かべたのは、今私の手の中にある魔力通信板である。これは、見た目はただの紙切れだが、魔力を流しながら相手を思い浮かべると、自分の言葉を相手に伝えることができる道具である。
理論上は、相手がその道具を使っていなくても伝わるものの、その場合、安定せず失敗する確率が高いので、事実上使い物にならない。なので、安定して通信するために相手も同じ道具を使っている必要がある。
じゃあそれで一発解決じゃないかと思われるかもしれないが、この禍々しい“気”のせいでうまく発動できない。
どうしようかと考えた私は、とりあえず壁に穴をあけて、“気”をシャットアウトしてから、通信板で連絡を試みる。
はじめはキャンバスたちに連絡しようと思ったのだが、今は大事な作戦中のはずで、こんな時に呼び出すわけにはいかない。かといって、待機組では戦力が低くてやられてしまう可能性が高く、これ以上の王都の混乱を防ぐためにも動かすわけにはいかなかった。
なので私は、陽動に向かっていた彩人を呼び出すことにする。
私が通信板に念を送り始めてからしばらくすると、彩人の声が聞こえてきた。
『ええと、どうし――』
「あやと! 大変なの! 早く来て!」
『……え?』
無事に彩人の声が聞こえたことに私は、同時に焦る気持ちも出てきて、咄嗟にまくし立てていた。
「人の悪意をかき集める装置があって、暴発しそうなんだ! 暴発すると大変なことになるんだ! 早く来て!」
そう、あの装置は暴発する寸前なのだ。もしあの装置が暴発すると……世界中に悪意が蔓延し、様々な悲劇が起き、誰一人としてそこから逃れられずに世界は滅亡してしまうのだ。そして滅亡後も、魂だけになったあらゆる生物は未来永劫苦しみ続ける。ただ滅亡するよりもたちが悪いのだ。
とにかく、一刻も早くあの装置を停止させないといけない。
『……どういうこと?』
「説明している時間はない! とりあえず彩人とみーむとアリアは来て! 後は……とりあえず全員来て! じゃ!」
『え……ちょ……』
彩人が何か言いかけてきたが、私は通信を切る。
私は、彩人たちが来るまでに、なんとかこの装置が暴発しないように抑えないといけない。さて、どうしたものか……
私が少しの間考えていると、
ジリリリリリリリリン!!
通信板の着信音が鳴った。この道具は、通信に出るか出ないか選べるようにするために、こうして音がなるようにしている。隠密行動中は鳴らないようにしているのだが、さっき使った時に鳴る設定にしてそのままにしていたようだ。
ジリリリリリリリリン!!
ああもう、うるさいな! 音を切って無視しようと思ったが、もしかして重要なことかもしれないと思い、出ることにした。
「もしもし……」
『あ、やっと出た! 僕たちはどこに行けばいいの!?』
……あ、そうだった。
どうしよう。ここがどこかわからない。私がここに来た方法で向かわせるのは現実的じゃないし……
『もしもし?』
私がどう答えようか迷っていると。
『ルナ! 今すぐ私に念を送って! そこまで駆けつけるから!』
彩人に代わってアリアの声が聞こえてきた。どうやら彩人から通信板をひったくったらしい。
「アリア!?」
『時間がないんでしょ!? 早く!!』
「わ、わかった」
この通信板のもう一つの機能として、自分の位置を知らせることができるというものがある。
ただし、送信側と受信側、その両方が相当訓練していないとできない。
私とアリアは数年間、一緒に冒険者をやっていたのだが、私が別れを切り出した時に、私と別れたくないアリアが執念で作り上げたのがこの通信板だったりするのだ。
そして私は、アリアのこの道具の開発に付き合わされたので、やり方はわかっている。いるのだが、久しぶり過ぎてちゃんとできるか不安だった。でも今はやるしかない。
私はアリアに向かって念じてみる。
アリアは私の方から出てくる細い糸のような魔力を辿ってこっちに来るはずだ。うまくいけば……
だが、場所が場所だ。ちゃんとたどり着くことができるだろうか。
私は祈るしかない。神が祈るのもおかしな話だが……
お願い、早く来て。私はこれ以上の悲劇は見たくないの。お願い……
私の願いは誰かに届いたのだろうか?
しばらくすると、アリアはやってきた。
どかああああああああん!!!
という爆発音付きで。
「じゃーーーん! 人のピンチに駆けつける国の守護神、ありあちゃんだよ! 私が来たからにはもう安心だ! どんな困りごとも、私がすべていればすべて解決だ!」
……いろいろ突っ込みたいことはあったけど、そんな場合じゃなかった。
「ちょっと、後ろ! 装置が燃えてる! 自ら暴発させてどうすんの!?」
「………………あ」
「あ、じゃない!!!!!」
うわあ、やっぱりやらかした!
どうしよう!
彩人「そういえば何でルナはケータイの着信音を黒電話のダイヤル音にしてるの?」
ルナ「ケータイ? 通信板のこと? ……いや、通信といえばあの音だと、昔の仲間に聞いて……それがどうかしたの?」
彩人「(あ、もとの世界と文化が違うんだった……入れ知恵したのは過去の転移もしくは転生者か?)いや、なんでもない」
ルナ「ええ……なんでもないじゃないよ~。どういうこと? あれ? そういえば彩人は音はどうしてるの?」
彩人「設定を変えてバイブレーション、もとい振動だけくるようにした」
ルナ「え? 変えられるの? 通信板の魔法式を弄ったってこと? すごいね! どうやったの?」
彩人「いや、まあ……(もとの世界のケータイの設定を弄る要領でなんかできちゃったんだけど、どうやって説明しよう……)」
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次も、火曜日に更新する予定です。




