第44話 お、王様?
「いや~、それにしてもすごかったね~。本気で戦っているあの二人を沈めちゃうなんて」
「え、いや……あの時はなんか止めなきゃ、って思って……」
アリアが、彩人とみーむの喧嘩を止めた私を絶賛していた。
曰く、既に相当に強いあの二人を一撃で沈めたのは凄いらしいのだ。
いや、あの時はあまり深く考えず、ただ不毛な喧嘩を止めなきゃとだけ思って行動しただけなので、そんなこと言われても、って感じなんだけど……
「ていうか、アリアはもっと強いんじゃないの?」
「いやあ、私だとあの一帯を吹き飛ばしてしまいそうでさ……」
私がふと思った疑問に、アリアはそう答えた。
でもそこで、私はもう一つの疑問が出てきた。
「あのさ、アリアは『私は力を制御できないから~』って言っていたけど、普通に制御できるよね? なんであんなこと言ったの?」
そう、アリアは彩人たちの前では力の制御ができないことを理由に、あまり戦いに加わろうとしなかったのである。
「だって私ばかりに任せてたらさ、私がいなくなった時困っちゃうじゃん。私が手を貸さなくてもなんとかなるようにしなきゃいけないよな~と思って。後進を育てるためってやつ? まあ、必要な時は手を貸すけどね」
なるほどね。
言葉は軽いけど、アリアにはしっかりとした考えがあって、それに則って行動しているようだ。私も見習わなくては。
「……まあ、私が戦うと気分が高揚して、だんだん歯止めが利かなくなるというのもあるけどね」
……おい!
アリアはいつの間にそんな好戦的な性格になった?
出会った時はそんな娘じゃなかったのに!
「アリアはその好戦的な性格はなんとかした方がいいよ! いつの間にそんな性格になったの? ねえ!」
「まあ、いろいろあってね……それより、そろそろ行かなくていいの?」
そうだった。
今は作戦が決まって、私は王城に、アリアは陽動のために黒づくめの拠点の一つに突入するところだったっけ。てかさ……
「話しかけたのはアリアの方でしょう……こっちもいろいろ聞きたいことはあるけど、今はそんな場合じゃないからね……それじゃあ行ってくるよ」
「うん、健闘を祈る」
なんとなく誤魔化された気がするが、とにかく私はアリアや彩人たちと別れ、王城に向かったのだった。
「……それで、どうやって王城に入るんだっけ?」
王城に向かった私たちは、門の前にいた。
いや、作戦は聞いたんだけど、確認のためね。
「……これを使う」
キャンバスが取り出したのは、ロープのようなものだった。
「ええと、これは?」
「このロープで壁をよじ登って、一人が袋叩きにされている間に、他の人が侵入を果たす。そういう作戦だったはず」
知っている。
ただ、あまりにもあんまりな作戦だったので聞き直さずにはいられなかっただけだ。
そしてその囮役になるのが……
「ルナ、任せた」
「なんでだよおおおおおおお」
私である。
私はどうなってもいいのか。
私、神なのに……
今はそんなこと関係ないと言えばその通りだったのだが。
「任せた」
無表情ながら親指を立ててくるコルニス。
その親指をへし折りたくなってくるが、我慢だ。
コンテだけは、すまなそうにしているが……
ええい、ままよ!
やけくそ気味に決心を決めた私は、王城に突入する。
隠密を続けながら。
だが、私の隠密スキルを舐めないでほしい。
私が何千年シーフをやってきたと思っているのだ。
確かに厳重な警備だが、これくらいはどうということはない。
確かにクラウン王家は今の世界でもトップクラスの資産家だが、昔はもっと栄えていた国もあったのだ。私はその国の王城にも侵入したことがある。あの時はきつかったが、あれに比べれば今の王城はザルである。
その結果、私は今、玉座の間にいた。
もちろん、手が後ろに回った状態で。
……うわあああああああああ!!!
何やってんだ!
今まで、隠密行動中にドジなんてしたことなかったのに!
いや、途中まではうまくいってたんだよね。
視線には敏感だから、視線が行かない場所に行ったり、あるいは視線を全然別の方向に誘導するのはお手のものだったんだ。
うまくいってたんだ。
ガゴンッ
て音を聞くまでは。
……認めよう。
私は油断していたと。
なんで私はあの時本棚にもたれかかったんだ!
面白そうな本を見つけて立ち読みしたんだ!
お菓子を見つけてつまみ食いしたんだ!
私のばかばかばか!!!
大音量が鳴り響き、落とし穴にはまって、気づけば私は牢屋行きである。
「……ああ……キャンバスたちはうまく潜入できていればいいのだけど……」
もともと私は囮なので作戦成功とも言えるが、こうやって騒がせると警備が厳重になって余計にやりにくくなると思うのだが……。反対した方が良かったのかもしれない……
今更そんなことを言っても仕方がないので、今はキャンバスたちの作戦成功を祈りつつ、自分がここから脱出する算段を整えないといけない。
実は、脱出する方法はあるし、それがなければこの作戦は立案されない。
ただ危険は伴うし、もう少し様子は見たかったので無理に脱出はしなかった。
しばらくして、外で言い争う声が聞こえたかと思うと、私の牢屋の前に人が現れて、こう言った。
「おい、出ろ。王がお前に謁見したいとの仰せだ」
……何言ってんの?
こんな賊と会いたいなんて、正気か?
そういえば、さっき言い争っている時「賊を入れるなんて正気か!?」「しーーっ。王にはお考えがあるのだろう」「いや、しかし……」「それをここで議論するでない! これ以上言うと、不敬罪に処すぞ!」「しかしながら……ぎゃああああああああああ!!!!!」「……」というような会話が聞こえたような気がする。
……ここで断末魔の叫びをあげた人がどうなったのかは気にしないことにしよう。
このタイミングで逃げ出そうかと思ったが、有力な情報を得られるかもと思い、結局私は玉座の間に連行されることにした。
だが私は、すぐにその判断を後悔することになる。
「大儀であった。面を上げよ」
そんな偉そうなことを言ったのは、豪奢な王冠やマントを身に纏った、赤い髪の美青年だった。
……?
私は何も言えないでいたが、彼は構わず続けてくる。
「余はマックス=アリアランズ=クラウン。我がクラウン王国の国王だ」
マックス? ……ってソニカの弟じゃないか! ……まさか!
私は半ば確信していたが、念のため問いかける。
「……父君はどうしたのですか?」
「な! 王の御前で!」
「無礼者!」
私の言葉に、王の家来たちが激高するが、それを止めたのはマックスだった。
「よい。そなたの問いに答えてやろう。……あの愚物なら、始末した」
……やはりか。
「どうしようもない奴だった。実の父だったとは思いたくない。だが、その最期は見ものだったな。捕らえられた奴は、はじめ怒っていたが、どうしようもないとわかると命乞いをした。みっともないったらありゃしない。まあ、おかげで楽しめたがな」
……趣味が悪い。
確かに先王は評判がよろしくなかったが、それにしても人の死にざまを見て喜ぶなんて……。仕方のない部分もあるかもしれないが、少なくとも私は好きになれそうになかった。
私は侮蔑の表情を隠そうともしなかったが、マックスはそんな私を見て不快感を示すどころか、愉快な表情になっていた。
「……面白い娘だ。薄汚れてはいるのに実は肌がきれいで、顔立ちも整っているところとか、どことなく神秘性を感じさせるところとか。国王である余に媚びずに反抗してくるところも、実に良い。……気に入った。余の五十三番目の妻としよう。名は何というのだ?」
……ぎゃああああああああああああ!!!!!!
なんか今めちゃくちゃぞくっとした!
これ以上ここにいたら気持ち悪さで気絶してしまいそうだ。
もはやここに留まる意味はない。
今すぐここから脱出しよう!
そして後で、彩人たちにボコボコにしてもらおう!
私はそう決意した。
だから、私は名乗らないし、家臣たちの、『王の問いかけに答えないとは! 無礼者!』とか、『こんなのを妻にするのですか!? お考え直しを!』とか言ってて、それを言った人がどこかへ連れていかれているのに構っている暇はないし、マックスは十八歳くらいに見えるのにもう五十二人も妻がいるってどういうこと!? って問いかける余裕もない。
……そういえばソニカは何歳なんだろう? 十六歳くらいにしか見えないけど、マックスより年上なんだよな……
余裕ができたら聞いてみよう。
……って、そんなことを考えている場合じゃない!
とにかくここから脱出しないと!
とりあえず私は、私の手を拘束していた手錠をこっそりバラバラにする。
あらかじめ鍵を解除しておき、一旦バラバラにしてから組み直しておいたのだ。
これくらいはシーフとして基本的な技術である。
ただ、あっけないほど簡単だったのはどういうことだろうか?
罠の可能性も疑ったが、考えだしたらキリがないので、疑問は棚上げしておいた。
後は、みんなの視線が私の外に向いた隙をついて、私は駆け出した。
が、そこでマックスが唐突にこちらに向いた。
「素晴らしい。私の隙をついて脱出しようとするとは。ますます君が欲しくなったよ」
私の背筋が凍った。
これほど命の危険を感じたことは今までなかったような気がする。
私から神の座を奪った者を前にした時もここまでではなかった。
とにかく私はその場から逃げるために、人を避けながらジグザグに駆け回る。
だがなんと、マックスは私の動きについてきていた。
しかも徐々に距離を詰めてきている。
私はなんとか撒くために角に差し掛かったタイミングで飛び上がったり、光の魔法を出して妨害を試みるも、ことごとく突破されてしまう。
光の屈折を利用して疑似的に透明化するも、全く通用しなかった。
王城がところどころ破壊され、あちこちから悲鳴があがったが、気にしている余裕はなかった。
そしてついに、私は追い詰められてしまう。
「やっと追いついた。もう逃がさないよ」
やばいやばいやばい!!!
どういうわけかわからないけど、こいつは生理的に無理!
手を触れられたら、何かが終わってしまうような気がする!
しかしここは角の本棚だ。逃げ場がない。
どうしよう。
私は一縷の望みを賭けて適当に本棚にある本を手に取って開いてみた。
そこにはページいっぱいに広がる肌色。
……。
「何でここにこんな本があるんだ!」
私は思わず、マックスの顔面に本を投げつけた。
クリーンヒット!
私はあおむけに倒れたマックスの顔面を踏みつけて一気に駆け出した。
この機を逃さずに脱出するぞ!
……だめだった。
私は再び追い詰められていた。
「やっと追いついた。もう逃がさないよ」
……こいつは同じセリフしか言えないのか!
顔面ボロボロになって、それでも一生懸命取り繕おうとするマックス。
可哀想になってくるが、同情はしない。
いや、そんなことを言ってる場合じゃない!
この状況を脱するいい手はないか! なにか……
そうこうしているうちに、マックスは壁ドンをしてくる。
だけど全然嬉しくない。別の意味でドキドキする。
……これならヤンキーにされた方がマシだったな……
次は顎クイか……
そんなことを考えていた時だった。
ガコンッッ!!!
と音がして、壁に穴が開いた。
……どうやらマックスが壁ドンした時に、誤ってスイッチを押してしまったらしい。
「うわあああああああああ!!!!!」
落下する私。
マックスが追いかけてくるかと思ったが、家臣たちに取り押さえられていた。
『放せ! 私は行かなければならないんだ!』
『いけません! 命を落としますぞ!』
『陛下の女好きにも困ったものだ……』
『貴様! ~~じゃなければ打ち首だぞ!』
『捜索はいたします。必ず連れてきますので、ここはご辛抱を』
こんな会話が聞こえてきた。とりあえずマックスは追いかけてこないようだ。助かった……
いや、全然助かってない。
こうしている間にも私は落下し続けているのだから。
こうなったらもう、なるようにしかならない。
とりあえず安全に着地できるように姿勢を整えて、魔法を撃つ準備をして……
「え?」
水面が見えた。
しかも流れがある。
「ちょ……」
私が態勢を整える間もなく。
ばしゃあああああんん!
私は水中に落下し、そのままどこかへ流されていった。
アリア「いや、ほんとに何やってんの!? 面白そうな本を見つけて立ち読みしたり、お菓子を見つけてつまみ食いしたり……」
ルナ「珍しくアリアがつっこみ役に回ってる! 正論だけに反論できない……」
アリア「私なら完璧にばれない!」
ルナ「あ、やるんだ……」
お読みいただきありがとうございます。
次も、火曜日に更新する予定です。




