第4話 神と精霊
僕があてもなくさまよっていると、足元からつんつん、と優しく突かれる感覚があった。
「ねえ、あやと」
みーむだった。
僕と合体したと思ったけど、いつの間にか合体が解けて元の猫? の姿に戻っていたようだ。
「なんだよ」
「もう何日もご飯食べてないけど大丈夫?」
「大丈夫だよもう死ぬし」
「それを大丈夫とは言わないんだけどなぁ……」
猫のくせにお節介なやつだな。僕が死のうがみーむには関係のない話なのに。
「関係はあるよ。キミとボクにはもう繋がりが出来ちゃってるし」
繋がりって何だよ! 意味わかんねーよ!
つか、みーむってこの間から意味深なことを勝手に言ってくるくせに肝心なことは何も教えてくれないし! 腹立たしいんだよ!
「悪かったよ。ちゃんと説明する。まず今まで説明してなかったのは事件が起こっている最中は時間がなかったからで、終わってからはキミが心ここにあらずでとても話ができるような状態じゃなかったからなんだ。だからまずは落ち着いて話を聞いてくれないか?」
くそ……腹は立つが、話を聞かないことには始まらない、か。
「そうしてくれ。まず人がどうやったら魔法を使えるようになるのかわかるかい?」
みーむが問いかけてきた。
「今それ聞く? たぶん言わなきゃ話が進まないから一応言うけど、ええと、まず魔力を練って自分が使いたい力をイメージして、それを強く念じるんだったっけ? ただイメージするのが難しいからそれを補助するために道具や呪文を使うこともあるけど……あれ? 合ってる?」
「間違ってはないけど、一つ肝心なことを忘れている。魔力を扱えるようになるためには精霊を宿す必要があるんだ」
「え……?」
「あれ? 聞いてなかった?」
「いや、初耳だけど」
「そうなの? そういえば君は別の世界から来たんだっけ。魔法を使う仕組みが違うのかな?」
「僕が元いた世界にはそもそも魔法が無かったよ? 魔法について教えてもらったのはこの世界に来てからだけど」
「魔法がない……? まあそういう世界もあるか。それはおいておくとして、キミが魔法を教えてもらったのってひょっとして教会?」
「そうだけど」
「そういうことか……」
え? 何がわかったの?
「実はボクは精霊なんだよ」
「せいれい? ……って何?」
「精霊というのはね、この世界の自然現象が意思を持ったものなんだ。この世界が生まれた時、世界を維持するために多くの自然現象が生まれた。やがて人が生まれ知恵を絞って生活するようになると、事故や災害など人の身ではどうしようもない不幸が起こった。そこでそれをどうにか乗り越えるため、自然現象を『神』と名づけ崇めるようになった。これが精霊の前身だ」
「ふうん」
「神とされた自然現象は、それまでとは比べ物にならないくらい大きな力を得た。そして意思を持つようになり、獣の姿をとって人に助言したり、合体して力を貸したり、罪を犯した人間を罰したりした。それである程度平和は保たれていたんだ」
「うん」
「でもある時、神ルアシスが“降臨”した時からこれが変わった。ルアシスは自分以外の神を排除しようとしたんだ。それまでの神は困惑した。ルアシスを排除しようと動いた神もいたけど、ことごとく返り討ちにあった。それでルアシスは何をしたと思う?」
「何をしたの?」
「ルアシスは自分以外の神の自我を無くして、力だけの存在にして人間に与えたんだ。さらに異世界の技術の一部を人間に教えた。こうして信者を作って神狩りを行わせた。ついに音を上げた神々はルアシスと交渉を行い、その結果として神々はルアシスに服従、神ではなく精霊を名乗ることになり、神はルアシスだけとなった。しかしその後も神狩り改め精霊狩りは続いた。精霊達は抗議したがルアシスは聞き入れず、結局自然の精霊はほとんどいなくなった。そしていつの間にか人工精霊が開発され、やがて精霊だったことも忘れ去られて、それらは単に魔法と呼ばれることになったんだ」
「ほお」
「それからは地獄だった。ルアシスは事あるごとに大災害を起こして罪のない人々を葬り、争いを扇動して人同士を殺し合わせ、信者たちに命じて謎の人体実験を行って、そこでも多くの罪もない人たちが犠牲になったんだ」
「ふーん、よくわかんないけどそうなんだ」
いきなりみーむがずっこけた。
この辺って氷張ってたっけ?
「ちょっ……おま……せっかくわかりやすいように噛み砕いて説明してやったのに……」
みーむが悔しがってるな。
「冗談だよ。つまり要約するとみーむたち精霊は神に迫害されたー、だから神を倒してくれー、ってそういう話だろ」
「ま……間違っていないけどもう少し言い方というか……端折り過ぎだろ……」
「でも事実なんだろ」
「いやもう少しだけ話を聞いてよ。まだ話したいことがあるんだからさ」
まあここで言い合ってもしょうがないし、もう少しだけつき合ってやるか。
「キミがいた村の孤児院は人体実験のための施設で、村はその実験場だったんだ。ボクは村の人達を助けようとしてその村に来た。でも謎の人物に襲撃されちゃって、大怪我を負ったけど、どうにか逃げてきたんだ。そこをキミ達に助けてもらったけど、その時にはもう村を救うには手遅れになっててさ……だから精一杯の力を使って警告したんだけど、まさかあんなことになるとはね……」
「ほーん」
「……話わかってる?」
「わかってる。続けて」
あの時の『逃げて』はみーむだったのか。
「ボクが持っている力はコピー能力だったんだけど、実は発動条件がわからなかったんだ」
「自分の力なのに?」
「精霊は生まれつき自分の能力はある程度把握しているけど完全じゃなくて、実際に使ってみてわかることも多いんだ。ボクは発動条件がわからなかったから、今までいつの間にか獲得していた能力でどうにか戦っていたんだけど、限界がきてやられちゃったんだよ」
「みーむって結構間抜けなんだな」
「うるさい。でも能力を獲得したのにやられまくったキミも結構間抜けだと思うけど」
「ぐっ……反論できない……」
「でもそのおかげで発動条件がわかったんだ」
「え……何?」
嫌な予感がする。
「致命傷を受けることだよ」
「え……」
「獲得できるのは致命傷を受けた攻撃だということに気づいたんだ」
「ちょっ……ちょっと待ってよ」
「何?」
「致命傷ってさ……受けたら死んじゃうんだよね? じゃあ僕とみーむはなんで生きてるの?」
「ボクは生まれた直後に怪我しちゃって、回復能力のある精霊に治してもらったことがあるんだけど、それ以降、僕は怪我しても勝手に治るようになっていたんだよね。たぶんそれで一旦致命傷を受けたと判断されたから回復したんじゃないかな」
「おいおい……」
頼りない精霊だな……
「失礼だな。ボクはこれでも高位の精霊だったんだぞ」
「ほんとかよ」
「ほんとだぞ」
「……ねえ、さっきから時々思ってたんだけどみーむって僕の心の声に反応しているように聞こえるんだけど気のせいかな?」
「気のせいじゃないよ。ボクとキミは既に契約されていて、契約された精霊はキミの心の声が聞こえるようになるんだ」
「逆はできないのに?」
「練習すればできるようになるよ」
「いやそれよりも心の声が聞こえないようにしてほしいんだけど。というか契約解除してほしいんだけど」
「いやだ……じゃなくて無理」
「おい!」
今いやだって言ったぞ!
「一度契約したら基本的に死ぬまで解除できないんだ。それに今契約解除したら、キミ確実に野垂れ死ぬよ」
「痛いところをつきやがって……てかいつの間に契約したの? もしかして『生きたいか?』って言った時のやつ? そんな細かいこと言ってなかったと思うけど」
「言ったよ? キミが聞いてなかっただけで」
「あんな状況で聞けるか!」
「ちなみに今更解除できないよ。まあ方法はあるんだけど、でも今はおすすめできないな」
「……わかったよ」
「意外と物わかりがいいな」
「どの道今はみーむの力を借りないと生きていけないからな。正直みーむのことも信用できないけど今はみーむの言う通りにするしかなさそうだし。言いなりになるのは癪だけど」
「今はそれでいいよ。嘘を言ったつもりはなくても、ボクも実は間違っているかもしれないからね。とりあえず食料確保しない?」
言われて僕はかなり腹が減っていることに気づいた。
それと同時に、まだ死にたくないと思っている自分がいるのに気づいた。みんなを守れなかったくせに、僕ってみっともないな……
とりあえずみーむの助言を受けて、僕はウサギのようなモンスターをなんとか狩って焼いて食べた。食べている途中、僕はふと気になって隣にいるみーむに話しかけてみた。
「ねえ、僕とみーむの能力って致命傷を受けた攻撃を自分のものにできるっていう話だったけど、今の状態でも十分戦えないか?」
「う~ん、でもやっぱり練度では元々その能力を持った精霊持ちには敵わないし、せっかく獲得した能力を使いこなすために練習する必要はあると思うよ」
「そりゃそうか」
「……それにこの先どんな敵が出てくるかわからないから、また新たな能力を獲得する必要が出てくると思う」
「また痛い思いをするの?」
「それが戦いというものだよ」
「……いやだな。戦わないで済む方法はないの?」
「難しいんじゃないかな。たぶん君はもう神に目をつけられている。生き延びるためには神を倒すしかない。これから何度も痛い目に遭うと思うし、死ぬかもしれない」
「あの回復力があっても?」
「あれも万能じゃない。自分を遥かに超える魔力をぶつけられたら間に合わなくなる可能性がある。君と初めてあった時の僕も危なかった」
え……
「ねえ、嘘だよね?」
「嘘じゃないよ」
それはみーむの目を見ればわかる。僕の目が節穴じゃなければだが。
確かに神は憎いが、とても勝てる気がしない……
僕は絶望した。
みーむ「こんなところで絶望しないでよ。説明回なんだからさ」
ルクシア「……」
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