第36話 第一王子
「は? 第一王子?」
ソニカの話を聞いた僕は思わず聞き返していた。
僕は彼がチンピラに絡まれているのを助けたのだが、助けた彼はどう見ても美少女にしか見えない少年だった。
僕は少年に事情を聞こうとしたが、彼はなかなか話さなかった。「巻き込まれたら君たちが大変なことになる」という理由で。
しかし、そう聞くとますます放っておけなくなるものである。結局半ば無理矢理、名前と事情を聞き出したというわけである。
曰く、名前はソニカといい、第一王子なのだという。
ここまでが前回のあらすじというわけであり……ん? 僕は何を言っているんだ?
とにかく僕は、ソニカの言うことの意味がわからなくて聞き返していた。
「そうなんだ。ぼくはこの国の第一王子なんだけど、頼りないから第二王子のマックスの方が次期国王にふさわしいと言い出した人がいたんだ。それで家臣たちがみんなマックスの方についちゃって、ぼくは王位継承権をはく奪され、追われる身になってしまったんだ」
なるほど。わかった。
「よし、みーむ、ルナ、ティア、コルニス行くぞ」
僕はソニカを置いてその場を立ち去ることにした。
「ちょ、ちょっと! ソニカのことはいいの?」
ルナが困惑しているが……
「いや、だって今のソニカの説明って矛盾だらけじゃん。なんで第一王子がこんなところで護衛も付けずにほっつき歩いてるんだよ。命を狙われているのなら、なんでここまで生き延びれたのかという疑問も残るし」
そう、ソニカのいうことが本当ならとっくに暗殺されてなければおかしいのだ。
恐らく彼は金をもらうために僕たちに近づいたのだろう。
いや、それならもっとましな嘘をつけよ! って思うけど。
「いや……たぶんソニカの言ってることはほんとだよ?」
ルナがそんなことを言い出した。
「え? マジ? なんで?」
僕は思わずそんな声を出してしまう。
「いや、だって……『モーヴェ・カフェ』での話し合いで、ソニカ王子の話題が出てきたよね? 聞いてなかったの?」
そう、ルナは言った。
え? そうだっけ?
僕は周りを見てみる。
みーむとコルニスは呆れた目で僕を見ていて、ティアは苦笑いしていた。
うわあああ恥ずかしい穴があったら入りたい!
とりあえず、ごめんなさいと言っておいた。
「大事な話を聞いてないなんて、あやとは……ほんとにもう……」
みーむに小言を言われるし。
僕がいたたまれない気持ちになっていると、
(実はボクも聞いてなかったんだけど、黙っておこう)
というみーむの心の声が……
て、おい! みーむも聞いてなかったじゃないか!
『あれ、ばれた?』
ばれた、じゃない。
さてはみーむ、僕が思考を読み取れること、忘れてるだろ。
『いや、でもそんなことはみんなに言わなきゃわからないだろ。あやとみたいにボロを出さなければ』
「おーい! みーむも話を聞いてなかったみたいだぞ!」
悔しいから、僕はこのことをみんなに暴露してやった。
「ちょ、あやと、違うってば!」
みーむが抗議するが、その反応は悪手だぞ。
ほら、みんなが僕たちのことをジト目で見てるじゃないか。「あー、そうだよね」という声も聞こえてくる。
「……どうでもいいけど、話進めていい?」
ルナが冷たい声で言ってきた。
すみませんでした。
「それでごめん、ソニカはどういう立場なのか説明してもらっていいかな?」
僕はルナに尋ねる。
「第一王子のソニカと、第二王子のマックスは一つ違いの兄弟で、年齢が上のソニカの方が王太子だったんだけど、王宮内から能力を疑問視する声が出てきたんだ」
よくあるお家騒動だな。
「はじめはソニカ派とマックス派で分かれて対立していたんだけど、なぜかソニカ派の有力者たちが次々に病死して、残った有力者たちもマックス派に寝返っちゃったんだ。それでソニカに味方はいなくなっちゃったんだ」
つまり王位継承争いに敗れてしまったと。
あれ? だとすると……
「それじゃあソニカはなんでまだ生き延びているの?」
そう、王位継承争いに敗れたとすると、とっくに殺されていると考えるのが自然なのだ。そうじゃなくても、ここまで執拗にソニカを追いかけてくる敵対派閥がソニカを消すことができない理由が思いつかない。
そう思って問いかけると、ソニカ自身が答えてくれた。
「ぼくの親友が守ってくれたんだ。ぼくが王宮から逃げる時、追手に追いつかれそうになって、それで自分が身代わりになると言って、それで……」
ソニカは泣き出してしまった。
さすがに可哀想になってきた。さっき見捨てようとした自分が恥ずかしい。
「事情はだいたいわかったけど、いつまでもここにいていいの? 場所を変えた方がよくない?」
僕は話をそらそうとして、ふと思いついたことを言ってみる。
そう、ここは人気がなく、周りに誰もいないことが確認できているとはいえ、身を隠す場所がない。
ソニカの身の上を知ってしまった以上、ここに留まることは危険だと思ったのだ。
「そうだね。じゃあ、『モーヴェ・カフェ』に戻ろうか。あそこなら安全だと思うし」
結局、僕たちはルナの提案に乗って、あの騒がしい三姉妹のいるカフェに戻ることになった。
「それで、どうする?」
僕はみんなに問いかけた。
事情はだいたいわかったが、だからといってむやみに介入するのは危険だ。
まあ、ソニカに関わった時点で、既に危険なことに足を突っ込んでいるのだが、今更である。こうなってしまった以上、いかに安全を確保するのかが重要であった。
「たぶん一番安全だと思うのは、ソニカは死んだことにして、別人として生活することだと思うんだけど……」
僕はそう言ったが、
「それが難しいんだ。ぼくは変装して逃げてきたんだけど、それでもかぎつけられて、追われていたから……」
そう、ソニカが答えた。
ならどうすればいいのだろうか。一生隠れ住むわけにもいかないだろうし。
「じゃあ、亡命するとか?」
「確かにそうするしかないんだけど、問題は受け入れてくれる国があるかどうか……」
僕の問いにルナがそう答える。
曰く、この世界のほとんどの国が神ルアシスの息がかかっているらしく、僕たちが下手に動くと、ルアシスに察知されて妨害されてしまう恐れがあるらしい。ただでさえルアシスに目を付けれている僕たちに戦闘力を持たないソニカが同行すると……確かにろくでもないことになりそうだな……
一応、受け入れてくれそうな国を探してくれるとのことだが、見つかる見込みは薄いらしい……
手詰まりか……どうすればいいのだろう……
そこでふと思って、僕はソニカに尋ねてみた。
「ねえ、質問なんだけど、ソニカは王位を継ぐ気はあるの?」
そう、そこが問題なのだ。むしろそこが一番重要といえる。なぜ今までそこに思い至らなかったのか……。ソニカの返答次第では対応を変える必要がある。
「別にぼくは王位を継ぐ気はないよ」
ソニカはそう答えた。
よかった。ここで王位にこだわる姿勢を見せてたら、本気で見捨てようと思っていたところだ。
ところが、ソニカの言葉には続きがあった。
「ただ……」
ただ?
「本当はこんなことを言いたくないんだけど……マックスに国を任せるのは不安なんだよね……」
……どういうことだ?
「マックスは、悪い噂もいろいろあるんだ」
そこで口ごもってしまったソニカに代わってルナが答えた。
「税金を使って贅沢三昧したり、犯罪まがいのこともいろいろやっているらしい。男女関係なく人を攫って自分のそばに置いたり……」
それ、まがいじゃなくて、まごうことなき犯罪だよね?
「それを、権力を使って揉み消してるんだ。とにかく評判が悪いんだよ」
ダメじゃん! なんでそんな人が支持されるんだよ!
「それは……」
ここでルナが言い淀んでしまったので、ソニカが続けた。
「……ぼくって女の子にしか見えないでしょ」
「うん」
……あれ? 思わず同意してしまったけど大丈夫か? ここは否定すべきだったんじゃ……
僕がそんなことを言う間もなく、ソニカの話は続く。
「運動も苦手で、王には相応しくないという声が多く出てたんだ」
ええ、こんなに可愛いのに、と思ったが、王様には威厳が必要という考え方もまあ、わからなくもない。
「その点、弟のマックスは強くて勉強もできるし、能力的には申し分ないからみんなに期待されているんだ。ぼくも何度か剣の試合をさせられたけど、もはや勝負にすらならなかったよ」
ひょっとして見せ物にされ、みんなに笑われた? とは聞けなかった。気の毒過ぎるから……
「早い話マックスは天才だったんだ。強いだけじゃなくて頭も良かったからいろんな道具を発明したし、新しい魔術も開発して国の発展に貢献したんだ。それに比べてぼくはぱっとしないし……」
以下、ソニカの自分を卑下する言葉が続くが割愛する。
なんとか止めて、なだめるのに時間がかかった。
「つまり天才タイプか。確かに国はそっちを王にしたそうだよな……」
「でも性格が……だからそれを不安視する声もあって、それでぼくを立てようとした人もいたんだ」
それは……大変だな……
「じゃあそれで、どうしたらいいだろうか?」
僕は改めて問いかける。
「とりあえずどこかへ逃がしてくれると……ありがたい……です」
ソニカが少し遠慮がちに言った。
……まあ、そうなるよね。難しいみたいだけど、このまま見捨てるのも忍びないし……
この場の全員がこれに同意して決まりかけた、その時だった。
ドオオオオオオオオン!!!
大きな爆発音が聞こえたのは。
……何が起こったのかはわからないが、逃げる前にこの状況をどうにかしなきゃいけないようだ……
彩人「そういえばみーむのセリフで「」を使うときと、『』を使うときがあるけど、どう違うの?」
みーむ「普通に口に出して言っている場合は「」、念を送って話している場合は『』を使ってるね。だから合体中のセリフは『』だし、合体中じゃなくても周りに聞こえないように話すときは『』を使うことがあるね。あと今回、伝えるつもりがないのに漏れてしまった思考は()を使ったね」
彩人「そうなんだ」
みーむ「ところでなんで、急にそんなことを聞いたの?」
彩人「いや、後書きのネタがなくてさ……」
みーむ「別に書かなくてもいいんじゃないの?」
彩人「そうなんだけどさ、一度書く習慣にしちゃうとやめるのは気が引けるって……」
みーむ「そうか、それならしょうがないね」
彩人「そうだね、しょうがないね」
お読みいただきありがとうございます。
次も、火曜日に更新する予定です。




