第33話 学園
僕が『モーヴェ・カフェ』の三姉妹から聞いた話はこうだった。
王都で不穏な動きがあり、混乱が起きる可能性があるのでそれとなく探ってほしいと。
放っておくと、王国を揺るがす大事件に発展する恐れがあるらしい……
別にそれ僕じゃなくていいよね? 王国の事情もよく知らないし……と言ったら、調査自体はそうだけど、現状知り合いの中で最大の戦力が僕達だから、僕の力が必要になる時が来るかもしれない、と言われた。
とりあえず注意はしとけという話だったが、ルナがやたらやる気を出していたので、なんだか嫌ですとは言えない空気になっていた。
そういえばルナは職業がシーフだから調査とか得意なんだっけ。コルニスも得意そうだし。ティアは分からないけど……
ちなみに王都には観光目的で滞在許可をもらっており、王都に居られる日数は限られている。
冗談じゃない、僕には同性の仲間を集めつつ自動車の研究をしている人を探すという任務(自分で言ってるだけ)があるのに……と思っていたら、みーむに白い目で見られた。もちろん口には出さなかった。
こうして僕達は王都での不穏な動きについて調査することになった。憂鬱だが仕方がない。この件はかなりの確率でルアシスが関わっているのだ。無視はできない。
さて、どこに行こうか、と話していたらルナが
「それなら王立魔術剣術学園に行きたいんだけどいいかな?」
と言ってきた。
……少し申し訳なさそうな顔をしている所を見ると、この任務には直接関係ないけど個人的に行きたいから行っていいかな? と聞いているように見える。
どんな事情か気になるけど……まあいいか。どうせ何も決まってないし、実は関係あるかもしれないしな。
「いいけど、入れるの?」
「大丈夫だよ。あそこ結構緩いところあるし、誰かに聞かれても、知り合いに会いに来たんですといえばそれ以上は聞かれないし」
それは大丈夫と言うのか。……まあいいか。
「じゃあ行くか」
「うん」
こうして王都での最初の行き先は決定した。
なお、コルニスの
「……彩人はルナに甘い」
という呟きが聞こえたような気がするが、無視する。
そして、ルナの言う通り誰にも咎められることなく学園に侵入した後、僕達は訓練風景を眺めていた。
剣と魔法が飛び交う世界……まさにファンタジーだ。現実だけど。
そこで僕は知ってる人を見つけたのでルナに話しかけてみる。
「あれ、ひょっとして……?」
「カイトのこと? 彼は王都の学園に通うから頑張るって言ってたみたい。そうシスターたちに聞いたよ」
「へえ、そうなんだ。……あれ? どうやって入ったんだ?」
僕がそう聞くとルナは声を潜めて言った。
「まあ、『解放隊』のつてを使っていろいろね。大きな声で言えないけど、あそこの学園長は金に汚いことで有名だから」
え!? 大丈夫かここ!?
「カイトは剣の才能はあるし、大丈夫なんじゃないかな? 実際ここでもちゃんとやれてるようだし」
そう言ってルナはカイトの方に視線を向ける。なるほどね。
確かにカイトはちゃんと訓練できているようだった。
今は先輩に稽古をつけてもらっているところだ。
「……?」
ん? ルナがカイトの方を見て首を傾げている。何かあったのだろうか?
僕がルナにそれを聞こうとした時、僕と合体しているみーむが僕に話しかけてきた。
『あやとはカイトの話は聞いてなかったの?』
そういえば聞いてなかったな……
『聞く機会はあったよね? というかルナがシスターとこの話をしていた時、あやとも近くにいたと思うけど?』
……聞いてませんでした。あの時はルナと再会できたことで浮かれてて、それどころじゃなかったんだよね。
すみませんでした。
しばらくして訓練に区切りがついて休憩時間に入ったらしく、カイトがこちらに近づいてきた。
「兄ちゃん、元気だったか!」
「うん、僕は元気だよ」
「ルナお姉ちゃんも無事連れ戻せたみたいだし、良かったぜ! そういえば教会のみんなは元気でやってるか? 俺はな……」
まあそんな風に僕がカイトと再会を喜んでいる横で。
カイトに稽古をつけていた先輩が、ルナのもとに近づいてきた。
年は僕と同じくらいだろうか。亜麻色の髪をした、どこか儚げな雰囲気を持つイケメンである。
それを見たルナの顔はなぜか困惑気味だ。亜麻色の髪の少年は、固まってしまったルナの前に跪き、こう言った。
「お久しぶりです、ルナさん。クリオです。あなたにずっと会いたいと思っていました」
クリオは、そんなことを言った。
え……
「「ええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」」
なぜか僕とルナの声がハモった。
話を聞くと、クリオは昔モンスターに襲われていたところをルナに助けてもらったらしい。それで、自分も強くなると決心して、頑張ってこの学園に入学したそうだ。
今のところ成績はトップで、イケメンで気配りも上手だしで女子にものすごく人気があるらしい。そうカイトが教えてくれた。僕は世の中の不条理を嘆くしかない。ぐぬぬ……
そんな奴がなんでカイトの相手をしているのかというと……カイトは若干言いにくそうにしながら、自分は少し後ろめたい方法で入学したせいで目を付けられていると教えてくれた。それで、成績トップのクリオと対戦させられることになったという。
僕はふと、ルナの方に目を向ける。
「……」
ルナは黙って目を逸らした。
……ねえ、大丈夫なの!?
『解放隊』とこの学園は!?
それで、カイトの剣の腕について、カイト自身はまだまだだと言っていたが、クリオに言わせると思いのほか才能があって驚いているらしい。
僕にはよくわからないけど、少なくとも僕より凄いということはわかる。僕は全然駄目だからな……
ちなみにクリオの剣の腕は超一流だと、カイトが言っていた。先生すら一目置いている様子なので間違いないだろう。
そんなクリオが、ルナのことが好きらしい。なんとなくもやもやする。なんでだろう?
『それはさ……』
みーむが何か言いかけた時だった。
クリオがこんなことを言い出した。
「彩人は何か、強い力を感じるね」
「そう?」
素で返してしまった。僕のどこに強いと思う要素があったのだろう?
「何と言ったらいいのかわからないけど、君は僕の行く手を阻む障害になるような気がする」
随分な物言いだな。でもなぜか反論できない自分がいる。なんでだろう?
そんなことを考えていたら、クリオがとんでもないことを言い出した。
「決闘だ! 今から僕は君に決闘を申し込む! ルナを賭けて勝負だ!」
「え……」
ええええええええ! なんでそうなるの!?
みーむ「ねえ、あやとは世界よりも車や仲間の方が大事なの?」
彩人「いや、協力するから! 心の中で思うだけなら罪じゃないよね!? 勘弁してくれない!?」
みーむ「まあそれを追求するほどボクも鬼じゃないつもりだけどさ」
彩人「話を振ったのはみーむのくせに……」
みーむ「それは悪かったよ。でもそう思っているんだよね?」
彩人「そうだよ、悪い!?」
みーむ「別に悪くないけど、なんかこう……」
彩人「僕は世界のために自分を犠牲にする気はないからな!」
みーむ「まあ、その考えはわかるけど……じゃあさ、ルナの頼みと車や仲間を確保することだったらどっちの方が大事?」
彩人「え……それはどっちだろう……? 悩ましいな……」
みーむ「……そこは迷わないで欲しかった……」
みーむ「あれ? よくよく考えたらこの会話って本文ですべき内容じゃない?」
お読みいただきありがとうございます。
次も、火曜日に更新する予定です。




