第32話 仲間
困った!
とんでもないことに気づいたぞ!
仲間が異性しかいない!
僕達は今、馬車に乗って王都に向かっているところなのだが、女子三人がきゃっきゃと話をしている中、唯一の男である僕は話についていけず、取り残されてしまっている。
性別なんて関係ないよと言う人もいるだろうし、そう言う人は素直に羨ましいと思うが、僕にとってはやはり性別の壁は大きい。
ただ単に僕のぼっち歴が長すぎてコミュニケーションスキルが不足しているだけのような気もするが、だったらなおさら同性の方が話しやすい。
きゃっきゃと話し合える女子三人が羨ましい。
三人を見ていると一見仲良く話し合っているように見えるが、よく観察するとルナとコルニスが互いにマウントを取って牽制しあっており、ティアがこの状況をなんとかしようとしておろおろしているように見える。ただ、それでもルナとコルニスが話を続けているのはなんだかんだ言って仲がいいということなのだろう。なんだか剣呑な雰囲気を醸し出しているような気もするが、気のせいに違いない。
だから、ルナとコルニスは目から火花を出すのをやめてほしい。
まわりからお前の仲間なんだからお前が静かにさせろという視線を痛いほど感じるが、ここにコミュ力ゴミの僕が突っ込んだところで爆死する未来しか見えない。
とりあえず御者と周りの乗客に謝り倒した上でわい……チップやお菓子を渡してどうにかなだめるしかなかった。しかしこれも、僕のお金とストレスがそろそろ限界に来ている。もう少しで王都だから……と必死に目でお願いする。出禁になりそうだ……
モンスターが襲ってこなくても、仲間の暴走でぶっ倒れそうだ……
そこでふと思い出して、みーむってそういえば男なの? と聞いてみたら、
『……? 精霊に性別はないよ?』
と言われてしまった。なんだか裏切られた気分だ。
『何でかわからないけど、侮辱されたような気がするー!』
みーむがなんか言っていたが、無視する。
ああ、同性の仲間が欲しい。
……一応言っておくと、僕は別にそういう趣味はない。自分が恋愛するなら異性がいいと思っている。ただ、気軽に話せる仲間が欲しいだけなのだ。
……僕は誰に言い訳をしているのだろう……
とにかく僕は王都に着いたら車を手に入れるのと、男を仲間に入れることを決意した。
『……神を倒すという目的は?』
というみーむの突っ込みが聞こえたような気がするが、スルーする。
さて、僕が王都に着いて最初にやったことと言えば。
……説教である……
僕は微妙に遠い目をして、それも死んだ目で、ルナ達に説教していた。
こんなことをしても意味はないと思うが、とりあえずやっておかないと駄目な気がしたのだ。
とりあえず簡潔に注意するように心がける。
「ルナとコルニスはみんなの前で喧嘩するのは禁止! みんなが迷惑するでしょ!」
「ええ……、だってまさか落ちるとは思わなかったんだもん。それよりコルニスがみんなのいる前で吐いちゃう方が常識ないでしょ? エチケット袋を用意するとか酔い止め薬を飲むとかやりようはあったよね?」
「こっちだって酔っちゃったものは仕方がない。予想できなかった。それよりルナはもう少し自分の身の回りに注意を払うべき」
僕の注意にルナとコルニスが反論する。
「ここで喧嘩しない! 言いたいことがあったら後で個別に聞くから、他人のいる前ではおとなしくすること! わかった?」
「「は~い」」
ルナとコルニスが声を揃えて返事する。こういうところでは仲いいな。
本当にわかったかどうかは怪しいが、これ以上追求しても仕方がないので説教タイムは終了する。
それにしてもこの二人は、お互いの何が気に入らないのだろう。先が思いやられるな……
そして僕は、二人を仲裁しようとしてくれたティアの頭をなでる。後で何かご褒美をあげないとな……
さて、僕達は王都に着いて一泊した後、ルナの仲間がいるという喫茶店に行くことになった。そこで働いている人が『解放隊』に所属しているのだという。なんとなく嫌な予感がして憂鬱になるが、必要なことなので行くことにする。
……と言っても、僕達が宿泊した宿屋の一階なんだけどね。
昨日は慌ただしくあまり時間がなかったので、じっくり見るのは今日が初めてになるのだが、店内はすっきりして落ち着いた雰囲気である。
へえ、なかなか居心地のいい場所だな……と思ったのは一瞬のこと。
「こら、キャンバス! ちゃんと仕事しなさい!」
「え~昨日は忙しかった。休ませて~」
「何を言ってるの! 昨日は休みだったじゃない!」
「うふふ、キャンバスは相変わらずね。コンテはもう少し落ち着きなさいな」
「ラテ姉が落ち着きすぎなのよ!」
……やかましい三人娘がそれを台無しにした。残念なことに従業員である。
というかうち二人は見覚えがある。
キャンバスと呼ばれた少女は確か、カリーナとセリカが石を投げつけられていたのを助けた時に、解放隊から派遣された茶髪の少女だった気がする。
眠そうな目をして、いかにもやる気がありません、って感じだ……
そしてもう一人、コンテと呼ばれた黒髪の少女は、ルナがいなくなった日に話した少女だろう。気が強そうだと思ったが、こんなにうるさいと疲れそう……
もう一人、ラテ姉と呼ばれていたのは緩くカーブした茶髪を伸ばしたおっとり系お姉さんというイメージの人である。
なんだかルナの知り合いっぽいので、ルナに聞いてみる。
「ねえ、あの三人はどういう人達なの?」
「この『モーヴェ・カフェ』を運営しているモーヴェ三姉妹だよ。長女のラテはおっとりしてるけど、みんなが頼りにしてて支部長をやっているんだよ」
支部長というのは『解放隊』の支部長のことだろう。まじか。
「で、次女のコンテは気が強くて世話焼きなところがあるね」
少なくとも見た目は体育会系女子のコンテか。ラテやキャンバスと違って黒髪だから義理の姉妹かと思ったけど、ちゃんと血は繋がっているらしい。
「そして三女のキャンバスはマイペースなところがあるね。いつもぼおっとしてるけど仕事はちゃんとこなしているし、時々有効なアイデアをくれることがあるんだ」
……喫茶店の仕事はちゃんとできているか怪しいけどね……
そういえばティアを孤児院に送り届けた時にキャンバスが「人使いの荒い姉がいる」みたいなことを言っていたが、恐らくコンテのことだろう。
「キャンバスは有名画家でもあってね、それで余計に忙しいんだよ。ほら、壁に絵がかかってるでしょ?」
言われて周りを見てみる。
……なんだろう、見る人をブラックホールに吸い込んでいくような、狂気に満ちた絵は……
「キャンバスの描く絵ってみんなこんな感じなの?」
「そうだね、世間では人々の狂気と生きる喜びを描いた問題作ってことで、人気が高いよ」
描いた人、絶対そこまで考えてないだろ……
やはり芸術はわからん。
「てか、そんな人に仕事手伝わせるなよ……」
「まあ、どこも人手不足だからね……」
『解放隊』と喫茶店は大丈夫なのだろうか?
見たとこ、喫茶店はそこそこ繁盛しているようだけど……
とりあえず「ホットコーヒー三杯とホットミルク一杯で」と注文しておいた。
そこですかさずみーむが「ボクの分はないのー?」と聞いてきたので、ラテは気を利かせてみーむとまーくのミルクもサービスしてくれた。こういう所は好感が持てるな。
しかし……
ガシャーーーーン!
ガシャーーーーン!
きゃあああああ! 何やってるの! 痛! 血が出た! ほんとに何やってるの……痛! うわあああああ!
なんて声が厨房の方から聞こえてくる。
本当に大丈夫なの!?
結局いてもたってもいられなくなった僕は、喫茶店の仕事を手伝うことになってしまった。何度でも言うけど、本当に大丈夫なの!?
そして落ち着いたころ、僕達は三姉妹から仕事を受けることになった。確かにそのためにここに来たんだけどさ、僕は朝から疲れているし、さらに別の仕事の話を聞かなきゃいけないのか。憂鬱になってくる。
勘弁してくれ!
みーむ「地獄に落ちろ!!!」
彩人「え? どうしたの急に?」
みーむ「すでに女の子に囲まれているのに、この上男が欲しいだと? ふざけるな! 蒸発しろ!」
彩人「ちょっと意味わからないよ! 僕は仲間が欲しいだけだし! てかみーむって性別ないんじゃないの?」
みーむ「……それにしても、モーヴェ・カフェはあんな有様でよくやっていけるね」
彩人「おい、今話逸らしただろ。性別の話で突っ込まれてまずい話があるの?」
みーむ「ひょっとして解放隊のメンバーも個性派ぞろいなのかな? 今から先が思いやられるね」
彩人「……嫌なこと言うね……てかみーむどうしたんだよ! ひょっとしてモテない男の霊でも乗り移ったの?」
みーむ「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。世の中は不思議であふれてるねぇ……うふふ」
彩人「うわあ、みーむが壊れた! 気持ち悪い! ……あれ? 前からか?」
みーむ「なんだと! やんのかゴルアア!?」
彩人「ここらで上下はっきりさせようじゃないか。その喧嘩、買うよ!」
ボコスコボコスコ!
ルナ「ちょ、ちょっと喧嘩はやめて……てか喧嘩をやめようと言ったのは彩人じゃ……」
どかあああああああんんん!
……
ルナ「世界、なくなっちゃった……」
ルナ「もし次、やり直せることがあったら、二人の喧嘩を止められる力を身に着けよう」
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次も、火曜日に更新する予定です。




