第30話 ボス
私は三人の少女から話を聞いていた。
「……というわけで『ルアシス解放隊』の人達からどうにか逃げ切ったんだけど、痕跡を消すのが大変でさ、苦労したんだよ」
そう報告してきたのはコラナという少女だった。胸に猫? を抱いていて、その猫? は「みー、ぶー」と鳴いている。みーぶというらしい。
「そう……大変だったのね」
「……本当にそう思ってる? 私達苦労したんだからね!」
「そうだよ。わざわざ人々の注意を引いて石を投げつけられたけど痛かったんだから! もうそんな経験はこりごりだよ!」
「コラナなんか『お母さん、どこー』とか言ってたからね。お母さんって誰だよ!」
「な……今はそれはいいだろ!」
私がねぎらいの言葉をかけると、コラナとカリーナが口々に文句を言い、セリカがコラナをからかっていた。本当にすまないと思ってたのに……
「まあ私達は“ピー”に拾われた恩があるから、それを返すためにしっかり働くけどね」
コラナが咳払いしてからそう言った。
それから思い出したように、付け加える。
「あ、今のとこ、“ピー”って入れといてください」
「“ピー”って何!? というか誰に言ってるの!?」
私が思わず突っ込むと、コラナは少し考えてから、
「ん~と、天の神様?」
と言った。
「その神様っていうのはルアシスじゃないよね? 私達にとって神と言ったら“ピー”のことだよね?」
「……いや、“ピー”のことでもない。もっと別の誰か」
カリーナの問いにコラナは意味不明な回答をしていた。
「それにしても“ピー”は何で“ピー”のことが“ピー”なのにそんなまわりくどいことをするんだろう?」
「そうだよねえ? あの時“ピー”は“ピー”のことが“ピー”だったっぽいからあと少しだったような気がするのに、何で“ピー”は肝心なところで引いちゃうんだろう?」
「そうだよ! あの時“ピー”は“ピー”に“ピー”して“ピー”になれば良かったのに!」
カリーナ、セリカ、コラナは口々に私のことを好き勝手に言っていた。
「やめて! 何を言っているのかわからないから!」
あと、恥ずかしいから!
それから私は咳払いしてから彼女たちに注意する。
「あと、私のことはボスって呼んで。誰が聞いてるかわからないし!」
そう、さっきまで彼女たちはあろうことか私のことを本名で呼んでいたのだ。私は死んだことになっているので、表に出るわけにはいかない。作戦に支障が出てしまう。
まあ、周りに誰もいないことは確認しているけど念のためね。
「じゃあ、姉御! それじゃなんでそんなことをしているんだ?」
セリカが身を乗り出して聞いてきた。てか、姉御って……どこで覚えてくるんだろう?
「それは私が彼を確実に手に入れて、私なしでは生きていけないようにするため……そうなったらどうしようかな、あれがいいかな、これがいいかな、えへへ……」
おっといかん、涎が。
「姉御が何考えているのかわからねーぜ」
「またいつもの発作が始まりましたね」
「何だかわからないけど、幸せそうでなによりだね」
三人が何かを言っているが気にならない。だって私は幸せだから。えへへへへ……
「おーい、そろそろ戻ってきて」
えへへへへへへへ……
まあ、妄想も楽しいけどやっぱりリアルに勝るものはないわけで。リアルを実現するためには行動しなきゃいけないから、名残惜しいけど妄想から現実の世界に復帰する。
「それで、何かわかった?」
「んー、人体実験をしていることをルナと“ピー”に言えってティアに言ったら、面白いことになったんだよね。“ピー”は感情的になりやすいところがあるけど、悪い人じゃなさそうだってことは分かったよ。まあ姉御の気持ちもなんとなく分かるかな」
私の問いにコラナが答える。
そうでしょうそうでしょう。わかってくれて何よりです。
「ルナは、何か大事なことを隠している感じがしたね。いつも後ろめたさを感じているような……」
「そうですぜ姉御。そんな彼女でも“ピー”は信頼しているみたいで、うかうかしていると取られちゃいますぜ」
カリーナとセリカが言う。ていうかセリカ、その芝居がかった口調、そろそろやめて……
……え?
……
「おーい、姉御? どうしたの? 盲点だった……私はこんなことに気づかなかったなんて……不覚……っていう顔してるけど、大丈夫?」
……計画を見直さなければ……いや、しかし……
「おーい!」
誰かが呼びかけたような気がしたが、私が現実に復帰するのにしばらく時間が必要だった。
「まあ、ボスがもたらしてくれた情報のおかげでいろいろ面白いものが見られたよね。なんだかんだで孤児院は楽しかったし。まあ戦闘訓練は退屈だったけど」
「実力出さないようにするのに苦労したよねー」
「そういう意味ではボスの方が大変だと思う。ルアシスにいろいろいじられて……大丈夫なの?」
カリーナ、セリカ、コラナが言った。それにしても私のことを心配してくれるとはね。ちょっと嬉しいじゃないか。
「大丈夫だよ。愛の力があれば無敵だから!」
私が胸を張って答える。
「そんな……根性論みたいなことを言って……」
「今時そんな痛いセリフ言うのってボスぐらいだと思う」
「脳みそお花畑だね。うらやましい」
三人が私のことをボロカスに言ってくる。
私が三人を拾ってきた時は素直だったんだけど、なんでこうなってしまったんだろう。誰に似たんだろうか?
「だけどそういえば……ルアシスは借り物の力で威張っている印象を受けるんだよね。自分のことを神って言っているけどなんとなく嘘くさいというか……偽者? って感じがするんだよね」
私がふと思い出して三人に報告する。
「じゃあ本物はどこにいるの?」
「わからない。というか力を見せつけられたから、力は紛れもなく本物なんだけどね……」
コラナの問いに私が答え……られてないけど、言った。
それにしてもルアシスを前にした時の、あの違和感は何なのだろうか。
「そういえば……孤児院の人達がルナをルアシス様と呼んで崇めていたけど、あれは何だったのだろう?」
「そういえばルナはなんとなく神っぽい気配があるよね」
カリーナとセリカがそんなことを言ってきた。
どういうことだろう?
もしかして……?
いや、でも情報が足りないな……
「あ、そうだ、“ピー”はしきりにルアシスを倒すっていってたよ」
セリカが補足してきた。
もしルナが本物のルアシスだったとして、そんな人と行動を共にするだろうか?
……いずれにしろ、もう少し情報を集める必要があるな。
それに、ルナが何者だろうが関係ない。私にとっては泥棒猫、つまり敵であることに変わりはないのだ。
それに偽者疑惑のあるルアシスも、“ピー”を排除しようとしている時点で敵だ。今は利用しあう関係だけど、いずれは消す。
「それじゃあお話はこれくらいにしてそろそろ戻ろうか」
私はそう提案する。
「えー、もっと一緒にいたーい!」
「というか孤児院勝手に抜け出してきたから、戻ったら怒られちゃうよー!」
「戻って大丈夫なの?」
三人はそれぞれ不安を口にする。こうして見ると、大人びて見える彼女たちも、やはり年相応の子どもなのだと思い、微笑ましい気分になる。
「大丈夫だよ。少し怒られるかもしれないけど、やさしく受け入れてくれるから」
これは確信を持って言える。
「本当?」
「うん、本当だよ」
「そうかー。うん、分かった。行ってくるよ」
「うん、ばいばーい」
「また連絡するねー」
「ばいばい」
こうして私達は別れた。
今の私はルナとルアシスという二人の強力な敵を抱えている。それを倒した上で、彼を手に入れなきゃいけないのだ。正直、かなり困難な道のりだと思う。
でも、諦めるつもりはない。愛の力は無敵なのだ。
それに誰かが言ってたじゃないか。恋は、困難なほど燃え上がるのだと。
ふふふ……楽しみになってきた。
待っててね。どんな障害も乗り越えて、必ず会いに行くから。
私が手に入れて、いっぱい愛してあげるから。
だから、待っててね。
私の愛しい「“ピー”」。
……おい、誰がここで“ピー”入れた。台無しじゃないか!
周りを見てみる。
そこにはコラナ、カリーナ、セリカの三人がいた。……まだいたのか。
そしてセリカが舌を出して「えへっ」と言っていた。
とりあえずセリカの頭をぐりぐりしておく。
「いたい、なにすんの!」
「とりあえずむかついたから」
「ええええええ!」
てかここで“ピー”入れる必要あった?
「いや、なんとなく気持ち悪かったから」
人の心を読むなあ! あと、気持ち悪いって言うなあああああ!
私はセリカに追加でぐりぐりする。
本当にもう!
締まらないなあ!
第一部完/第二部へ続く
みーむ「ボクたちは“ピー”の中身を知ってるけど、今回の話は別に“ピー”を入れなきゃいけない単語って出てきてないよね? なんで“ピー”を入れたんだろう?」
彩人「ネタバレが含まれているかららしいよ」
みーむ「いやでも、ほぼ答えを言ってるようなものだし、意味はないのでは……」
彩人「……想像の余地を残しておきたいからだって、天の声が……天の声うるさい」
みーむ「というわけで、これにて第一部は完結で、次回からは第二部になります」
彩人「いや、この終わり方はないでしょ! てか本当に第二部あるの!?」
みーむ「一応書いているらしいよ? ただ公開までは少し時間がかかりそうだから、待っててくれると嬉しいです」
彩人「そうだね、読んでくれるのは、本当にありがたいと思います」
みーむ「と、いうわけで……」
彩人とみーむ「「よろしくお願いします!」」
お読みいただきありがとうございます。
明日からしばらく休載します。
楽しみにしてくださった方、申し訳ありません。
みーむの言う通り、第二部は現在執筆中で、準備が整い次第、公開する予定です。
第二部もお読みくださると嬉しいです。




