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第3話 怒り

 気がつくと僕は教会の棺桶の中で眠らされていた。


「起きたかね?」


 くそ、寝たふりして様子を窺おうとしたのに失敗か。


 今声をかけてきたのは神父だった。教会を孤児院として使うことができているのは彼のおかげで、人格者だと思っていたのだが……。

僕も世話になっていた。


「棺桶なんて趣味が悪いですね。あわよくばこれで死んでくれたらとか思っていたのですか?」

「あいにく死んでしまっては使い物にならないのでね。ただ棺桶は力を封じ込めるのには都合がいいから使っているだけなのだよ」

 ただ捕らわれているだけなのも癪なので皮肉を言ってみたのだが、神父の返答にこっちがいらっとさせられた。すぐに僕の頭が沸騰してしまう。


「どういうことだ! ルクシアはどこだ! 孤児院の子どもたちをどうした!」

「落ち着きたまえ。質問には一つずつ答えよう。まずルクシアだが、君の横でまだ眠っているよ。君が私に協力してくれるなら彼女の無事は約束しよう」

「協力? ふざけるな! こんなことをする奴に協力なんかできるか!」

「まあ聞きたまえ。これは神の導きなのだよ。神ルアシス様はおっしゃった。愚かな行いをした人類を一掃し、選ばれし者だけで楽園を創ると。その楽園を創造する人間に私達は選ばれたのだ。こんな光栄なことがあろうか!」

「何を言っているんだ! 絶対にろくなことにならないに決まっている! 目を覚ませ!」

「君も選ばれたのだよ。光栄に思いたまえ」

「聞いてねーよ! 早くここから解放しろ!」

 話が通じない! いい人だと思ってたのに……


「そもそもわしがなぜ孤児院を運営していたと思うかね?」

「知るか! 解放しろ!」

「何も知らぬ民にただ死んでもらうだけでは意味がない。自分達が愚かだったと認めさせてから死んでもらわなければ困る。そのためには力を見せなければならない。圧倒的な力を! しかし神自らが出るのも違う。そこで神が愚かな我等に力を与えることで選ばれし者とそうでない者の差を見せつける。そうすることでより神の威光を知らしめ、選ばれなかった者は神を信じ切れなかったことを後悔して死んでいくという算段なのだ!」

 訳がわからない。この話はいつまで続くのだ。


「そして力は小さいころから育てていけばより強くなることがわかったのだ。そこで孤児を拾い育て神のための戦力としたのだ!」


「ふっっっっっっっっっっっっっっっざっっっっっっけるなああああああああああああ!」


 僕の中で何かが切れる音がした。

 気が付くと棺桶が燃えて僕は自由に動けるようになっていた。どうやら炎の能力が発動していたらしい。


「おおこれはこれは。素晴らしい。選ばれし者は危機的状況に陥ると力が覚醒すると聞いていたがまさかこれほどまでとは。神もさぞかし喜んでおられるでしょう」

 くそ、どこまでも癇に障る言い方をする神父だ。


「しかしまだまだ足りない。より力をつけてもらうため、特別に稽古をつけてやろう」

 神父がそう言ったかと思うと、いきなり多方向から攻撃が殺到した。炎の弾と土の塊が襲い、風で体が飛ばされ、落ちた所で炎に炙られた。神父が合図して子どもたちに僕を攻撃させたと気づいたのは、僕が攻撃をくらってからだった。僕は反応できず、なすがままとなっていた。


「やれやれ、力があるので期待をしていましたが、所詮はこの程度でしたか。これではいくら鍛えても駄目そうですね。仕方ない。殺しますか」

 そう言うと神父の手に光が集まりだした。

「私はあなたのことを買っていたのですけどねえ。どうやら買い被りだったようです。せめてもの情けです。私の手で楽に逝かせてやりましょう」

 僕の体は少しずつ修復されていたが、かなわないと悟ってしまった僕はもはや抵抗する気力を無くしていた。

 ああ綺麗な光だな。もっと楽しく生きてれば良かったな。ルクシアは僕のことをどう思っていたのかな。やり直せるなら……


 そんなことを考えていた時だった。

「あやとくん!」

 棺桶から脱出したらしいルクシアが高速で駆けつけてきて僕の前に割り込み――


 ばしゅっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ


 光がルクシアを貫いた。


 どういう仕組みかわからないが、光はルクシアの胸を抉り、服に赤黒いシミができていた。


 致命傷だった。


 僕は頭が真っ白になった。


 言葉を発せずに立ち尽くす僕を前にルクシアは息も絶え絶えに言った。

「……あやとくん。良く聞いて。神ルアシスは世界を破滅させようとしている。このままではあなたも巻き込まれる。だから力を、選ばれし者に対抗できる力を身につけて、生きて」

「……嘘だ。ルクシアはどうするんだ。僕はどうしたらいいんだ!」

「……私はいろんなところで調べてまわって、みーむにも聞いた。間違いない。後のことはみーむが導いてくれる」

「後って……ルクシアはどうするんだよ! 僕は……僕は……」

「あやとくん、お願い。神は倒さなくていいから生き延びて、幸せに、なって……」


 そう言うとルクシアから力が抜けていき、動かなくなった。


 え、なんだよ、ねえ嘘だよね? なんか言ってよ。ねえ!


 思うが、言葉が出てこない。この事実を理解できているが受け入れたくない。頭の中を考えがぐるぐる回って、僕は呆然と立ち尽くしていた。


「話は終わったかね。ルクシアが死んでしまったのは想定外だったが、まあそうこれも仕方がない。計画を変更しなければならないが、問題はないだろう」

 神父が何か空気を読まないことを言っていた。内容は半分以上僕の耳を通り過ぎていたが、一つ聞き逃せないことがあった。


 ルクシアが、死んだ。


 その言葉が頭に染み込んでくるとともに怒りが沸々と湧いてくる。


「安心するといい。君もすぐに後を追わせてあげて――」


 ガシャン!


 氷の柱が神父のすぐ横に突き刺さっていた。


「――その口を閉じろ」


 怒りで頭が沸騰した僕はそんな言葉を、威圧を込めて放っていた。

 神父が一瞬ひるんだように見えた。が、すぐに余裕を取り戻して言う。

「その程度の力でなんとかなると思わないことだ。お前に与えられた選択肢は、ただ黙って死を受け入れること、のみだ!」

 そう言った神父は子どもたちに合図を送り、僕に攻撃させようとする。が……


 僕に攻撃しようとした子どもたちが突然倒れ、動かなくなった。


 え? まさか子どもたちも……


 訳も分からず倒れた子どもたちを見て僕は困惑するが、それ以上に神父は動揺しているように見えた。顔を俯かせている。


 と、思ったら顔を上げて、言った。

「……ふむ、せっかく育てた子どもたちも所詮はこの程度でしたか。大きすぎる力に体が耐えられなかったと。仕方ない、ここはさっさと片づけて次へ行きますか」

 神父の勝手な言い分に腹が立ってくる。僕は怒りで我を忘れそうになるが……

『あやと、おさえて』

 というみーむの一言によってかろうじて自分を抑える。


 しかし、このままでは勝てない。勝てなければ、僕は目の前の神父に殺されてしまう。どうすればいいのだろう。

 そう考えたところで、みーむがこんなことを言ってきた。

『それならボクに考えがある。任せて』

 みーむが何をするのかは聞く暇がなかった。なぜなら神父が再び光の攻撃を放ってきたからである。


 僕はこれを受け止めた。咄嗟に土と氷で壁を作り、光を跳ね返したのだ。一か八かだったが、うまくいった。

 そして僕は即座に壁を壊して反撃を始める。


 炎に氷、草、土、風など、孤児院の子どもたちが放った攻を全て自分から出した。しかも子どもたちより威力は高かった。みーむが何かをしてくれたおかげだろう。


 しかしさすがと言うか、神父も戦い慣れていたようで、反撃してくる。

 おかげで戦いは長引き、その余波で周りが凄いことになっていた。


 いつの間にか教会は瓦礫の山となっていた。

 そして村も瓦礫の山となっている。


 少し余裕が出てきた僕は急に恐ろしくなった。

 僕は、この村を……


 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。目の前の神父を倒さなければ僕がやられてしまう!


 こうして僕は無我夢中で戦い続けていると、だんだんこちらが押してきた。とうとう神父はよろめいてしまう。


「こ、こんなことが……知らせなくては。わしはまだ死ぬ訳にはいかない」

 そう言うと、神父はこの場から逃げようとする。

 僕はまずい、と思った。ここで逃がしてしまうと、取返しのつかないことになってしまう。何としてもここで倒しておかなけばならない。僕はそう直感していた。


 だから僕は風の力を借りて神父を先回りしていた。

「く、追いつかれたか。仕方がない。この手で行くか」

 そう言うと神父は手から光を放つ。僕は避ける。が……


 後ろからやってきた光に、僕は貫かれた。

「読んでいたぞ。わしは鏡も出せるのでな。密かに配置して反射させたのだよ。ああ、もう聞いていないか――」


 僕は瞬間的に神父の背後に回り込み、氷の塊を突き刺した。

「僕の体が治癒する所を見なかったのか」

 余計なことをしゃべっている間に油断してやられるとか、奴は昔の悪役か? と後で思った。


 そして僕は神父を確実に倒すため、攻撃を続ける。みんなから奪った力、炎、氷、風、草、土、これらを反撃する隙も与えず、次々と撃ち込んでいく。

 とどめは神父が使っていた光の弾。これもいつの間にか使えるようになっていた。


 神父は黒焦げでボロボロになったがまだ息があった。ここでまた攻撃されて僕がやられてはたまらないので確実にとどめをさしておこう――と思ったら息も絶え絶えにうわ言を呟き始めた。


「……すまなかった。村を守れず……どんな顔してみんなに会えばいいのだ……ピノ、モコ、フレア、アリス、ブローニー、シルフィ……マリア」


「え?」

 神父が呟いたのはほとんどが死んだ孤児院の子どもたちの名前だった。一部知らない名前もあったが……

 いや、それよりも!


「そ、それはどういう意味だ!」

「彩人か……君ならいけるかもしれない。巻き込んで、すまなかった。頼む、神を……」

 だんだん声が小さくなり、最後の方は聞き取れなかった。


「お、おい! どういうことだ! せめて最後まで聞き取れる声で話せよ! おい!」

 しかしそれから神父は動くことも、一言も発することもなかった。


 しばらくして諦めた僕はしばらくその場に佇んでいた。


 冷たい風が僕の頬を撫でる。空は明るくなり始めていたが、虚しさは募る一方だった。


 そして僕は気づく。目の前に墓があることを。その墓には「マリア」と書かれていた……

いつもお読みいただきありがとうございます。

明日も更新する予定ですので、お読みいただけると嬉しいです。

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