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第28話 救い

 苦しい。助けて。


 私はそう思った。


 私は神になんかなりたくなかった。

 でも、誰かがやらなきゃいけなかったから、なった。


 神になってからは、いや、それ以前からだけど、以前にも増して苦しくなった。

 それでもこの世界のみんなが幸せに過ごせるように頑張った。

 でも、私では力が足りなかった。みんなを不幸にしてしまった。


 私は、いつか、苦しい思いをして死ぬのだろうと、漠然と思っていた。


 でも、こんなのはあんまりだ。


 この世界を、人々を、傷つけながら死んでいくなんて。


 誰か、私を殺して、私を止めてと願うと同時に、

 死にたくない、私も幸せになりたいと、願ってしまった。


 私はなんてわがままなんだろう。

 人を傷つけておきながら自分は幸せになりたいだなんて。

 誰も救えないのに、助けてほしいだなんて。


 もう私はどうしたらいいのか、何がしたいのかすらも分からない。


 ああ、誰か。どんな形になってもいいから。


 ……私を、助けて……


 ――――――――――


『来るよ!』


 みーむが警告する間でもなく、僕はルアシス、いやルナの攻撃に反応していた。


 僕は迫りくる攻撃を、『神滅ぼしの剣』で振り払った。

 ルナの攻撃は、どこにも当たることはなく、消滅する。


『『!!!』』


 驚愕の、声にならない声を出したのはみーむだったかルナだったか。

 恐らく両方だろう。


 どうやら、二人にとっても想定外の攻撃らしかった。


『今の……どうやったの?』

 みーむは僕と合体していたのに今僕がやったことがわからなかったらしい。僕が何をしてきたのか聞いてきた。

 いや、みーむから教えてもらった、周りから魔力をもらう方法を実践した上で、剣に念を込めて打ち返したら、できた。


『念?』

 周りから力を集める時と、剣を振った時に『かわいい女の子が理不尽な運命に殺されそうになっています、助けてください』って念じたらみんな喜んで力を貸してくれたよ。

『そんな方法で……ん? 剣も?』

 そうだね。

『そんな方法、ボクも知らなかったのに今この瞬間で編み出すなんて……天才か!』

 いやあ、それほどでも……えへへ。

 まあぶっつけ本番だったし、失敗したら今頃僕達は消えていたけどね。

『おい!!!!』


 とまあ、調子に乗っている場合じゃない。

 ルナの攻撃は続いているのだ。


 僕はどうにかしてルナの呪いを解かなければならない。

 ルナの攻撃を避けながら考えていた。


 考えてみれば、僕達は今まで幾度となくそういう敵と相対していた。

 倒したいのではなく、助けたい敵に。

 例えば……教会の人達やティア、後は僕か。

 そういう敵は、ただ倒せばいいだけの敵よりも厄介である。

 それでも何とか説得して助けることができたのだ。……ルナが。


 思い出せ。今までルナはどうやって敵を救ってきた?


 確か、抱きつ……


 ブフッ!!


 さて、どうしたらいいのかなあ……


『ダメだよ、あやと。ちゃんと考えないと』

 みーむに注意されてしまった。

 そういうみーむは考えているのか?


『まあ、考えてはいるのだけどね。でもこういう時はあやとの方がうまい方法を思いつくような気がするんだよね』

 なんで?

『……ボクの、勘かな?』

 勘かよ……


 まあ僕も考えた方がいいのは確かなので、僕も考えることにする。


 ルナは抱きついて解決してきた。これは僕が真似できることではないが……

 ……でもそれはルナなりの愛情表現というか、ルナ的には手っ取り早く相手を説得する方法がこれだったのだろう。

 肝心なのは抱きついた時、ルナが何をしたのかということだ。


 ルナが僕に抱きついてきた時、ルナは僕に回復の力をかけていた。

 そして、僕に安心してもらえるような雰囲気を作った上で、説得していた。


 ……そうか、そういう敵は様々な悪意が、敵の不安や不満、弱みに付け込んで余裕を奪った上で暴走させた結果、こうなってしまったんだ。

 その敵が安心してしまえば攻撃する理由がなくなり、相手の話を聞いてくれるようになる……かもしれない。


 そういえばさっき僕がルナの攻撃を消した時、僕は『あの娘を助けて』と願ったらみんなが応えてくれたんだった。それで何かのヒントが得られたような気がする。


 みーむや、ここまでの道中で教わったことと組み合わせて考えると……そうか、そういうことか!


 わかったぞ、ルナを助ける方法が!


 そう思ったらみーむが聞いてきた。

『それは今のルナにも通用するの?』

 する。間違いなく。

 僕はそう確信していた。


 それにしても、やることが分かると随分気が楽になる。

 例えそれが、困難な道だとしても。

 何もわからないよりは、ずっといい。


 僕は空にいるルナを見据える。

 こんな時でも、僕の心は落ち着いていた。


『コレデ、オワリにスル』

 そんな声が聞こえてきたかと思ったら、ルナが特大の攻撃を放ってきた。

 僕はそれを避け……なかった。


 みーむは僕の意図を分かっているようで、何も言わない。

 どこかで息を吞む音がしたような気がしたが、僕に気にしている暇はない。


 僕はルナの攻撃を『神滅ぼしの剣』で受け止める。

 やることはさっきと同じだが、ルナの攻撃の威力は段違いである。

 攻撃はなかなか消滅せず、僕は剣を構えたまま踏ん張り、ひたすら耐える時間が続く。


 もちろん僕はただ攻撃を耐えているだけじゃない。それだけなら僕はとっくに消滅している。

 僕は大地や空気を通じてこの世界のあらゆる生物、あるいは死者までも語り掛けているのだ。


 ――僕はあの娘を救いたい。お願いだ。みんな、力を貸して。

 そして、みんなの幸せや、希望を見せてくれ!


 そう、呪いを解くには幸せや、希望を見せつけてやればいいのだ。

 それが、僕がここまででたどり着いた結論だった。


 もちろん、世の中には不幸な目にあっている人はいっぱいいる。というかむしろそっちの方が多いだろう。

 世界中の全ての人が幸せなら確実に浄化できるのだが……言うまでもなくそれは難しい。

 いつかは実現できればいいのだが……間に合わなくなってしまう可能性が大きかった。


 だから今は、ルナにゆかりのある人たちに特に語り掛けている。

 幸い、ルナのせいで不幸になったという人はいなかった。

 だから、多くの『ルナ、負けないで、頑張って!』というお声を頂戴した。


 そして、その想いを光に乗せてルナにぶつけてルナの意識を呼び起こし、後はルナ自身に頑張ってもらおう、というのが僕の作戦だ。


 僕がやろうとしているのは、希望で絶望を押し切ろうということなのだ。

 なんともベタな展開だと思うが……


 いけるという確信はあるのだが、なかなか押し切れない。

 もちろんみーむの力も借りているのだが、もう限界である。

 要は、決め手に欠けるのだ。


 やはり準備が足りなかったか……

 そう、弱音を吐きそうになった時だった。


 急にふっと、僕の力が増えていくのを感じた。

 な、なんだ?

『私が話しかけたら、力を貸してくれるという人がいっぱい来てくれたよ。これで君はいけるはずだ。頑張って』

 だ、誰だ!?

 と思ったけど、すぐにこれがルナにゆかりのある人の声だとわかった。

 恐らく死者で、同じく死者の霊に語りかけてくれたのだろう。

 誰かを詳しく聞くことはできなかったが……


 ありがとう、助かった!

 このお礼は必ずする!


 誰かかも、どこで会えるかもわからないが、僕は心の中でそう言った。

 なんとなく、どこかで会えるような気がしたのだ。

 そうしたら、その誰かは笑ったような気がした。


 こうして力が増した僕は、ついにルナの攻撃を押し切った。


 そして僕が放った白い光がルナを埋め尽くす。


 それを食らったルナは最初、苦しそうにしていた。

『ヤメテ、そんなはずは……!』

 そんな言葉が聞こえたような気がしたが……

 恐らく、暗く落ち込んだ気分の時に、人から希望や感謝の声が届くと拒否反応を起こしてしまうのだろう。


 それでも僕は手を緩めるわけにはいかない。

 僕はしつこいくらいにルナの仲間のルナへの感謝の念を送り続けた。

 ついでと言うのもなんだけど、僕からの感謝の念も送っておく。


 ――ルナは僕がずっと言ってほしかった言葉を言ってくれた。

 僕はルナの言葉に救われたんだ。ルナは僕に生きる希望を教えてくれた。

 ありがとう。


 そんな僕の言葉が届いたのかどうかは知らないが……


 ルナが突然、涙を流し始めた。


『アリガトウ……』

 それはルナの言葉だったが、ルナ以外の人物の言葉も混じっているような気がした。

 恐らく、応援として駆けつけてくれた霊が、ルナの呪いになってしまった霊たちの関係者で、説得に成功したのだろう。


 ルナから多くの光の玉が出て、天に昇っていくのが見えた。

 ルナに取り付いていた霊たちが昇天しているのだろう。

 とても幻想的な光景だ。


 僕はそれを見て、柄にもなく祈った。

 ――どうか彼らが、来世では幸せに過ごせますように。


 ……僕にもまだそんな心が残っていたんだな……

 自分でも驚いてしまった。

 僕が何に祈っているのか、自分でもわからなかったけど。


 しばらくするとルナは、彼女を包んでいた光が消え、僕が最初に会った時の小さなシーフの姿に戻って、力なく落下していった。


 僕は風の力を使ってどうにかルナの落下速度を落とし、僕の両手で受け止めた。


 ……のだが、受け止めきれずにずっこけてしまった。


 ……最後の最後で締まらない奴だな。僕は。


 で、ルナを観察すると、さっきまで感じていた禍々しい気配はもはや感じられず、僕の知っているルナの気配に戻ったのがわかった。

 どうやら成功したようだ。


 とにかく移動しようとして周りを見ると、合体を解いたみーむがそばにいた。

 いつの間に?

『いや、邪魔しちゃ悪いかな、と思って、キミがルナを受け止める寸前に』

 なんでだよ!!!

 と思ったが、口に出さなかった。

 疲れすぎて、もはや突っ込む気力もなかったから……


 ルナは眠っている。

 どうやら気を失ってしまったようだ。

 僕はルナの手当てをして、目を覚ますのを待っていた。

 なんだかルナと最初に会った時とどことなく状況が似ているな、と思った。


 そんなことを思っていたら、ルナがいきなり目を覚ました。僕とばっちり目が合う。


 僕はルナに話しかける。

「起きた?」

「……ここはどこ? 天界?」


 ……こんなところまで一緒かよ!

 僕は思わず吹き出してしまった。


 ルナは一瞬きょとんとした後、状況を思い出したのか突然泣き出して、僕に抱きついてきた。


「お、おい!」

「……う、うええええん、良かった、本当に良かったあ……ぼく、彩人くんに何かあったらどうしようかと……生きててよかったあ……彩人くん、ぼくを助けてくれて、本当に、ありがとう、うわあああああああん!」

 ルナが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら僕に言う。

 僕はルナの頭をなでて、慰めてあげた。慰めになっているかはともかく。


 これからも、僕の旅は続く。

 僕はルナのために、この世界の人たちを幸せにしたい。そう思ったから。

 そのためにはやはり、神ルアシスを倒すことも必要になってくる。


 それは、困難な道のりになるだろう。

 それでもルナがこの世にいるなら、いてくれるなら、

 僕は大丈夫。


 そんな気がした。

みーむ「ご愛読ありがとうございました。次回作にご期待――」

彩人「まだ続くから!」


お読みいただきありがとうございます。

明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。

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