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第27話 覚悟

「呪い?」


 僕はコルニスにそう聞き返した。


「私のボスから聞いた話なんだけど、“ご神体”に呪いが蓄積されて限界を迎えているらしい。私は呪いを解放する役割を言い渡されてここに来た」

「解放できるの?」

「わからない。私は言われたままに来ただけだから。でも、世界を維持するために必要だと言ってた」


 コルニスのボスとやらは凄く胡散臭いが……僕はもしかしてとんでもないことをしてしまったのではないか? という考えが頭をよぎる。


「方法は知らされなかったの?」

「私は知らない。詳しい人が行くから、そこまでついて行ってほしいと言われただけ。でも、その人は恐らくさっきの崩落に巻き込まれて……」

 死んでしまったと。

「その人って、ひょっとして君にとって親しい人だったとか……?」

「……大丈夫。そんなに親しくなかったし、うるさかったから。消えてくれて清々してる」

 ……それは大丈夫なのか? その人が可哀想な気がするが……


 あ!


「……そういえばさっき君は僕の血を吸ったけど、ひょっとして僕はヴァンパイアになっちゃった……?」

「……? なんで? 私がヴァンパイアにしたいと思わないとならないよ? してほしかった?」

「いや、遠慮しておくよ」

 とりあえず僕はヴァンパイアにはなっていないらしい。良かった。次からは慎重に動こう。

 僕がそう思って安堵の息を吐いていると……


「! 危ない!!」


 コルニスがそう言って僕を突き飛ばした。


 その一瞬後、僕が一瞬前までいた場所に光の柱が落ち、クレーターができていた。

 助かった……と思ったのも一瞬のこと、コルニスは!? と思って恐る恐るあたりを見回して見ると……


 コルニスはボロボロになりながらも、なんとか立っていた。


「あ、ありがとう……ご主人様に血をもらっていなかったら、私、死んでいた……」

 この世界のヴァンパイアが何で死ぬのかは知らないが、元の世界の知識に照らし合わせるに、神様の攻撃で心臓ごと木っ端微塵にされればさすがに死ぬのだろう。もちろん元の世界にはヴァンパイアなんていなかったが。

 ……これ、大事なことだよね? ちゃんと聞いておくべきだった!


 だが、今は聞いている暇はない。


 僕達はルアシスの攻撃を避けるのに精一杯だからだ。


 もちろん、ルアシスの観察は怠っていない。

 ルアシスの目は光っていて、美しく澄んでいながら、奥底が憎悪でどす黒く濁っているような、とても不思議な目をしていた。


『やっぱり……ルアシスが悪い“気”の発生源になっている……』

 みーむがそう呟く。僕も同意見だ。

 そして、大地が汚染され、次々に腐り落ちていった。早く仕留めないと取返しがつかないのは明白だった。あるいはもう手遅れかもしれない……


『アノトキ、アイツノセイデ、オレハ……』

『ワタシト、ワタシノダイジナヒトガシンダ。ユルセナイ』

『ナンノツミモナイ ヒトタチノ ギセイデ ナリタツ ヨノナカナド、ホロンデシマエ』

『ミンナ、シンデシマエバ、イインダ!』


 ルアシスの方からは、様々な人達の怨嗟の声が、時に大きく、くぐもった声で、聞こえてきた。

 おぞましさが全身を襲う。


 それにしても僕達は、あれに挑まないといけないのか……いけるのか?


『やるしかない。それに……事前にルナの呪いを解くためにいろいろ勉強したんでしょ? それが有効だと思うしかない』

 そう、みーむが言う通り、ルナの呪いの解除は一筋縄ではいかなさそうだったので、図書館で調べたり、専門家に尋ねて修行するなど、いろいろ頑張ったのだ。

 まさか、いきなりラスボスと戦うことになるのは想定外だったが、やるしかない。幸い、コルニスという新戦力も手に入れたことだし。


 さて、どうするか。

 コルニスの力がどれくらいあるのは不明だが、ここはコルニスに敵を引き付けてもらい、僕がとどめを刺すのが常道か?

『ボクもそれがいいと思う。というか、それしかないだろうね』

 というみーむのお墨付き? を得たので、早速実行することにする。


「コルニス、しばらくルアシスの注意を引き付けることはできるか!?」

 僕はコルニスに問いかける。

「……三分ならなんとか持つと思う」

 どこかの特撮ヒーローみたいなセリフが出てきた。

「わかった。それで十分だ。よろしく頼む」

「わかった! 私、ご主人様のために、頑張る」

「死なないようにね!」

「わかった。ご主人様の命令は絶対」

 ……ご主人様という言い方はどうにかならないのだろうか? 今はそんな場合じゃないので言わないが、後で直してもらおう。


 僕はコルニスが攻撃している間、ルアシスの隙を窺っていた。

 実は、ルナの呪いを解く過程で必要になると思い、みーむと協力して攻撃手段を編み出しておいた。なので、ルアシスの隙をついてその攻撃を放つことになっていた。

 ただ、ここでいきなりルアシスと対峙することになるとは思っていなかったため、威力が足りるかどうかは未知数だ。通用しないかもしれない。そうなれば撤退するしかない。


 ……あれ? 今撤退した方が良くないか?

 と一瞬思ったが、どちらにしろルアシスがここで逃がしてくれるとは思えない。

 やはり、僕の攻撃で一瞬隙を作ってからコルニスを連れて逃げるのがベストだろう。

 それに、通じなかったとしても、それがどの程度通用したかが分かれば次回に生かせる。

 まあ、それで死んでしまっては元も子もないので、引き際は大切だが。


 僕はそんなことを考えながら、力を溜めつつ、ルアシスの隙を窺っていた。


 しばらくして……


 攻撃のチャンスが訪れた。


 僕は火、土、風、草、水、氷、光の攻撃をルアシスに向かって次々に放つ。

 当然、コルニスに攻撃が当たらないように配慮はしてある。

 具体的には、僕とみーむの合体を一時的に解いて、みーむがコルニスを突き飛ばした。その直後に僕がルアシスに攻撃を放つという具合である。……コルニスには後で謝らないとな……


 ただ、それだけでルアシスにとどめを刺せる訳はない。今のはルアシスに攻撃すると見せかけて、その場に縛り付けるのが目的なのだ。実際に、土と草と氷で、一時的にではあるがルアシスを地面に縛り付けることに成功している。

 ルアシスは僕の拘束からはすぐに逃れてしまうが、一瞬の隙ができた。

 その隙にコルニスを安全な場所に着地させたみーむが、僕と合体する。


 そして、ルアシスに向かって極大の分解の力を放つのだ。

 もちろん、そのままでは通用しないだろう。元になった攻撃を僕が防いでいることから、ルアシスに防げないとは到底思えないからだ。

 そこで、みーむは周囲から魔力を取り込む方法を僕に伝授してくれた。

 これがなかなか難しく、僕もまだ完全に習得できている訳ではないが、みーむがサポートしてくれるのでとりあえずは何とかなる。


 こうしてかき集めた魔力で僕はルアシスの心臓へ向かって分解の力を放った。

 かき集めた魔力で極限まで威力を高めた分解の力なら、もしかしたらルアシス相手でも通用するかもしれないと思ったからだ。今放てる最高の一撃である。


 さて、どうなるか――

 ――いや、ここで確実に倒すつもりじゃなければ、できるものもできなくなってしまう。


 ――ここで、倒す。


 僕がそう覚悟を決めて、渾身の一撃を放とうとした、その時だった。


『ダメ、やめて、ワタシハセカいをこわシタクナい! ワタしを、コワして、ケして! タスケ、て……』


 ルアシスの方からそんな声が聞こえてきたのは。


 声はだいぶ変質していたが、この感覚は……ルナ!?

 声は全く違うのに、なぜか直感的にそう思った。

 そしてどういうわけか、これは紛れもなく、本人の声だと思った。思ってしまった。


 そのせいで僕の手はぶれ……


 攻撃があらぬ方へ飛んでいってしまう。


 その攻撃は射線上にあった山を消し飛ばし、跡形もなくしてしまった。


 今僕はとんでもないことをしてしまった。これで僕の魔力はほぼ空になってしまった上、山を消し飛ばしてしまったのである。


 いつもなら、その事実に茫然として顔を青くしている所だが、今はその余裕はなかった。


 目の前の人物がルナだと思ってしまったからだ。


 僕はルアシスを倒す覚悟を決めたはずだった。

 なのに、ここに来て迷ってしまった。

 どうしてだろう。これがルアシスなのかルナなのか迷ってしまったからか?

 それとも……


『逃げるよ!』

 みーむがそう言って気づいた。

 そうだ、今はそんなことを考えている場合じゃない。


 僕は急いでコルニスを回収し、物陰に身を隠した。

 念のため気配を遮断しておく。


 で、僕はみーむと相談していた。

「あれは……ルナだったのか?」

「間違いないと思う。ボクもルナと同じ気配を感じた」

 やっぱりか……

「ただ、今のルアシスは様々な怨嗟や悪意が凝縮した呪いにかかった状態だよね?」

「物凄い膨大な数の幽霊に取りつかれている的な?」

「……まあ、似たようなものかな。それで、ルナもその中に取り込まれてしまったと考えられるんだ」

 なるほど。あれ? でも……


「それじゃルナは幽霊になったということ? ルナって死んだの?」

「こうは考えられないかな? ルナの本体とルアシスは連動していて、同じ呪いがかかっていて、それに抵抗したルナの意識がルアシスに現れたとか……」

 苦しいな……

「それとか、ルナはもう死んでいて、ルアシスの本体に乗り移って世界の崩壊を食い止めるために頑張っているとか……」

 う~ん……


 僕とみーむがそうやって話し合っていると、

「ねえ、何の話をしてるの? ルナって誰?」

 コルニスがそう聞いてきた。

 そういえばまだ話してなかったな……


 なので、僕はコルニスにルナの話をした。

 すると……


「ご主人様の好きな娘の話? 私を助けたのはそのついでなの? そうなんだ」

 な……


 コルニスは頬を膨らませて拗ねてしまった。

 いや、それよりも。


 僕が、ルナを?

 いや、まさか……


 ……ん?

 僕はふと気づいてコルニスに問いかける。

「ねえ、あの“ご神体”って本当にルアシスなの?」

「そう聞いていたけど……あのボスの言う事だから、もしかしたら嘘をついていたのもしれない」


 ……そういうことか!


 “ご神体”の正体はルナの本体で、ルアシスはコルニス達にルナの本体を始末させようとしていたんだ! あるいはルナを使ってコロニス達を消そうとしていたのかもしれない。


 ということは“ご神体”はルナだったんだ!

 ……ルナって一体何者なんだろう?


「神と同格の存在? ルアシスの関係者なのか?」

 みーむがそう推測するが、わからないようだ。

 僕の考えだと、ルナが関係者だとすると、ルナはルアシスと元は同じ世界の出身で同じ力を持っていたが、ルアシスの暴走を止められず弱体化したとか? ルアシスは私が止める! 的な?

「……よくそんなことが思いつくね。でもそうだとするといろいろ辻褄が合うけど」

 まあ、これは僕が元の世界で読んでた漫画や小説によくある展開だからね。

 他のパターンとしては……何があったかな?


 ……とにかく、ルアシスだと思っていた人物はルナだ。間違いない。

 問題はこれからどうするか、という話だが……


 どうしたらいい?


 そんなことを考えていた時だった。

「危ない!!!」


 突然みーむがそう叫んだかと思ったら僕を突き飛ばしてきて……

 次の瞬間、僕がいた場所がクレーターになっていた。


 くそ、もう見つかったのか!

 なんて思っている暇もなく、ルナは僕の方に向けて再び攻撃を放ってきた。


 これを食らえば僕は間違いなく死ぬ。

 死にたくなければ反撃しなければならない。

 そうわかっているのに、僕はまだ迷っていた。

 僕はルナを倒せるのか、と。


 ルナは本人の意思にかかわらず、世界を滅ぼそうとしている。

 そして、僕を殺そうとしている。

 ルナの呪いを解く方法は考えてきたが、まさかルナがここまで力を持っているとは思わなかった。とんでもない誤算である。

 こうなったら呪いを解くなんて悠長なことを言っている場合じゃない。ここで倒しておかないと僕は死んでしまうし、そうなればこの世界は恐らく滅ぶか、大きな被害が出てしまうだろう。

 だからここでとどめを刺さなければいけない。

 だけど……


 本当にそれでいいのだろうか?


 僕はここに来る前に何を誓った?


 ……ルナを連れ戻すと誓ったんだ。


 ルナは言っていた。

 私を殺して、と。

 そして僕は言った。

 わかった、と。

 ルナの事情はわかった。でも、僕は助ける。そう、決めたんだ。


 確かにここで助けても、ルナはまた暴走するかもしれないし、そうしたら今度こそ世界は滅んでしまうかもしれない。


 でもそれ以上に、ルナにもう会えないのは寂しい。

 例えそれで世界が滅ぶとしてもルナを連れ戻したい。そう思ったんだ。

 ……どうしてだろう。

 でも、その気持ちをなかったことにしてはいけない。そう思った。


 だから僕は当初決めた通り動く。そう決めた。


 そう決めたら、僕は何だか気持ちが楽になった。

 後は、やることをやるだけだ。


 僕は、そう思って小さく笑みを浮かべた。

みーむ「……いや、何やってんの、本編のボクたち」

彩人「どうしたの?」

みーむ「本編のボクたちはルアシスとルナの関係についてあれこれ考えていたけど、すべて的外れだよね? 第25話で一旦真相に近づいたのに……」

彩人「まあ、ルナとルアシスが同一人物だという説は否定しちゃったもんね……」

みーむ「まるで、その結論には至らせないぞという、何者かの意思が働いているようだ!」

彩人「何者かって……」

みーむ「そしてそのせいで、同じ人物なのに、呼び方がルアシスからルナに変わったしな」

彩人「そうだね……」

みーむ「なんでそんなややこしいことしてるんだよ! センスないな!」

彩人「誰に言ってるの!? だいたい想像つくけど!」

みーむ「それは――」

彩人「ストップ! それ以上言うな!」


お読みいただきありがとうございます。

明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。

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