第26話 コルニス
「はあ、はあ」
僕はどうにか崩壊した迷宮から脱出していた。
僕は落ちてきた瓦礫を分解した時に、これを使って脱出できるかもしれないと思いついた。
そこで、僕の真上から地上まで分解の力を使って穴をあけ、炎と風で壁を作った後、自分から地上までの空間を分解して、地上までたどり着いたのだった。
ただ、地上までたどり着いたはいいものの、自分の真下は崩壊しているので、僕は慌てて風の力で浮き上がり、地面に蔦を生やして自分を安全圏まで投げ飛ばした。そして風と土と蔦の力を組み合わせてどうにか着地したという訳である。
ここまでかなり魔力を使ったので、僕は今、息が上がっている状態だ。
そんな状態で、目の前に巨大なクレーターができる様子を見ていた。
迷宮だったところが崩壊して、地面が陥没しているのだ。
自分が巻き込まれていたらと思ってぞっとしたが、直後に自分には未だ危機が去っていないことに気づいて別の意味でぞっとする。
見上げれば、目を光らせ、浮き上がっているルアシス(迷宮の奥で眠っていた少女をこう呼ぶことにした)がいた。
とてつもなく美しい少女が目を光らせて浮き上がっている様は異様としか言いようがないが、少女の発するオーラのせいかそれもより一層美しいと思ってしまい、そしてもはや美しいを通り越しておぞましい光景だった。
……僕は一体何を言っているのだろう。目の前の光景が異様過ぎて、頭が混乱しているようだ。
一旦落ち着こう。考えを整理……
している暇はなかった。
ルアシスの目の輝きが一瞬強まったと思ったら、手を僕の方に突き出してきて……
やばい!
僕は咄嗟に回避したので助かったが、一瞬前まで僕がいた場所がクレーターになっていた。
で、その余波で迷宮だった所の瓦礫が綺麗さっぱりなくなって、大きな穴になっていた。
よ、余波でこの威力……
しかも顔色一つ変えずに……
ルアシスはどういう訳か知らないが、まだ全然本気を出していないようなのだ。
てか本当に神なら、この世界を消滅させるなんて造作もないんじゃないか? だとしたら僕に勝ち目はないことになるのだが……
いや、今まで世界を消滅させなかったことには何か理由があるはずだ。神だってせっかく今まで遊んできた世界がなくなったら困るんじゃないか? たぶん。そう思わなきゃやってられない。
しかしどうしたらいいんだ? せめて何か情報が欲しい。そう思って周りを見渡していた時だった。
「う、う~ん……」
どこからかうめき声が聞こえてきた。
声のする方を探してみると、さっきまで迷宮があった穴の方から声が聞こえてくるのが分かった。
……驚きだ。生存者がいるとは。
迷宮は跡形も無く消滅していたので生存者は絶望的だと思っていたのだ。……自分は奇跡的に助かったけど。
宙に浮くルアシスに狙い撃ちにされる危険性はあったが、まさか放置する訳にもいかなかったので声のする方に行ってみることにした。
途中分からなくなった時もあったが、そのたびに「う~ん、誰か……助けて……」みたいな声が聞こえてくるので、それを頼りに進んだ。
みーむもアドバイスしてくれるなどして、助けてくれたし、風や炎、土の力を使ってどうにかルアシスから身を隠すことができたからなのか、こちらに攻撃してくることはなくなった。もっとも、ルアシスが攻撃してこなくなったのは別の要因かもしれないので、全く油断はできない。
それで、土を変形させたり、足場となる蔦を生やしたりしてどうにか穴の底までたどり着いた時、ようやく声の主を見つけることができた。
それは少女のようであったが、体のあちこちがボロボロで、黒づくめの服が一部赤くなっていたりと、とにかく酷い有様だった。生きているのが不思議なほどだ。
……ていうかこれ、さっき迷宮で話していた黒づくめじゃん! 生きてたのか! しかも女だったの? その可能性も考えてたけどさ!
いや、まだ女だと決まった訳じゃない。一応聞いてみよう。
「口はきけるか?」
「あ、あなたは、さっきの……」
「一つ聞きたいことがある。お前は女なのか?」
「……? そうだけど?」
……やはりそうらしい。
いや、一応言っておくけど、男だったら見捨てて女だったら助けようとか、そんなことは考えてないよ? ただ、さっき黒づくめの男とか言ったのが間違っているかどうか確かめたかっただけだ。間違っていた訳だが。……僕は誰に言い訳しているのだろう。
『それ今聞くこと!? そんなに重要なことなの!?』
みーむにも突っ込まれるしな。
「お願い、助けて……なんでもするから……さっきはごめんなさい……謝る、から、助けて……私はまだ、死ぬわけにはいかないの……」
……何か死ぬわけにいかない理由でもあるのだろうか?
少し興味が湧いてきたので聞いてみることにした。
「君はなぜ生きている? どうしてそこまでして生きたい? 話はそれを聞いてからだ」
「わ、私はヴァンパイアの末裔で、家族を殺されてしまって、家族は私に生きてと言ったけど、どうしても復讐がしたくて、それで……」
少女がたどたどしく言葉を紡いでいく。
それにしてもヴァンパイアか。この世界にいるんだな。どうやって殺したのか気になるけど、今聞くことじゃないな。
あ、でもこれは重要だから聞いておこう。
「見たところ勝手に回復する力があるようだけど、しばらくしたら起き上がれるんじゃないの?」
「私、力が弱まってて、こうして生きているのが精一杯なの……しばらくしたら死んじゃう……お願い……助けて……」
そう言われると助けたくなるけど……助けた途端に裏切られないだろうか? そうなったらシャレにならない。口約束じゃ不安だし……
僕が考えていると、みーむが思念を送ってきた。
『あやとはやさしいな。自分を害そうとした人を助けようとするなんて』
いや、これだけ丈夫なら戦力として使えるんじゃないかなと思って……
『そういうことにしておくよ。まあボクはキミのそういう青臭いところは好きだから、協力してあげるよ』
うるさいなあ……すみませんお願いします。
『わかった。とりあえず裏切らないという保証が欲しいんだね。それならその娘の精霊を脅し……ゲフンゲフン、交渉して従わせることはできるかも』
なるほどねえ……
『あれ、今のスルーなの?』
みーむが何のことを言っているのかは知らないけど、お願いしようかな。
『わかった。……一応、隠蔽を強化しといて。ボクはしばらく力を貸せなくなるから』
みーむはそう言った後、気配を断った。
僕は土の力で自分たちがいるあたりを覆い、風の力でにおいを嗅ぎつけられないようにするなど、とにかくこの場所を全力で隠蔽するよう努めた。
みーむが他の精霊と交渉するために、魔力が僕に流れて来なくなったため、僕の魔力だけで頑張らなくてはならなくなった。なかなかしんどい。魔力がガリガリ削られていくのがわかる。
さっき僕が迷宮で無双していたのは、みーむの魔力があってのことだったのだ。少しはやったけど、もっと自分だけで戦えるようにならなくてはと思った。
みーむ! 早く戻ってきてくれ!
しばらくして、みーむが猫の姿で僕の前に現れた。
どうだった?
「交渉はうまくいったよ。ボクが圧倒的な実力で脅し……ガフンゴホン、お願いしたら快く受け入れてくれたよ」
そうか、それは良かった。
そうこうしているうちに少女がだんだん弱って今にも死にそうになっている。この世界のヴァンパイアがこのまま死ぬのはわからなかったけど、放っておくのはまずい気がする。
なので、僕はみーむと合体して、少女に回復の力をかけた。
少女はそれで幾分か回復したようだったが、
「ごめんなさい、こんなことを言える立場じゃないのはわかっているけど……血を、くれないかな? このままでも動けるけど、私、戦えない……」
別に戦う必要はないと思ったが、少女がどうしてもと言うので、「……ちょっとだけなら」と言って吸わせてあげることにした。
首筋を噛まれる感覚は慣れないので一瞬ぞくっとしたが、なんとか耐えた。
一応僕が普通に動ける程度にはしてくれたようで、血を吸われた後にくらっとするような感覚は特になかった。
少女が血を吸った後、
「ごちそうさま。ありがとう、ご主人様」
と言った時、僕はなぜか別の意味でぞっとしたが。
なお、みーむは、少女が吸血を始める直前に合体を解いて猫の姿に戻っていた。
ちょっとだけいらっとした。……いや、別にいいんだけどね!
さて、少女からはいろいろ聞きたいことがあるけど、あまり時間がないので必要なことだけ聞いてこう。まずは……
「えっと、君の名前は何ていうの? 僕は彩人で、この猫はみーむっていうんだけど」
「私の名前はコルニス。ヴァンパイアで家族を殺されたって話は言った通りで、その復讐を手伝ってくれるって言う人がいたから、ついていって、何でも命令聞いてたら、ここに行けって言われて……ごめんなさい」
なんか身の上話までしてくれた。助かるけど。
「えっと、僕に敵対しないって約束してくれるなら……」
「約束する。……あ、でも……」
コルニスが何か口ごもったので、何を言いたいのかだいたい察する。
「復讐したいなら協力するよ?」
「ほんと? どうして?」
「実は僕、とある事情で神を倒そうとしているんだけど、それもある意味復讐なんだよね。なんとなく君の気持ちも分かるからさ」
「そうなんだ……」
それになんとなく、コルニスの家族の死にルアシスが関わっているような気がするんだよね……違うかもしれないけど。
ふとコルニスの方を見ると、「神……倒す? 倒せる?」と小声で呟いていた。
そうだ、もう一つ聞いておきたいことがあったんだ。知らないかもしれないけど一応聞いておこう。
「そういえば、今のルアシスがどうなっているのか知ってる?」
それを聞いたコルニスは一瞬はっとした表情になってから、答える。
「ええと、ルアシス様? は呪いに侵されているの。この世の怨嗟や悪意が凝縮した化け物が憑依する、呪いに」
みーむ「ねえ、あやと。なんで一回真相に近づいたのに自分で否定したの?」
彩人「何の話?」
みーむ「前回、彩人はルアシスの正体はルナじゃないかって言ってたじゃないか」
彩人「なんで前回の話をするの? ややこしくなるじゃん!」
みーむ「いや、本当は前回の後書きで突っ込もうと思ったけど忘れてた」
彩人「なんじゃそりゃ! ……だってまさか自分を倒してほしいなんて思わないじゃん」
みーむ「割と定番な気がするけどな……あれ? なんか今、もう少し彩人にはルナの正体を知らないまま話を進めたいという天の声が聞こえてきたような気がするぞ」
彩人「ぶっちゃけた! 僕も思ったけど言わないでおこうと思ったのに!」
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