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第25話 アシルース迷宮

 僕は迷宮を進んでいた。


 僕は迷宮にたどり着く前にいろんなモンスターと出合ったおかげでそれなりに戦えるようになっていた。


 あ、前方にモンスターがいた。即座に焼く。それだけで消滅した。そういえば今の、何のモンスターだったっけ?


 他にも、水に沈める、土に埋める、風で吹き飛ばす、光で貫く、分解するなどしてモンスターを次々に屠っていった。もはや迷宮って何? めちゃくちゃである。


 こうなったら迷宮ごと破壊してしまおうかと一瞬考えてやめた。それでルナの本体が消滅してしまったら元も子もない。当たり前だ。何を考えていたんだろう。


 あ、ドラゴンみたいなモンスターを発見。なんかボスっぽい。


『よくぞここまでたどり着いた。褒めてやろう。だが貴様らもここまでだ。なぜなら我、ドラゴニルス=フォン=ヴァンサイズ……』


 なんかごちゃごちゃ言ってたが、とりあえず剣でぶっ刺す。


『ちょ、おま……せっかくの口上を。人の話が聞けんのか。若造、よく聞け、我は……』


 うるさいので、燃やして、光で貫いて、分解して、消滅させた。

 そうしたら聞こえなくなった。


「よし、じゃあ次に行こうか」


 僕がみーむに話しかけると、合体を解いたみーむがジト目でこちらを見てくる。

 あれ? 今のまずかった?


『いや、別に問題はないけど……なんかこう、ないの?』


 そんなこと言われてもなあ……


 もうちょっとゲームっぽくしろってことか?これはゲームじゃないし、目的があるのでさっさと進む。でも残骸がわずかに残っているから、使える物はもらっておいた。と言っても鱗がわずかに落ちていただけだが、何かには使えるだろう。


 さらに進むとゴーレムみたいなやつと、全身に騎士の甲冑をまとっていて夜の屋敷で勝手に動き出しそうなやつに出くわした。

 最奥のガーディアンって感じだ。


 ゴーレムが大きな土塊を投げてきたり、甲冑が剣から光の攻撃を放ってきて危うく貫かれそうになったりして結構危なかったけど、どうにか撃破した。


 で、ガーディアン? がいた広間を抜けるとそこはまた大きな広間になっていて、その中央に透明な棺が置いてあった。


 透明な棺の中には少女が眠っていた。

 見た目は十七か十八歳くらい……だいたい僕と同じくらいだろうか? 絹糸のような銀色の髪を伸ばしているのが特徴で、肌も絹のように滑らかである。まるで彫刻のごとく、完璧過ぎるくらい整った美少女。白くて裾の長い、巫女か神官にも見える、不思議なデザインのドレスを纏っているが、これも彼女の美しさを絶妙に引き立てていた。


 静謐な空間で眠る美しい少女、まさに絵のような、いや絵画ではとても描き表せないほど、神秘的な光景が、そこにあった。


 つまり僕は目の前で眠っている少女に見惚れるのと同時に、なぜか猛烈な悪寒に襲われていた。


 ――目の前の少女は本当にルナの本体なのだろうか? これはもっと、おぞましい何かのような気がするのだけど……


 僕の頭の中はそんな疑問で埋め尽くされていた。

 ここより奥に通じる道は見当たらないし、ルナが言っていた本体のある場所であることに間違いはないはずなのだが、どうにも違和感が拭えなかった。

まるで憎むべき敵を目の前にしているかのような……


 その疑問は、突然背後から聞こえてきた声によってかき消されることになる。

「今までご苦労だった。ここでゆっくり眠るが良い」

 そう言って近づいてきたのは黒づくめの男たちの集団だった。


 それにしてもどこかで見たような恰好だな。何かの漫画だったような……。

 いや、それより目の前の男たちだ。男じゃないかもしれないけどそれはまあいい。

 それとなく目的を探ってみよう。


「へえ、ひょっとして目的は目の前にいるこの娘ですか」

「そうだ。知っての通り、この少女はルアシス様のご神体だ。我々が世界を救うにはそれが必要なのだ。それを今すぐ渡してもらえば苦しまずに眠らせてやろう」

「そうか」


 ――実は黒づくめの言葉を聞いて、僕は内心動揺していた。


 ルナを助けるために迷宮に潜って、やっと見つけたのが敵の親玉だったという事実。

 まさかルナの正体はルアシスだったのか? という考えが一瞬頭をよぎるが即座に否定する。だってルナはルアシスを倒すのに協力すると言っていた。もしそうだとしたら、ルナは僕たちを巻き込んで自らの身を滅ぼそうとしていることになる。いくらなんでもそれはありえないだろう。そんなことをする意味がわからない。


 じゃあルナの本体はどこにあるんだ? まさかそんなものは最初から存在しなくて、僕がルアシスを倒すように仕向けるためにそんな嘘を吐いた? 死ぬ間際にそんな嘘を吐くのか? 


 訳がわからない。僕は思考のループに陥っていた。


 いや、そんなことより今は目の前の敵だ。敵の目的がわからない以上、まずは話を聞いてみる必要がある。


 しかし、うっかりすると殺されてしまうかもしれないので、どうにか平静を装って「そうか」とだけ返事をした。取り繕えている自信はなかったが。


「さあ、今すぐそこから離れるのだ。できればご神体の方は無傷で押さえたいのでな。ここでむやみに争ってご神体が傷つくのは本意ではない」

「なるほど。でもそんなことを話してしまっていいのか?」

「問題ない。お前を排除する方法はいくらでもある」


 問題ないとか言ってる割には一瞬「しまった」という顔をしていたような気がするが……気のせいか?

 でもおかげでこっちは貴重な情報を得られた。つまり目の前にあるご神体とやらを攻撃すれば、少なくとも敵にとっては面白くない状況にはできるはずだ。そしてルアシスは、僕にとって憎い敵の親玉である。……ひょっとしてチャンスじゃないか?


 僕は解放隊からもらった『神滅ぼしの剣』を取り出し、ご神体とやらに向ける。

「動くな! 動くとこの剣がご神体に刺さるぞ!」

 僕、言ってることが完全に悪役のそれじゃん……

 それに対し、敵は余裕の表情で答える。

「ふ、やれるものならやってみればいい。やれるものならな!」

 言ったな! それなら遠慮なく。


 僕は『神滅ぼしの剣』を振り下ろし、透明な棺を突き抜けて“ご神体”の胸を貫いた。


 黒づくめが驚愕に目を見開き、「嘘だろ……」と呟いている。

 みーむも『え……』と呟いている。あれ? なんかまずいことした?

 あと、胸を貫かれた“ご神体”も「信じられない」という表情をしていたように見えたが、これは気のせいだろう。


「あ、ああ……そんなことが……貴様、正気か。そんなことをしたら、世界が……」

 黒づくめが何か言ってるが無視する。


 それよりみーむが気になることを言ってたな。

 僕、なんかまずいことをした?

『ええと、ここは少しは躊躇う場面じゃないの?』

 なんで?

『いや、普通ならそんな美しい少女を見たら守ってあげようとするんじゃ……あの娘、あやとの好みっぽいような気がしたんだけど……』

 それがどうかしたの?


『……いや、何でもない。でもなんか禍々しい“気”がしない?』

 確かにそれは僕も感じていたな。

 その時、黒い瘴気が少女の形をした“ご神体”の中に集まっていくような感じが……

 あれ、なんかこれ、まずくね?


 黒づくめの方を見ると「ああ、終わりだ……」と言って天を仰いでいる者、出口の方へ逃げ出す者など様々だが……


 次の瞬間、胸を貫かれたはずの“ご神体”がむっくりと起き上がって、あらぬ方向をぼんやりと眺めていた。と思ったら、


『セカイヲ、ジョウカスル』


 という、まるで少女の声を加工しまくって、闇を煮詰めたような、瘴気そのものと思える声が少女の形をした“ご神体”から響いてきた。

 ……それ、どういう声だよ! 自分でも突っ込みたくなるが、そうとしか表現できないから仕方がない。


 そして、“ご神体”の目が光って、宙に浮き……

 不気味だと思っていたら、突然地面が揺れて、迷宮が崩れだした。


『ま、まずい!』


 みーむが言うまでもなく、まずい状況だった。

 黒づくめの集団がどんどん瓦礫に押しつぶされて断末魔の悲鳴をあげる。

 僕もどうにか脱出しなければ……そう思うが、どうしたらいいのか思いつかない。

 僕はどうにか瓦礫から逃げ回ったが、ついに僕も瓦礫の直撃をくらってしまった。


 この日、突然起こった地震によってアシルース迷宮は全て瓦礫と化し、消滅した。

みーむ「あやとって、ルアシスが好みだってことは否定しなかったよね」

彩人「……わあ、やめろ! 敵に一瞬でも見惚れてしまったなんて記憶、一秒でも早く消し去りたいのに!」

みーむ「そこまでか……てかさ、敵ならさっさと刺しちゃえば良かったんじゃないの? 何で脅すような真似したの?」

彩人「……確かに!! なんでそんなことしたんだろ? ……いっぺんやってみたかったから?」

みーむ「そんなことしてる場合か! 結果は変わらないとはいえ!」

彩人「ご、ごめん……」


お読みいただきありがとうございます。

明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。

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