第24話 見送り
僕の前に一人の少女が立っていた。白いワンピースを身に纏い、綺麗な銀色の長い髪を揺らした彼女は、顔はよく見えないが儚い美しさがあるのが感じられた。
少女はこっちに気がつくと、ぱっと向きを変えて駆け寄り、僕に抱きついてきた。
そして僕の耳元で囁く。
「やっと会えたね。――――。もうずっと一緒だよ。もう離さない。絶対に。だからね、――――」
恐らく、男なら舞い上がらない人はいないシチュエーションである、と傍から見ていれば思うだろう。
しかし今の僕は困惑の方が勝っていた。
……お前は一体誰なんだよ。それからお前が言っている人は誰だよ。人違いだろ。どうするんだよ。
と思ったら、少女がぱっと頭を上げた。
やはり知らない顔だった。
僕はますます困惑を強める。
聞けない。今、僕に向かって満面の笑みを浮かべている少女に向かって「どちら様でしょうか?」なんて言えない……
それでもいつまでもこうしているのも居心地が悪いので、僕は意を決して口を開く。
「あの、すみません。ど……」
と言いかけたところで目が覚めた。夢だったとはいえ、あの見知らぬ少女は誰だったんだろう。妙に気になる。
まあ夢だからね。自分の願望が出てきてしまったのかもしれない。……願望なのか?
……てか、願望ならここでルナが出てこないとおかしくね? あんなことがあったばかりだし……なんでここで見知らぬ少女が出てくるんだよ! 呪い?
それにしても、あの少女は知らないけど、この夢は前にも見たような……?
これはもしやコピペ……じゃなかった、デジャヴ?
どうやら僕はまだ寝ぼけているらしい。
まあいいや。どうせ夢だし、すぐ忘れる。
……忘れた。
とりあえず状況を整理しよう。
昨日、ルナが僕の目の前で消えた。
それから僕は茫然として動けずにいた。
さすがに見かねたのかそこでみーむが現れて、みーむたちが結界を張った場所に行くよう僕を促した。ティアの天使の力の無力化がまだなのと、コラナとみーぶをどうするかを決めなきゃいけないからだとみーむは言う。僕は精神的なショックから立ち直れてはいなかったけれど、みーむの言う通りだと思ったので、僕とティア、コラナとみーぶはみーむの案内に従って指定された場所に行った。
そこでみーむはティアに問いかける。
「じゃあ今からキミを無力化するけど、キミはみんなを守るために戦いたいという意思はある? それによってこれからすることが変わるけど、キミの将来にかかわることだからよく考えて決めてほしい」
ティアは俯いて、少し考えていた。しばらくして、顔を上げて言った。
「私は……強くなりたい。今まで私の体が弱くて、身寄りもなかったから私は守られてばかりだったけど、守られてばかりはもう嫌だ。今度は守りたい。それにさっきはとんでもないことをしてしまった。私が、意志が弱かったから。だけど、今度は自分自身の弱さに負けないように、強くなりたいんだ!」
言葉は拙かったが、その言葉と目から固い意志があることがわかった。どうやら決意は本物のようだ。
対するみーむは、ティアの頭に手を乗せて言った。
「わかった。キミの意思を尊重する。少しじっとしててね」
みーむはそう言うと、どこから呼び寄せたのか他の精霊たちを呼びつけ、ティアを囲んで何やら念じだした。
これが数分続いた後、一瞬視界を光が埋め尽くし、視界が回復するとそこにティアが立っていた。
「元の恰好に戻ってるみたいだけど……何か変わったの?」
ティアがみーむに問いかける。
「足元を見てごらん」
みーむに言われて足元を見ると、熊のぬいぐるみみたいな生き物がいた。さっきまでティアが纏っていたクマのぬいぐるみっぽい衣装にどことなく似ている。これは……
「この子はティアと契約してくれる精霊だよ。ティアのことを気に入って一緒に戦いたいと言っているんだ。今は喋れないけど関係が進めば話せるようになるはずだよ。どうかな?」
みーむがティアに問いかける。
「この子は……」
「もともとティアが大事にしていた熊のぬいぐるみに宿っていた精霊で、ルアシスがこれを天使の力に利用したんだけど、僕達が呼びかけたらこうして姿を現してくれたんだ」
ティアの問いにみーむが答えるが、ティアはピンと来ていないようだった。というか……
「えっと……精霊って何?」
そう、ティアは肝心なことを教わっていなかったのだ。
みーむは僕に説明したようなことをティアに教えて、ティアはそれを素直に聞いていた。
そして話の合間にみーむは僕に「キミもこれくらい素直に聞いてくれたらねえ」みたいな視線を送っていた。
……
みーむが一通り話し終わった後ティアは「わかった。契約する。よろしくね」と言って熊の姿をした精霊を撫でた。
ティアが一通りなでた後、顔を上げて何か思い出したような表情をしてみーむに聞いた。
「そういえばこの子の名前は何ていうの?」
「実は名前はまだないんだよね。だからティアが名付けてよ。この子もそれを望んでるし」
「そっかーそうだね……」
ティアは少し考えた後、言った。
「じゃあ、私が熊のぬいぐるみに付けていた『まーく』はどうかな?」
「いいんじゃない? この子も喜んでいるよ」
「ほんと! じゃあこれからよろしくね、まーく!」
ティアはそう言って再びまーくを撫でまわした。
それにしてもティアは強いな。あんなことがあったら普通はしばらく動けなさそうなのに。まあ確かにあの後しばらくはショックでぼうぜんとしていたが、みーむが来ると泣きながらみーむを思う存分撫でまわしていたっけ。それでティアは幾分かすっきりした表情になっていた。その代わりみーむはぐったりしてたけど。
それを見て僕も思った。
そうだ、ここで落ち込んでいる場合じゃない。希望は残っているんだ。
ルナは言っていたじゃないか。アシルース迷宮に行けと。そこに本体がいると。
ルナがどういう存在かはわからないけどそれは後で問いただせばいいとして、まずはルナの救出だ。 ルナの本体はどうやら呪いにかかっているらしい。
解除するのは無理だとルナが言っていたが、逆にそれさえなんとかなればルナを助けることはできるというわけだ。
きっと困難だろうし、たくさんの人に迷惑をかけるだろうけど、僕は諦めない。このためなら僕はいくらでも頑張れるような気がする。
そう思ったら気が楽になった。そのために必要なことは何かを考えて一つ一つ実行していこう。まずやらなきゃいけないことは……
そうだ、コラナとみーぶをどこかへ送り届けなきゃいけないんだった。
ティアのこともあるし、とりあえず教会の人たちと合流することにした。無事かな……
コラナとみーぶに説明した後、僕はティア、コラナ、みーぶを教会の人たちのもとに連れて行くことにしたが、その前に精霊たちが作った結界を解除することになった。
「それじゃあバイバイだね。また会えるといいね、ってみんなが言ってるよ」
みーむは他の喋れない精霊たちの言葉をそう訳した。
ぬいぐるみのような精霊たちは僕達に向かって手を振っていた。一応僕も振り返した。
精霊たちを中心に眩い光が辺りを包み、次の瞬間、精霊たちは消えていた。同時にみーむたちが自由にルールを決められる世界の効果も消えたらしい。みーむがそう説明してくれた。
さて、どうしたものか。僕、教会の人々がどこにいるか知らない。みーむ、知ってる?
「ボクが知るわけないでしょ……てか彩人が合流しようって言うからてっきり知ってるものかと思ってたよ」
そうですよねー。
みーむがジト目でこちらを見ながら言う。
まずい。これからどうしよう。
と思っていたら突然物影から人がぬっ、と出てきた。
「私知ってるから案内する。ついてきて」
うわあ! びっくりした!!!
「……そんなにびっくりしなくてもいいのに」
い、いや、そんな現れ方したらびっくりするって……
今僕に話しかけているのは、カリーナとセリカを預ける時に会った、眠そうな目をした短い茶髪の少女である。
少し落ち着いた僕は、その少女に気になったことを聞いてみた。
「それで、なんでここがわかったの?」
「あの姉妹を送り届けた後、ルナたちの方が騒がしくなっていたから様子を見てこいって、姉さんが。人使いが荒い……」
この娘には姉がいるらしい。いや、今はそんなことはどうでもいいな。
「そ、そうか。まあ助かったよ。それじゃあ案内してくれるかな?」
「わかった」
「ありがとう」
こうして、僕達は少女の案内に従って進み、教会の人々との再会を果たした。
「ティア!」
「みんな!」
ティアと孤児院のメンバーとの感動の再会シーンである。ティアはいろんな人と抱き合って泣きながら再会を喜んでいた。
「心配したんだから! もうあんな無茶をしたら駄目だからね!」
「ごめんなさい、ありがとう!」
そんな声が聞こえてきた。
「それでこれからどうするんですか?」
僕は気になって手の空いているシスターに話しかけた。
「さっき『解放隊』の人たちと相談して、孤児院は移転することにしたの。神に目をつけられてしまった以上ここにいたら危険だからね。だけどこの村にいる人たちが心配だと言ったら、あの人が協力してくれると言ってくれて、お願いすることにしたの」
「そうなんだ」
シスターが相談していたのは『解放隊』(恐らくルナの友だち)に所属している黒髪の少女だった。年は僕と同じくらいで、どことなく気の強そうな印象を受ける。
その少女の話によると、村の人々の安心のためにも教会は必要で、解放隊を派遣して教会を維持するのだそうだ。
そこまで話したところで僕は話さなければならないことに気づいた。できるだけ話したくはなかったが、避けて通るわけにはいかなかった。
「ええとそれでルナは……」
そこまで言ったところで大人たちは何かを察したのか神妙な顔つきになったが、黙って話の続きを促してきたので、話を続けた。そしてルナの“遺言”も伝えた。
「そうか、ルナが……」
黒髪の少女が悲しそうな顔で呟いた。そばにいたシスターも同じ顔をしている。
「でも、僕は諦めてませんから。アシルース迷宮に行って、絶対にルナを助けますから」
僕は力強く言った、つもりだ。
僕がそう言ったら、それを聞いていた人たちの顔に希望が灯ったような気がした。
「それなら『神滅ぼしの剣』が必要ですね。こちらで用意するからここで休んでいてください」
「え? 用意してくれるの?」
僕は思わず素で聞いてしまった。
「ええ。その代わり絶対にルナを連れ戻してください。約束ですから」
「はい。必ず」
そう約束したところで、「みんな~ごはんだよー!」というリーザの元気な声が聞こえてきた。
そちらではリーザと宿のおばさんたちがごはんを用意してくれていた。
「あ、リーザも無事だったんだね」
「おかげさまで! 宿はなくなっちゃったけど、みんなは無事です! 私も『解放隊』の一員なので! 彩人君にもごはんあげますので、ルナちゃんを絶対に連れ戻してくださいね! 約束だよ?」
「わかった」
「それにしても、失った恋人を取り戻しに行くなんて……そして死闘の末に再会した二人は……きゃーー!」
僕はどこかへトリップしたリーザを放っておいて、おばさんたちに出してもらったごはんを黙って食べた。
辺りは既に暗くなっていた。そうか、もう夜だったんだなあ……
星が綺麗だ。ルナは今頃どうしているんだろう……
そんなことを考えたら切なくなってしまったので、眠ることにした。
そして僕は案内されたテントの中に入って眠りについたのだった。
……
そして朝である。なんでこの流れで謎の少女の夢を見たのだろうか?
とにかく僕は起きて、朝ごはんを食べた。
そこへリーザがやってきた。
「おはよう。『神滅ぼしの剣』とアシルース迷宮で必要な道具を揃えてきたよ」
早!!!!!
どこにあったか知らないけど、そんな大事な物がこの辺にあったとは考えづらいから絶対徹夜で取ってきたんだよね? 『解放隊』ってどんなブラック企業!?
でもまあ、ありがたく頂いておこう。
「ありがとう。それじゃあ準備ができたら行こうかな」
「あ、でも無茶はしないでね。何かあったら大事な彼女が悲しむから!」
忠告はありがたく頂いておく。……彼女? はスルーだ、スルー!
とりあえずその日はみーむと打ち合わせしたり、リーザからもらった文書で迷宮のことを調べたり、みーむと技の確認をしたりして過ごした。
そして次の日、僕は迷宮に向かって出発する。
「ありがとう! 絶対ルナお姉ちゃんを連れてきてねー! 約束だよ!」
というティアとミラ。
「兄ちゃん! 俺、王都で修行してぜってー強くなるから! だからそれまで絶対死ぬんじゃねーぞ!」
というカイト。
「お兄ちゃん、ありがとう! 頑張って!」
しばらくは孤児院にいて、『解放隊』が母を探してくれることになったコラナ。他にも、親しくなった人たちに見送られながら僕は旅立って行った。
こんなにも多くの人に見送ってもらえるという状況が、僕は嬉しかった。
みーむ「ボクは気づいてしまったんだ。本当の敵はルアシスじゃなかったことに」
彩人「わかった。その話は終わりね」
みーむ「ボクたちを不幸にしているのはそう、他の誰でもない、作者なんだ!」
彩人「ストップ! それ以上言うな! 手遅れな気がするけど!」
みーむ「これ以上の不幸を出さないためには、ルアシスを討ってもダメなんだ。作者を消さなきゃいけない」
彩人「だから止めて! 作者が消えたら僕たちの世界も止まっちゃうでしょ!」
みーむ「それでも、これ以上犠牲が出るよりましだ! というわけで覚悟しろ!」
彩人「やめて!! あれ? 今みーむが持っている剣って以前夢に出てきた聖剣? でもそれは夢の中の話……うわあ、とにかくやめろ!」
ぎゃあああああああああ!
彩人「うわあ、作者が剣の出した光に飲まれて……消えた!」
みーむ「ふう、世界は平和になったな」
彩人「なんてことしてくれるの! これで僕たちは……あれ? 消えてない?」
みーむ「どういうことだろう? ……ああそうか、他の作者に引き継いで続くんだな」
彩人「結局変わってないじゃん!」
みーむ「そうだね。よし……」
彩人「やめて!!!」
(残念ながら作者は変わっていません)
お読みいただきありがとうございます。
明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。




