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第23話 別れ

 そういうことだったのか。


 と私は思った。


 最近はどうも調子が悪いと思っていたんだ。

 よく転ぶし、力が思うように使えないし……


 どうもいやな予感がしていたけど、どうやら封印されていた私の本体が呪いに掛けられてしまったらしい。

 完全に油断していた。


 でももうどうしようもない。


 私の本体はダンジョンの奥に封印して誰にもたどり着けないようにしていたのだが、あれだけ年月が経っていれば突破する者が出るのも当然だった。もちろんダンジョンを突破されても私に触れられないように対策はしてあったのだが、それすらも突破されてしまったのかもしれない。だとすると、もうどうしようもない。


 それにしても何をされたのだろうか。本体への魔力の供給源を絶たれたとか、そういったところだろうか。

 要するに、私は時間をかけ過ぎたのだ。

 私が無力なばかりに……


 自分が情けなくて涙が出てきそうだったが、どうにか堪える。

 そうだ、泣いている場合じゃない。せめて今目の前にいる人にこれからどうすればいいか、考えて、伝えなければ。

「彩人くん、ぼくの頼みを聞いてほしいんだ」

 私は目の前にいる人、彩人に後を託すことにした。


「彩人くん、ぼくにはもう時間がないんだ……」

 彩人は信じたくないという顔をして固まっている。彩人は大事な仲間を失いたくないと思っているのだろう。私は卑怯だ。さっき彩人が私を庇った時、もうそんなことはしないでと言ったのに、それを言った自分がそれをしているのだから。


 それでも言わなきゃいけない。だから、私は言葉を続ける。

「だから頼む、ぼくの話をよく聞いて。君はもう知っているかもしれないけど、ぼくは分身体なんだ。本体はアシルース迷宮の奥深くに封印されているんだ。私の本体は厳重に封印されていたんだけど、もうすぐ私の本体の封印が解かれようとしていて、それで私の力が弱まっているみたい。たぶん私の本体には呪いがかかっているから、封印が解かれると私は自我をなくして世界を滅ぼしてしまうかもしれない。だからその前に私の本体を破壊してほしいんだ」

「え? え? どういうこと?」


 彩人は物凄く困惑している様子だ。無理もない。本当はもっと時間をかけて丁寧に説明したいところだけど時間がない。重要なことだけ説明するので精一杯だ。

 ……そういえば話の途中で私の一人称が変わっているけど、このまま行こう。


「ごめんね。わけがわからないと思うけど詳しく説明している時間はないんだ。だから大事なことだけ説明するね。アシルース迷宮だけど、さっき神の分身体まで案内してくれる小さい石を預けたでしょ? あれを手で握って念じればわかると思う。みーむは場所を知っているのかな? 困難な道のりだけど君たちならたどり着けると思う。それで『神滅ぼしの剣』を使えば私の本体を倒せると思うんだ。逆にそれじゃないと倒せない。『神滅ぼしの剣』はリーザに言えばある場所まで案内してくれると思うから、迷宮に行く前にリーザのもとを訪ねてほしい。こんな大変なことを頼んで、本当にごめん」


 彩人はそれを聞いて「え? ルナの正体って? それに神……? どういうこと……?」などと小さく独り言を言っていたけど、しばらくして「そうだ、そんなことより!」と言ってから私に聞いてきた。


「その本体? にかかっている呪いを解けばルナは助かるんじゃないの?」

「無理だよ。私にも気づけなかったこということはとても高度で複雑な術式であることは間違いないし。それを解除しようとしている間に私が世界を滅ぼしてしまうかもしれない。私の本体を壊してしまう方が確実なんだ」

「でも、それって……」

「頼む、時間がないんだ。お願い……」


 私の頬を雫が流れ落ちていく。泣かないって決めたのに……


 私はふと彩人のことを思い出していた。


 私がドジをしても見放さずに助けてくれた彩人。困っている人を見たら放っておけない彩人。


 ティアを助けようとしている時、大の大人たちに石を投げつけられている小さな姉妹を見て咄嗟に助けようとした彩人。こんなことをしている場合じゃないと思いつつ、私も本当は見捨てたくないと思っていたので少し安心したのも事実。同時に、すぐ動けなかった私はまだまだだとも思った。


 そしてボロボロになっても戦う彩人はかっこよかった。さすがにやり過ぎている感はあったので、脳天チョップして止めたが。


 この時、私は困っている人を助けると決めていたことを思い出した。

 だから、天使になったティアが猫を抱えた女の子を攻撃しそうになったのを止めた。勝算はなかったが、説得して女の子、コラナへの攻撃は止めることができた。その代わり、私の自我が消滅しそうになったのだが。


 そう、私の本体への呪いは着実に私を蝕んでいて、分身体であるルナの消滅と同時に私の意識も消滅してしまうであろうこともなんとなく分かってしまったのだ。だから彩人に私の討伐を頼んだわけで。


 そうだ。この場にはいない人に伝えておきたいことがあったんだ。大したことではないけど。


「彩人くん、リーザ達『ルアシス解放隊』の人たちに伝えておくれ。『今まですまなかった。私の分まで幸せになって』と。彩人くんもね」

「嫌だ。駄目だ。死なないで」

 彩人は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、いろいろな力を使って私を助けようとしていた。当然、効果はなかったけど。

「大丈夫だよ。君に大事にしてもらって、私は幸せだよ」

 私はそう言った。


 それにしても、私はなんで彩人のことばかり考えているのだろう。


 ――そうか、私は彩人のことを――


 既にルナの分身体は上半身がうっすらと残るのみになった。私に残された時間はいよいよ少なくなってきたらしい。

「彩人くん、どうやらお別れの時間がきたみたいだね……」

私は泣きじゃくる彩人に大事なことを伝える。


「お願い。私の本体を見つけて、私を、殺して……」


 彩人はいやいやという感じだが、小さい声で一言、

「わかった……」

 と言った。もう時間がないことを悟ったのだろう。今の私にはそれで十分だった。


 そして私は最後に、なるべく笑顔を作って、それでもたぶん泣いていただろう、一言、

「ありがとう」

 と言った。


 その言葉を最後にいよいよ私は言葉を発することはできなくなり、ルナの体が完全に消滅したことが分かった。

 それと同時に、私の意識は闇に落ちていった。

彩人「え……ルナ……?」


お読みいただきありがとうございます。

明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。

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