第22話 葛藤
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
現実世界に復帰したはいいけど、ティアをどうしたらいいのか全然見当がつかない!
どうしよう、ぼうっとしてたら死ぬ!
とりあえず自分で考えているだけではどうしようもないのでルナと話をすることにした。
「大丈夫?」
僕がルナに話しかけると、ルナの目が潤んで、僕に抱きついてきた。
「彩人くん!」
うぉあ! ちょ、ちょっとどうしたの!?
「彩人くん! 生きてて良かった! でももうあんなことしたらダメだからね!」
「う、うん……わかった」
どうやらルナはものすごく心配してくれていたようだ。
申し訳ないという気持ちと嬉しいという気持ちが入り混じったような気持ちになる。
あ、そうだ。こうしている場合じゃない! ルナからティアのことを聞きださなきゃ!
「ねえ、ティアが大事にしている物ってある?」
「え? 今なんでそれを聞くの?」
ルナが何かすごく気分が良かったのにそれに水を差されたような、自分がいるのになぜ他の女の話をするのか、みたいな顔をしていた。……いやいや、何を考えているんだ僕。それじゃまるでルナが僕に気があるみたいじゃないか恥ずかしいな。今はそんなことを考えている場合じゃないんだよ。
「ええとね、みーむがティアを元に戻す秘策があって、それに必要なんだって」
「秘策?」
「みーむは自分達が有利になる世界をつくることができるんだけど、そこに誘い込めばティアを無力化できるらしいんだ。問題はティアをそこに誘い込む方法なんだけど、最初はお菓子で釣ればいいってみーむが……」
「え、えぇ……」
ルナの顔を引きつっている。そりゃあそうだろう。これはいくらなんでもなあ……
「いくらなんでもそれはないだろうって言ったら、じゃあティアの好きなものを使って誘い込めばいいってみーむが言ってて……」
「それ、あんまり変わってないような気が……」
そうなんだよなあ……
でも他の方法を聞く前に現実世界に戻って来ちゃったからなあ……
「……他の方法はないの?」
それでもルナは一応考えてくれたらしい。少し間を開けてから聞いてきた。
「なんかそれっきりみーむは黙っちゃって……」
これは本当だ。繋がりは感じるから生きていることは分かるんだけど、現実世界に戻ったきり、みーむは何も言ってこなくなってしまった。
そして当然僕に代案が用意できるはずはなく、要するに手詰まりなのである。
こうした旨のことを伝えると、ルナは再び考え込んでしまった。
「ティアの大切にしているものか……何かあったかな……?」
ルナは考え込んでいる。
「いつも付けている花飾り……? それともいつも抱いていたクマのぬいぐるみかな……? それとも……?」
言われてみればそんなものがあったような……ていうかティアの大切にしているもの、結構あるな。
僕はふと上空を見上げる。ティアが相変わらず光の柱を僕達に向けて放っていた。
そう、僕達がこうして話している間もティアは攻撃を続けていた。僕はルナに話しかけると同時に光と分解の力を使って何とか攻撃を防いでいた。ティアの攻撃をものにしたのと、みーむたち精霊が力を貸してくれてるおかげでどうにかなっている状況だ。しかしそれも厳しく、僕の魔力か集中力が切れたら終わりだ。その前になんとかしなくてはならない。
そう思ってティアの方を見たのだが、ティアの様子がなんだかおかしい。
ルナに言われて気づいたのだが、確かにティアは頭に花飾りを付けているし、天使の衣装がどことなくクマのぬいぐるみに似ているような気がする。
いや、そんなことではなく。
ティアが動揺しているように見えるのだ。
ティアが本当にこんなことをしていいのか葛藤しているように見えるのだ。
『う、ううううあああああああああ!』
そう思ったら大音量でティアのうめき声が聞こえてきた。
『や、やめて! ルナお姉ちゃんを攻撃しないで! 村のみんなを攻撃しないで! こ、こんなことはしたくないのに……うわあああああああああああああ!』
そう言いながらティアは攻撃を続けていく。村の建物がどんどん消滅していく。今の攻撃で犠牲者はいたのだろうか。教会の人たちは無事なのだろうか……
ティアの言葉からするとどうやら僕の推測と言うか見て思ったことはだいたい合っているらしい。そうとわかっていてもどうにもできない自分がもどかしかった。
そう思っていた時だった。
一人の小さな女の子が走っているのが見えた。
女の子は猫を抱えて、涙目になりながら走っていた。
「お母さんどこー? ねえみんなはどこなの? ねえ答えてよ! ねえ、ねえ!」
女の子は泣いていた。
そしてティアは、その女の子に向けて光の柱を放とうとしていた。
僕は青ざめた。
とっさに女の子の方へ駆け出そうとするが、間に合わない。それ以前に今動くとルナを攻撃にさらしてしまうことになる。僕は女の子が光の柱に呑まれて消滅する光景を幻視して……
そうはならなかった。
ルナが飛び上がってティアに抱きついていた。
「ティアはえらいよ。天使にされたのにちゃんと抗っているんだから」
ルナは風の力を使って飛び上がって、上空にいるティアのもとまで行った。
そしてルナに周りから白い光がでていた。あれはおそらく精神を鎮める類の、一種の治癒の力だろう。僕も受けたことがあるからわかる。
とても神秘的な光景……といいたいところだけど、ルナが落ちないようにティアに必死にしがみついているように見える、いや間違いなくそうだろう、のが残念である。肝心なところで締まらないのがルナだった。
『う、ああ……ルナ、お姉ちゃん……』
それでも効果はあったようだ。ティアは明らかに自分の感情を取り戻しつつある。もう一押し……二押しくらいでいけそうだ。
「ティアは大変だったね。つらかったね。でも大丈夫。みんながついているから。元に戻す方法はわかるから。だから、おうちに帰ろう?」
こんな場面で大丈夫って言い切るとか、どこのヒーローだ、と思った。ルナかっこいい。
『で、でも……私のせいで大変なことに……』
「大丈夫。ティアのせいじゃないよ」
『私はみんなを守るために天使になったのに……』
「大丈夫。ぼくもみんなも強いからね。ティアが強くなるのは嬉しいけど、ティアが傷つくのは嫌なんだ。ぼくのわがままだけど」
『ルナお姉ちゃんは私にけがをしてほしくないの?』
「うん」
『……怒らない?』
「怒らないよ」
いや怒ってるだろ、とは言わなかった。当たり前だけど。
と、思ったら、ティアがいきなり泣き出した。
『うわあああああああああん!ルナお姉ちゃん、ごめんなさい!私が、私のせいで……」
途中でティアの声がくぐもったものから、元の人間らしい声に変わった。天使から人間に戻ったということだろうか。姿は変わってないけど。
それでも大音量であるのは変わらなかったので、少しうるさいと思ってしまった僕は一体……。
「大丈夫だよ。帰ろう」
「うん!」
そう言いながら、ルナとティアは落下していた。ティアがいつの間にか飛翔するのをやめていたからだ。
ルナはまだ気づいていなかったようで、このままだと大惨事になるのは見えていたので、僕が風と土の力を使って着地をサポートした。
ルナがそれに気づいて「ひゃっ!」と声を出した。……どこまでも締まらないな。そうだ、受け止めてあげなきゃ。
そう思って両手を出してルナを受け止めたが、同時にティアものしかかってきたので、僕は支えきれずにずっこけてしまい、二人の下敷きになってしまった。
……僕も締まらないな。
ルナとティアは立ち上がって、手をつないで歩いていた。
一方僕は猫を抱えた女の子のことが気になってそっちの方に駆け寄っていた。女の子は怖がってその場で立ち尽くしていたからだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
「ええと……あ! お母さんはどこか知りませんか?」
「知らないけど……でもあそこにいるルナって子と一緒に行けばわかるかもしれないよ」
「ほんと!?」
「……たぶんね。そういえば君の名前は何っていうの? 僕は彩人っていうんだけど」
「私はコラナっていうの。で、この子はみーぶっていうんだよ。可愛いでしょ」
「う、うん」
僕はみーぶって呼ばれた猫を見てみる。……ていうか猫? なんかみーむに似てるな……ひょっとしてみーむの兄弟か? 精霊って兄弟っているのか? おそらく精霊であることは間違いないだろう。
「この子はみーって鳴いたりぶーって鳴いたりするからみーぶっていうんだよ」
「へーそうなんだ」
ぶーって。みーむには変わった兄弟(?)がいるんだな。後でみーむに聞いてみよう。
と思っていたらみーむから思念が伝わってきた。
『おーい! どうやらティアを地上に降ろすことができたみたいだからこっちへ来ておくれ。僕が思念で案内するからルナとティアの引率を頼む』
そうだった!
ティアを無力化するためには離れたところで待ってるみーむ達のところに連れて行く必要があるんだった!
「コラナ、行くよ」
「うん」
僕はコラナの手を引いてルナたちのもとへと向かった。
ルナとティアは話をしていた。
「そうだ、これから行くところがあるんだけど」
「行くところ?」
「うん、天使の力を封じるために行く場所があるんだ」
「それやるとこの力が使えなくなる?」
「たぶんね……でもティアはもう人を怪我させたりしたくないでしょ?」
「うん」
「だからぼくは行った方がいいと思うんだ」
「じゃあ、行く」
「よし、行こう」
ティアはルナに対してやたらと素直だな。もしかしたらティアの一番大切なものはルナだったのかもしれない。ティアはとても嬉しそうな表情をしているから間違いないだろう。ルナと会えたのが嬉しいのかな?
「そうだ、彩人くんに案内を頼まなきゃ。おーい、彩人くん!」
「今行くー」
僕がルナに呼ばれてそっちに向かおうとしていた時だった。
『それは困るな』
そんな不気味な声がしたのは。
天使とルアシスを混ぜたような不気味な声だった。
この声はどこから聞こえてきたんだ?
いやそんなことを考えている場合じゃない。
ルナが危ない!
僕はなぜかそう思ってルナのもとへ急ごうとした。
しかし、間に合わなかった。
ティアの手から放たれた白い光が、ルナを飲み込んだ。
「ルナ!!!!!!!!!!!!」
僕は叫んでいた。
そしてティアの方を見た。
ティアは虚ろな目をしながら涙を流し、手から光を出し続けていた。
「いやだ、やめて、もう許して、お願いだから……」
ティアは小さく呟きながら手から光を放ち続ける。
間違いなくルアシスの仕業だ。
ルナは!? ルナはどうなったんだ!? まさか……
僕が最悪の、それでいて最も可能性の高い想像をして、それを受け入れられずに頭がパンク状態になった。
しばらくして、光が晴れた。僕が恐る恐るルナがいた方を見ると――
ルナが立っていた。
僕は大きく安堵の息を吐こうとして――次の瞬間、凍り付いた。
ルナの様子がおかしかったからだ。
どういう風におかしいのかというと、ルナが半透明になっているように見えるのだ。
目をこすってみても、見えるものは同じである。
そしてルナが、さらに光を出そうとしていたティアに向かって、さらに大きな光を出してティアを包んでいた。
恐らく自分の力を全て出し切ってティアの攻撃を止めようとしているのだろう。
あれはやばい。僕は直観的にそう思っていた。だから、
「やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
僕はそう叫んでいた。
しかしルナは小さく「ごめんね」と呟いてそれっきり黙り込んでしまう。
僕にはルナを止めることができなかった。
しばらくしてティアを包んでいた光は消えた。
ティアは気を失っていた。どうやらルナの攻撃? は成功したらしい。
しかしルナはさらに色が薄れて、今にも消えそうになっていた。
「ルナ!!!!!!!!!」
僕はルナの手をつかもうとするが、つかもうとしていた手はルナの手を虚しくすり抜けていった。
え? え? どういうこと?
困惑する僕にルナは小さく微笑みながら僕に話しかけてきた。
「彩人くん、ぼくの頼みを聞いてほしいんだ」
え? え? どういうこと?
僕の頭は未だにパニック状態だった。
ルナの言っていることが頭に入ってこない。
そして僕は、ルナが続いて放った言葉で、これがどういうことか理解してしまう。
「彩人くん、ぼくにはもう時間がないんだ……」
僕の頭は真っ白になった。
みーむ「なんだよ、みーぶって! 紛らわしいじゃないか!」
彩人「確かに、みーむとみーぶって紛らわしいよね……」
みーむ「他にもルアシスとルクシアとか、紛らしい名前多いんだよ! 作者は名前を付けるセンスが無さ過ぎだろ!」
彩人「確かに……でも、ルクシアはもう……」
ルクシア「呼んだ?」
彩人「何事もなかったように出てこないでよ! 読者が混乱するじゃないか!」
ルクシア「……せっかく出てきたのにその扱いはないと思うな」
彩人「ご、ごめんなさい」
ルクシア「それに私は――“ザザーザザザーー”――」
彩人「あ、あれ? ノイズが……」
みーむ「ちょっと、ボクを置いてきぼりにしないでよ! それより今、なんて言ったの?」
ルクシア「だから私は――“ザザーザザザーー”――」
ジーーーーー
プツン!
(ネタバレを検出したため、通信が切断されました)
お読みいただきありがとうございます。
明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。




