第2話 みーむ
その日も僕は訓練でボコボコにされた後、あたりを散歩していた。一見、村は平和だが、モンスターがよく出没するため最低限自分の身を守れるだけの戦闘力は必要なのだという。
僕は訓練によって動きは多少良くなったが、魔法は全く使えなかった。どうも適性がないらしい。
そんなことを考えながら歩いていると、
「みー」
という鳴き声が聞こえた。この世界にも猫がいるのかと思いながら近寄ってみると、そこには猫っぽい何かがいた。
いや、一見猫そのものなんだけど、ぽわっとしててぬいぐるみみたいというか、なんか現実感がないというか……
そんなことより大事なことがあった。その猫? は怪我をしているのだ。放っておこうと思ったが、良心がとがめて結局連れて帰ってしまった。
「この子、怪我してるんだけど」
「大変、早く治さなきゃ!」
勝手に捨て猫? を拾ってきたことを怒られるかと思ったがそんなことはなく、ルクシアの治癒魔法によって即座に治癒された。
おおー凄いなと感動しながら見ていたら、孤児院の子どもたちが寄ってきた。
「わー、かわいい!」
「触っていい?」
「名前は何にしよう?」
「みー、て鳴くから、みーむだ!」
大人気のようだ。そしていつの間にか名前が決定していた。
「それにしても猫なんて飼っていいの?」
「しょうがないでしょ、そのまま捨てるわけにもいかないし。その猫の行き先が決まるまで責任持って飼うのよ?」
「はーい」
ルクシアがそう言うのなら問題はないだろう。ただ、僕は拾ってきただけで飼いたいと言ってないんだけどな……まあ拾ってきてしまったので仕方ない。あと、何気なく言ったけど、これって猫なんだね……
で、猫改めみーむの世話は僕がすることになった。僕が拾ってきたからというのもあるけど、一番の理由はみーむが何故か僕に懐いていたからだ。
その日の夜、僕はみーむと一緒に寝ることになったのだが、寝ようとして目を閉じていると。
――逃げて。ここは危険だ。
という声が聞こえたような気がした。慌てて声の主を探したが見つからない。
気のせいだったのかな。
気持ち悪いがそう思うことにして再び寝ようとしていると。
とんとん。
僕の部屋の扉をノックする音がした。こんな夜中に誰だろうと思いながら「はーい。どちら様でしょうか」と言って扉を開けると。
「ごめん、起こしちゃった?」
ルクシアだった。
「えっと……どうしたの?」
「なんか眠れなくて……迷惑じゃなかったら散歩に付き合ってほしいんだけど……迷惑だった?」
「大丈夫だよ。僕も眠れなかったし。行こうか」
こうして僕とルクシアは2人で夜の村を散歩することになった。
僕たちは村を見下ろせるという高台までやってきた。さすがに夜でも明かりをつけているところはほとんどなかったが、そのかわり星空がよく見えた。
「わー、きれい!」
という言葉が出たのはどの口だったか。僕の口だね。ちょっと恥ずかしい。
「そうでしょ。ここはね、君に見せたかったとっておきの場所だったんだ」
そういって何故か得意げなルクシアさん。
てか、え、それってどういう……
「あやとくん、実はね、今日ここに呼び出したのは大事な用事があったからなの」
「え……」
え、これってまさか……
僕は頭が真っ白になって固まってしまった。
「実は私、君のことがね――」
ルクシアが何かを言いかけた、その時だった。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!
村の方から爆音が轟いた。
「え、今火の手が上がってるのって……」
「教会が!? あの子たちが危ない!」
ルクシアは駆け出して行ってしまった。僕も慌てて追いかけた。
――村は悲惨としか言い表わせないほどの惨状になっていた。
崩れて廃墟のようになった建物。そこにさっきまでの生活感はない。
――なにこれ。夢、だよね?
僕が呆然と立ち尽くしていると。
「危ない! 避けて!」
「え?」
ルクシアの声がしたので振り向くと、真横を炎の弾丸が通り過ぎていった。
誰が? と思って周りを見ると子どもが一人立っていた。孤児院にいる少年だ。
「あれ、どうしてこんなところにいる、の――」
僕がその子に話しかけていたら、
ごぼっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ
変な音が近くから聞こえてきて、同時に僕の体に違和感を感じたので自分の体を見てみた。
僕の腹に穴が空いていた。
少年が放った炎弾によるものだと理解するのに数秒かかった。
そしてそれを理解すると同時に、僕を猛烈な痛みが襲った。
「うわああああああああああああああああああああ!!!!」
熱い痛い熱い痛い痛い熱いあづういだいうぎゃあああああああああああああああああ
「あやとくん!? あやとくん!? しっかりして! そんな……嘘だよ嫌だよ! うわああああ!」
ルクシアが駆けつけて治癒魔法をかけるも効く気配はない。なぜなら僕の体が燃えているからだ。そしてルクシアもパニックに陥っていた。
そんな中とことこと近づいてくる影が一つ。
「みー」
みーむだった。
もし僕やルクシアに余裕があれば「こんな所で何してるの! 逃げて!!」と言っていたところだろうが、そんな余裕はなかった。
そして、その必要もなかった。
みーむは僕の方に飛び込んで、僕に思念を飛ばしてきた。
『生きたいか?』
疑問は尽きないが、今自分の身体が燃えているのだ。僕は迷わず『生きたい!』と答えた。
『苦難の道になるがそれでも良いか?』
『大丈夫だから! 早く! 死ぬ!』
『……良いだろう』
みーむがそう言うと僕にまとわりついていた炎は消え、体の失われた部分が修復される感覚があった。
さっきまで苦しんでいたのが嘘みたいに心身が冴え渡る。
「これは一体……」
『説明するのは後だ。今は目の前のことを片付けるぞ』
「あ、ああ……」
そうだった。自分の体内で響いたみーむの声で気づいたけど依然として命の危険は続いているんだ。見ると今まさに先ほどの少年がルクシアを狙い撃とうとしていたところだった。
「危ない!」
僕はとっさにルクシアをかばい炎弾の的になった。そして僕の体が燃える。ってまたかよ! 学習能力ないな僕は! てか死ぬ!
と思ったがその心配は不要だった。すぐに消火されたからだ。
そしてみーむが脳内で話しかけてきた。
『さあ、キミも力を使ってみるんだ!』
いや、無理だよ! どうやって使うんだよ!
『今キミは炎弾を受けただろ? それが使えるようになっているはずだ』
どうやって放つの?
『右手を前に突き出して「ブラストファイアー!」って叫べば出てくるよ』
え、ほんとに?
ま、ものは試しだ。
「ブラストファイアー!」
出た!
すぐに少年の炎弾で相殺されたけど、確かに出た! 嬉しい! なんて思ってる場合じゃないな。次が来た。
また炎弾を出すと無駄に体力を消耗しそうなのでここは回避。おお、出来た。これはみーむのおかげか訓練の成果か。
『おお、やるね。あ、ちなみにさっきの攻撃だけど、要はイメージできればいいから別に叫ぶ必要はなかったんだよ』
なんだそりゃ! 無駄に恥ずかしい思いをしちゃったじゃないか!ルクシアもいるのに!
こうして僕が少しばかり動揺している時、後ろから飛んできた氷の粒が僕の頬をかすった。くそ、今言わなくても良かったじゃないか……
『おっと、どうやら新手みたいだぞ』
そうだった。恥ずかしがっている場合じゃなかった。恥ずかしがらせたのはみーむだけど。
振り向くと白い服を着た少女が立っていた。そして無言で氷の粒を連射してきた。
氷の粒が僕を襲った。全身かすり傷になったけどそれだけだ。なんだ、思ったより大したことないな……
僕がそんなことを思っていたら、
がっっっっっっっっっ
巨大な氷の塊がぶつかってきた! 倒れた僕は起きあがろうとするが体がぴくりとも動かない。気がつけば手足がどこからか生えてきた蔦で拘束されていた。いつの間に! ふと目を向けてみると緑色の目をした少年の手から蔦が生えているのが見えた。また孤児院の子か! どういうことだ!
ルクシアも捕まってしまっている。助けなきゃ! と思ってなんとか抜け出そうともがくも抜け出せない。そうだ、さっき出した炎弾を出せば! そう思って念じるが出ない。なんで!?
『もっと強く念じるんだ!』
みーむはそう言うけどどうすれば……
仕方ない。やってみるか。
「ブラストファイアー!」
炎が出た! が、すぐに吹き消されてしまう。孤児院の少女が出した風によって。またか! どうして!?
再び炎を出そうとした時には蔦による拘束がさらに強まって、全く身動きが取れなくなっていた。そして体がだんだん冷えていく。全身が凍らされているんだと気づいた時には既に手遅れだった。
くそ、僕は死ぬのか。それとももっと酷い目に……ちくしょおおおおおおおおおおおお!
こうして僕の意識は闇に落ちていった。
お読みいただきありがとうございます。
あらすじ通りの展開になるまでしばらくかかると思いますが、毎日更新しますので、お付き合いいただけると嬉しいです。




