第19話 天使
そんな、ティアが……
村の孤児院にいて、神にさらわれたティアが、白い服を着て背中には翼を生やし、翼をはためかせて飛んでいた。
それは天使のようにも悪魔のようにも見えた。
ティアは一体何をされてしまったのか。もしやもう手遅れなのか……
「こ、これは……天使! まさか……」
ルナはそう言って絶句している。
……ていうか天使? 一見そう見えるけど、それにしてはすごく禍々しい気配がする。
と思っていたらみーむが教えてくれた。
『天使というのは、神が子どもを改造して作ろうとしている究極生命体……らしい。究極というのがどういうことかはわからないけど、一つ言えるのがとにかく強いということなんだ。……いや、強いなんてものじゃない。今のところ人と精霊が力を合わせても天使には歯が立たない。天使には今のボクたちを瞬殺できるほどの力があるんだ。だけど……』
……逃げるわけにはいかない……
『そうなんだよね。しかも……』
その天使の正体はティアである可能性が高い。偽者という可能性もあるが……
その答えは、例によって悪趣味な神の声によってもたらされた。
『そうだ。ティアは究極にして至高の存在、天使に生まれ変わったのだ! いや、まさかこんなにすんなりいくとは思わなかったぞ。しかも抜群に適性が高い。私はこれを使ってさらなる高みへと昇る。貴様らは喜んで礎になるがいい!』
神は一方的に意味不明な、しかも絶妙に人を苛立たせることを言う。もちろん嘘を吐いている可能性もあるが、あの天使には迂闊に手を出せなくなった。まあ、現状では敵わないので、手も足も出ないのだが……
「ふざけんな! 人は神の礎じゃないぞ! しかも意味がわからん! ちゃんと意味がわかるように説明しやがれ!!!」
僕は可能な限り声を張り上げた。しかし……
「おお、神よ! ありがとうございます!」
「光栄の極み!」
「ああ、これでやっと救われる……」
など、人々の聞くに堪えない言葉の数々に遮られてしまう。そして神の声は聞こえなくなってしまった。
僕が内心で苛立っていると……
上空にいるティアが、おもむろに手を人々の集まっている方に向けてかざした。
「や、やめろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「や、やめてええええええええええええええ!!!!!!!」
僕とルナの声が重なった。
しかし僕とルナの叫びも虚しく、ティアの手から光の柱が発射され……
次の瞬間、人々がいたと思われた場所がクレーターになっていた。
え……?
悲嘆にくれて泣き叫ぶ人、近くにいる人につかみかかる人、なぜか楽しそうしている人、神に許しを乞う人、諦めて運命を受け入れようとしている人、さっきまで叫んでいた人たち……一体どうなってしまったの……? まさか……
僕は頭が真っ白になった。
あまりの衝撃に、僕は周りの音が聞こえなくなっていた。あるいは本当に無音になってしまったのか……
僕が少しの間、茫然と立ち尽くしていると。
『あやと、ルナを連れて逃げるんだ! 敵う相手じゃない! 態勢を立て直すんだ! 早く!』
みーむが逃げるように促してくる。そうだ、ここで立ち尽くしている場合じゃない。逃げなきゃ。そうは思っているんだけど足が動かない。僕は震えている。どうしてしまったんだろうか。
僕が動けないでいると、みーむが合体を解いて出てきた、と思ったら思いっきり僕に体当たりしてきた。僕は転んだ。
いてて、何するんだよ……と思ったが、このおかげで僕は硬直が解けて動けるようになった。
立ち上がった僕は再びみーむと合体し、ルナの手をつかんで走り出した。
ちなみにルナは僕と反対方向に走ろうとしていた。何をしようとしていたのかは知らなかったが、なぜか僕はルナがティアの方へ行こうとしているように見えた。そして、ルナにそれをさせてはいけないような気がした。なぜかはわからなかったけど。
手をつかまれたルナは困惑の声を上げる。
「何するの!」
「逃げるんだよ! ティアは今の僕達が敵う相手じゃない! 一旦逃げて態勢を立て直すんだよ!」
「でも、そうすると村が……」
「僕たちがやられてしまったら意味ないだろ! 最悪でもルナには生きていてもらわないと困るんだ! だから逃げるんだよ!」
僕は声を張り上げる。
「え、なんで……?」
「僕がそうして欲しいからだよ! とにかく逃げるんだ!」
僕は強引にルナの手を引いて走る。
てか僕どさくさに紛れてとんでもないこと言ってないか?
しかしそれを気にしている暇もないので、とにかく走る。
走る、が……
ルナが転んでしまった。
僕が強引に引っ張ってしまったからだ!
でも今は後悔している暇はない。僕はルナの手を引いて強引に抱き起こす。
そこで僕は不意に気配を感じて上を見る。
上空にはティアがいた。
もとより逃げることなんて不可能だったのだろう。それでも諦めるわけにはいかないんだ。
僕は逃げようとするが……
『……ルナ? アヤト?』
ティアの方から困惑したような、悲しげな声が聞こえてきた。
気になって再び上空を見上げると、ティアはさっきまでと同じ無表情だ。相変わらず無言を貫いている。さっきのは幻聴だったのだろうか?
しかし気にしている場合じゃない。
ティアが自然な動作で手を僕達の方へ向けてきた。
逃げようとしたが、間に合わない。
そう思った僕は咄嗟にルナを突き飛ばしていた。
「あ、彩人くん! ――」
ルナが焦った顔で何かを言いかけたが、それを聞き取ることなく――
僕は光の柱に呑まれた。
彩人「あ、これ欲しい! でもこれ買うと小遣いが……」
天使『買っちゃいなよ! 今買わないと売り切れて後悔しちゃうよ!』
彩人「そうか……買っちゃおうかな?」
悪魔『いや、だめだ! これ本当に必要? 違うでしょう? なら買っちゃだめだよ!』
彩人「天使と悪魔逆じゃない!? ……じゃなくてどっちもみーむだよね? 勝手に合体して僕を惑わすのやめてくれない?」
みーむ「(合体を解いて)いやあ、ちょっとやってみたくなって」
彩人「何? みーむは人を惑わすために生まれてきたの?」
みーむ「何のために生まれてきたのはボクにもわからないけど……彩人もそうだよね?」
彩人「それもそうか」
みーむ「で? 結局それ買うの?」
彩人「……やめとく」
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